1)飽和炭化水素(アルカン)
直鎖の飽和炭化水素(二重結合や三重結合を持っていない炭化水素)はアルカンと総称される。メタン系炭化水素またはパラフィンとも呼ばれる。
アルカンの一般式はCnH2n+2で表される。また、これらの共通の一般式で表される一群を同族体という。
アルカンの命名法
①直鎖のアルカンは炭素数が1~4(C1~C4)までは慣用名を用いC5以上は炭素の数を示すギリシャ語の数詞の語尾をane(アン)にして命名する。
炭素数(n) |
分子式 |
名称 |
CnH2n+2 |
||
1 |
CH4 |
メタン(慣用名) |
2 |
C2H6 |
エタン(慣用名) |
3 |
C3H8 |
プロパン(慣用名) |
4 |
C4H10 |
ブタン(慣用名) |
5 |
C5H12 |
ペンタン |
6 |
C6H14 |
ヘキサン |
7 |
C7H16 |
ヘプタン |
8 |
C8H18 |
オクタン |
9 |
C9H20 |
ノナン |
10 |
C10H22 |
デカン |
②枝分かれ(側鎖)のあるアルカンは分子の中で最も長い炭素鎖を母体として命名する。そのとき側鎖の位置と数を付けて表す。
問題36 次の炭化水素を命名せよ。
① 2,2,4-トリメチルペンタン この場合、母体の番号は右から。
② 4-エチル-3-メチルオクタン 側鎖はアルファベット順に示す。
☆ 名前から構造を言えるようにもしておこう。
構造式を書くとき、側鎖は同一の炭素原子であれば、上下左右どこにつけても同じ。
アルカンの性質
1、一般的性質
アルカンは分子量が大きいほど融点や沸点が高くなる。室温で炭素数が4までは気体、5以上で液体、16~18以上で固体となる。アルカン分子には極性がないため、水には溶けない。しかし、ベンゼンやジエチルエーテルなどの有機溶媒には良く溶ける。
2、アルカンの反応
アルカンは塩素や臭素と混ぜ光を当てると、分子中の水素原子が次々と塩素原子や臭素原子と置き換わった化合物になる。このように、分子中の原子が他の原子や原子団と置き換わる反応を置換反応という。また、塩素化合物ができる反応を塩素化という。またハロゲン化物ができる反応を総称してハロゲン化という。
☆塩素Clや臭素Brなどのハロゲン原子が置換する置換反応を特にハロゲン化という。-Cl(クロロ) ,-Br(ブロモ) という。
問題37 C2H5BrとBr2が光の存在下で置換反応するときに、生成すると考えられる全ての物質の構造式と名称を答よ。
注意) Brのつく位置は同一の炭素原子であれば、上下左右どこでも同じ。実際には立体構造をしていて、また、単結合は自由回転できる(有機化合物の特徴のページ参照)から。例えば、次の2つは全く同じものである。
アルカンの異性体
分子式が同じで、構造式が異なる化合物どうしを互いに構造異性体という。(有機化合物の特徴のページも参照)
問題38 C6H14の分子式で表される化合物の異性体の構造と名称を答えよ。
シクロアルカン
命名法
環状の炭化水素は炭素数の同じ直鎖状の炭化水素名に接頭語として「シクロ」をつける。
シクロアルカン… 環状のアルカン。不飽和結合(二重結合や三重結合)を持たない環状の炭化水素一般式はCnH2nで表され、性質はアルカンと似ており、置換反応を起こしやすい。
<補足> 1、炭素数が3と4のシクロアルカン(シクロプロパンとシクロブタン)は他の炭素数のシクロアルカンに比べて不安定(壊れやすい)である。なぜなら、通常のC-C結合の結合角は約110゜であるが、シクロプロパンとシクロブタンの場合は構造が平面構造しかとれないのでそれぞれ60゜, 90゜となるためである。炭素数が4以上の場合は立体的な構造をとれるため約110゜となれ安定に存在できる。
2、シクロヘキサンの場合は立体構造の違いにより、いす形と舟形が存在する。
いす形の方が安定で常温ではほとんどがいす形として存在する。
2)不飽和炭化水素1(アルケン)
アルケン
エチレン系炭化水素またはオレフィンともいう。分子内に二重結合を1つ持つ炭化水素をアルケンという。
一般式はシクロアルカンと同じ。・・・ 構造異性体の関係になる。
アルケンの立体構造と幾何異性体(シス-トランス異性体)
二重結合の部分は平面構造で、二重結合は回転できないので、次のような幾何異性体が存在する。
二重結合をはさんで、同種の原子や原子団が同じ側にあるものをシス型,反対側にあるものをトランス型という
アルケンの命名
炭素数の数が同じアルカンの名前の語尾を-ane(アン)から-ene(エン)に変えて命名する。
炭素数 |
アルカン |
アルケン |
||
分子式 |
名称 |
分子式 |
名称 |
|
(CnH2n+2) |
(CnH2n) |
|||
1 |
CH4 |
メタン |
|
|
2 |
C2H6 |
エタン |
C2H4 |
エチレン(慣用名) |
3 |
C3H8 |
プロパン |
C3H6 |
プロピレン(慣用名) |
4 |
C4H10 |
ブタン |
C4H8 |
ブテン |
5 |
C5H12 |
ペンタン |
C5H10 |
ペンテン |
6 |
C6H14 |
ヘキサン |
C6H12 |
ヘキセン |
7 |
C7H16 |
ヘプタン |
C7H14 |
ヘプテン |
8 |
C8H18 |
オクタン |
C8H16 |
オクテン |
9 |
C9H20 |
ノナン |
C9H18 |
ノネン |
10 |
C10H22 |
デカン |
C10H20 |
デケン |
C数が4以上のものは炭素原子の番号を二重結合が小さくなるように付け、二重結合の位置を示す。命名する際には、二重結合を含んだ最も長い炭素鎖を母体として命名する。
アルケンの異性体
一般式CnH2nから、シクロアルカンも異性体になる。幾何異性体が存在する場合がある。
問題39 C5H10の分子式で表される化合物の異性体の構造と名称を答えよ。
アルケンの製法
アルケンは工業的には、触媒の存在下で炭素数の大きなアルカン(ナフサなどという)を、熱分解して作る。このような操作をクラッキングという。
例) CH3-CH2-CH2-CH2-CH3 → CH3-CH=CH2 + CH2=CH2
実験室では、例えばエチレンはエタノールに濃硫酸を加え、約170℃以上で加熱して発生させる。(濃硫酸の脱水作用)
アルケンの反応
<付加反応>
二重結合は単結合に比べ、構造的に歪みが大きい(無理な結合をしている)ので、二重結合うちの1本は、切れやすく、他の原子や原子団と結合しやすい。このように、二重結合に他の原子や原子団が結合する反応を付加反応という。
<付加重合>
エチレンやプロピレンは特定の条件下で多数の同じ分子どうしが付加反応を行い、ポリエチレンややポリプロピレンを生じる。
このように、分子量の小さな1分子から分子量の大きな分子を作る反応を重合といい、特に付加反応によって進む重合を付加重合という。
<酸化反応>
アルケンを過マンガン酸カリウム(KMnO4)やオゾン(O3)によって酸化すると、
二重結合が開裂してアルデヒドやケトンが生成する。
シクロアルケン
環状のアルケン。炭素数の同じ直鎖状のアルケン名に接頭語として「シクロ」をつけて命名する。アルケンと同様、付加反応を行う。
3)不飽和炭化水素2(アルキン)
アルキン
アセチレン系炭化水素ともいう分子内に三重結合を1つ持つ炭化水素をアルキンという。
アルキンの命名
炭素数の同じアルカンの名前の語尾を-ane(アン)から-yen(イン)に変える。基本的にアルケンと同様の方法で命名できる。
炭素数 |
アルカン |
アルキン |
||
分子式 |
名称 |
分子式 |
名称 |
|
(CnH2n+2) |
(CnH2n-2) |
|||
1 |
CH4 |
メタン |
|
|
2 |
C2H6 |
エタン |
C2H2 |
アセチレン(慣用名) |
3 |
C3H8 |
プロパン |
C3H4 |
プロピン |
4 |
C4H10 |
ブタン |
C4H6 |
ブチン |
5 |
C5H12 |
ペンタン |
C5H8 |
ペンチン |
6 |
C6H14 |
ヘキサン |
C6H10 |
ヘキシン |
7 |
C7H16 |
ヘプタン |
C7H12 |
ヘプチン |
8 |
C8H18 |
オクタン |
C8H14 |
オクチン |
9 |
C9H20 |
ノナン |
C9H16 |
ノニン |
10 |
C10H22 |
デカン |
C10H18 |
デシン |
アセチレンの製法
アセチレンはカーバイト(炭化カルシウムCaC2)に水を反応させて作る。
反応式 CaC2 + H2O → CH≡CH + Ca(OH)2
アルキンの反応
アルキンは不飽和結合(三重結合)を持つため、アルケンと同様に付加反応をしやすい。以下にアセチレンの反応を考える。
①水素との反応
反応式 CH≡CH + H2 → CH2=CH2
②ハロゲン(F2,Cl2,Br2,I2)との反応
反応式 CH≡CH + Cl2 → CH2Cl=CH2Cl (1,2-ジクロロエチレン)
③塩化水素との反応
反応式 CH≡CH + HCl → CH2=CHCl (塩化ビニル)
④シアン化水素(HCN)との反応
反応式 CH≡CH + HCN → CH2=CHCN (アクリロニトリル)
⑤酢酸との反応
反応式 CH≡CH + CH3COOH → CH2=CHOCOCH3 (酢酸ビニル)
⑥水との反応
反応式 CH≡CH + H2O → CH3-CHO (アセトアルデヒド)
⑦アセチレン3分子による付加重合
問題40 次の反応系統図を完成させよ。