1)医薬品
医療に用いられる化学物質を医薬品という。医薬品が人間など動物に対して与える作用を薬理作用という。医薬品の多くは、合成有機化合物・微生物が生産する物質・無機化合物である。また、動植物などの天然素材を、そのままか、乾燥させて用いるような医薬品を生薬という。
表.これまでに学習した物質と薬理作用
薬理作用 |
物質 |
解熱鎮痛作用 |
アセトアニリド,アセチルサリチル酸 |
消炎鎮痛作用 |
サリチル酸メチル |
制酸作用 |
炭酸水素ナトリウム,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム |
麻酔作用 |
クロロホルム,エーテル,エチレン |
殺菌消毒作用 |
塩素,過酸化水素,アンモニア,エタノール,フェノール,クレゾール |
駆虫作用 |
ナフタレン,p-ジクロロベンゼン |
サリチル酸系医薬
ヤナギの樹皮から得られたサリシンという物質には、解熱鎮痛作用がある。これと同じ作用を示すサリチル酸の化合物群のことをサリチル酸系医薬いう。サリチル酸そのものでは副作用が強いため、アセチル化したアセチルサリチル酸が解熱鎮痛・抗炎症剤として使われている。サリチル酸メチルは消炎外用薬として使われる。
アミド系医薬
アニリンと無水酢酸から縮合すると、アミド結合を有するアセトアニリドC6H5-NHCO-CH3が得られる。アセトアニリドは解熱鎮痛剤に用いられたが、副作用が少ないフェナセチンC2H5-O-C6H4-NHCO-CH3に代わった。またスルファニルアミドH2N-C6H4-SO2NH2には抗菌作用があることから、色々なスルファニルアミドの誘導体(サルファ剤という)H2N-C6H4-SO2NH-R(R=Hでスルファニルアミド)が開発された。サルファ剤は細菌性の病気の化学療法に用いられる。
抗生物質
抗生物質は特定の微生物によって生産され、他の微生物の発育・代謝を阻害する物質である。ペニシリンは、青カビが生産する抗生物質で、細胞壁の合成を阻害する物質である。ブドウ球菌・連鎖状球菌・肺炎菌などの感染症に効き、細胞壁を持たないヒトには毒性が低い。ストレプトマイシンは、ペプチドの合成過程を阻害する抗生物質で、広い細菌に効果があり、最初の結核治療薬として開発された。細菌類は突然変異などによって、その抗生物質に耐性を持ってしまうことがある。このような耐性菌には新しい抗生物質の開発が必要となる。抗生物質はすぐに耐性菌が現れるという問題点がある。
薬理作用のしくみ
医薬品は、人体組織や細菌の体内で、結合することによって薬理作用を示す。医薬品分子が結合する分子を受容体という。受容体は酵素や、その他のタンパク質であることが多い。医薬品分子と受容体は主にイオン結合,水素結合,分子間力によって結合する。従って、似た構造をもつ化学物質は同じような薬理作用を示す。
化学療法
体内に侵入した病原菌には毒性を示し、人体には毒性を示さない性質を選択毒性という。この性質をもつ物質を用いて治療するという考えに基づいた治療法を化学療法という。抗ガン剤治療などは化学療法の例である。
副作用
薬の過剰服用によって、中毒症などの副作用の症状が現れる。薬物の適正量を間違えると、死に至ることもある。適正量は年齢・性別の他、特異体質・アレルギーなどの体質によっても違ってくる。また、薬の併用によって副作用が現れることもある。
2)肥料
肥料
植物の育成を促進し、生産量を高めるために用いられる化学物質が肥料である。肥料は生産手段・化学組成・作用・形状などの違いにより、さまざまな分類がある。生産手段による分類では天然肥料,化学肥料、化学組成による分類では有機質肥料,無機質肥料、作用による分類では直接肥料,間接肥料といった分類がなされている。
植物の必須元素
植物の必須元素は16種類あり、植物体内に存在する割合では、C,O,H,N,K,Ca,Mg, P,S,Cl,Fe,Mn,Zn,B,Cu,Moの順になっている。Cl,Fe,Mn,Zn,B,Cu,Moは合計しても全体の0.05%未満で、これらの7種を微量元素という。必須元素のうち、土壌中から吸収されるものはN,P,Kで多くの土壌で不足しがちである。この3種は特に土壌に供給する必要があり、そのための肥料が窒素肥料(主成分:アンモニウム塩),リン酸肥料(主成分:リン酸塩),カリ肥料(主成分:カリウム塩)である。この3つを肥料の三要素という。
複合肥料
三要素のうち、1成分しか含まないものを単肥、2成分以上含むものを複合肥料という。複合肥料のうち、2成分以上の肥料を機械的に混ぜたものを配合肥料、抽出などの化学的処理によって得たN,P,Kを2成分以上含ませたものを化成肥料という。
肥料と窒素の循環
自然界における窒素は、形を変えながら自然界を循環している。これを窒素リサイクルという。
窒素固定
空気中の約80%は窒素である。この窒素を還元してアンモニアを合成することを窒素固定という。アゾトバクター,クロストリジウム,根粒菌といった微生物、下等植物のラン藻類は大気中の窒素からアンモニウムイオンを合成することができる。これを生物的窒素固定という。また工業的窒素固定にはハーバー・ボッシュ法がある。
土壌中の肥料の変化
イネ科の植物などはアンモニウムイオンを直接に摂取できるが、多くの植物は硝酸イオンの形でしか吸収できない。窒素肥料のアンモニウムイオンは亜硝酸菌によって、亜硝酸イオンに、さらに硝酸菌によって硝酸イオンに変化し、これを植物が吸収する。このアンモニウムイオン→亜硝酸イオン→硝酸イオンの過程を消化という。根から吸収された硝酸イオンは、植物体内で再びアンモニウムイオンになる。アンモニウムイオンは、光合成によってできたデンプンなどの炭水化物が分解されてできる簡単な有機物と反応して、アミノ酸となり、これがタンパク質などの化合物に変わっていく。この過程を窒素同化という。
3)ファインケミカルス
特定の有機物質のきわだった特徴を生かした製品はファインケミカルスとよばれる。医薬品をはじめ、香料・界面活性剤・接着剤・潤滑油・液晶・染料・色素・溶剤・可塑剤・安定剤などの応用製品がある。