中和反応
酸と塩基が反応すると塩と水が生成する。この反応を中和反応という。水は、酸のH+と塩基のOH-から生じる。塩とは酸から生じる陰イオン(H+が外れた残り)と塩基から生じる陽イオン(OH-が外れた残り)が結合した化合物をいう。
(例) 酸 + 塩基 → 塩 + 水
化学反応式 HCl + NaOH → NaCl + H2O
(H+ + Cl-) (Na+ + OH-) (Na+ + Cl-) (H+ + OH-)
塩酸 水酸化ナトリウム 塩化ナトリウム 水
塩の名称は、「物質を構成する粒子 9)イオンの名称とイオン式 11)イオンからなる物質」を参照。
中和反応の反応式をつくる
例 塩酸と水酸化カルシウム
① 塩酸と水酸化カルシウムを化学式にして反応式の左辺に置く。
HCl + Ca(OH)2 →
② 塩酸と水酸化カルシウムをイオンに分解してみる。(頭の中でやってもよい)
HCl + Ca(OH)2 →
(H+ + Cl-) (Ca2+ + 2OH-)
③ H+とOH-の数が合うように係数をつける。
(中和はH+1つとOH-1つでH2Oをつくるので、数を合わせなければならない)
2HCl + Ca(OH)2 →
2(H+ + Cl-) (Ca2+ + 2OH-)
④ 酸の陰イオンと塩基の陽イオンを結合させ、H+とOH-でH2Oをつくる。係数もつける。
2HCl + Ca(OH)2 → CaCl2 + 2H2O
2(H+ + Cl-) (Ca2+ + 2OH-)
問題 次の酸と塩基の中和反応を化学反応式で示せ。また塩の名称を答よ。
1)硫酸と水酸化バリウム
H2SO4 + Ba(OH)2 → BaSO4 + 2H2O 塩:硫酸バリウム
2)硝酸と水酸化アルミニウム
3HNO3 + Al(OH)3 → Al(NO3)3 + 3H2O 塩:硝酸アルミニウム
3)酢酸と水酸化ナトリウム
CH3COOH + NaOH → CH3COONa + H2O 塩:酢酸ナトリウム
(酢酸は後ろのHが電離するので注意)
4)塩化水素(塩酸)とアンモニア
HCl + NH3 → NH4Cl 塩:塩化アンモニウム
(アンモニアの場合OHが無いので、水はできない)
化学式中の( )の有無は、「物質を構成する粒子 9)イオンの名称とイオン式 11)イオンからなる物質」を参照。
塩の性質
塩とは酸から生じる陰イオン(H+が外れた残り)と塩基から生じる陽イオン(OH-が外れた残り)が結合した化合物をいう。つまり、塩は酸・塩基の残り物どうしが結合したものといえる。従って、塩を見れば、どんな酸と塩基から生じたものか分かる。
元の酸 |
残り物(陰イオン) |
元の塩基 |
残り物(陽イオン) |
||
HCl |
Cl- |
塩化物イオン |
NaOH |
Na+ |
ナトリウムイオン |
HNO3 |
NO3- |
硝酸イオン |
KOH |
K+ |
カリウムイオン |
CH3COOH |
CH3COO- |
酢酸イオン |
Ca(OH)2 |
Ca2+ |
カルシウムイオン |
H2SO4 |
SO42- |
硫酸イオン |
Ba(OH)2 |
Ba2+ |
バリウムイオン |
HSO4- |
硫酸水素イオン |
Al(OH)3 |
Al3+ |
アルミニウムイオン |
|
H2CO3 |
CO32- |
炭酸イオン |
NH3 |
NH4+ |
アンモニウムイオン |
HCO3- |
炭酸水素イオン |
|
|
||
H3PO4 |
PO43- |
リン酸イオン |
☆硫酸水素イオン,炭酸水素イオンはそれぞれ、2価の酸である硫酸,炭酸のHが1つ残っているイオン
問題 KNO3,Na2SO4,MgCl2,CH3COONa,NaHSO4,(NH4)2SO4は、どのような酸と塩基からできているか。
KNO3 K+とNO3-だから、水酸化カリウムと硝酸
Na2SO4 Na+とSO42-だから、水酸化ナトリウムと硫酸
MgCl2 Mg2+とCl-だから、水酸化マグネシウムと塩酸
(塩基は上の表に無くても、「水酸化~」にすればよい。)
CH3COONa Na+とCH3COO-だから、水酸化ナトリウムと酢酸
NaHSO4 Na+とHSO4-だから、水酸化ナトリウムと硫酸
(NH4)2SO4 NH4+とSO42-だから、アンモニアと硫酸
塩の名称,化学式は、「物質を構成する粒子 9)イオンの名称とイオン式 11)イオンからなる物質」を参照。
塩の分類(形式的分類)
正塩(中性塩)・・・・・・H+もOH-も残ってない塩(水溶液が中性を示すということではない)
NaCl, K2SO4, (NH4)2SO4 など
酸性塩・・・・・・酸のH+が残った塩(水溶液が酸性を示すということではない)
NaHSO4 硫酸水素ナトリウム, NaHCO3 炭酸水素ナトリウムなど 名称が「・・・酸水素~」となる。
塩基性塩・・・・・・塩基のOH-が残った塩(水溶液が塩基性を示すということではない)
Cu(OH)Cl 塩化水酸化銅など名称に「・・・水酸化~」となる。
塩の加水分解と液性
強酸と強塩基からなる正塩 → 中性を示す。
強酸と強塩基からなる酸性塩 → 酸性を示す。
弱酸と強塩基からなる正塩・酸性塩 → 塩基性を示す。
強酸と弱塩基からなる正塩・酸性塩 → 酸性を示す。
☆基本的に強い方の性質をいえばよい。強酸と強塩基からなる酸性塩ついてだけ注意。
酸・塩基の強弱は、「酸・塩基 3)酸・塩基の強弱」を参照。
問題 次の塩を①正塩、②酸性塩、③塩基性塩に分類せよ。
塩化水酸化マグネシウム、硝酸鉄(Ⅲ)、硫酸水素カリウム、酢酸カルシウム
順に③,①,②,①
問題 次の塩の水溶液の液性を答よ。
硫酸カリウム 硝酸アンモニウム 炭酸水素ナトリウム 塩化カルシウム 硫酸水素カリウム
硫酸カリウム 強酸と強塩基の正塩だから、中性
硝酸アンモニウム 強酸と弱塩基の正塩だから、酸性
炭酸水素ナトリウム 弱酸と強塩基の酸性塩だから、塩基性
塩化カルシウム 強酸と強塩基の正塩だから、中性
硫酸水素カリウム 強酸と強塩基の酸性塩だから、酸性
塩の生成(酸と塩基の中和以外の反応)
酸と塩基の中和以外でも塩ができる。次の酸と塩基の中和と比べて考えよう。
H2SO4 + Ca(OH)2 → CaSO4 + 2H2O
①酸と塩基性酸化物(金属の酸化物 例CaO)の反応
中和反応の一つ。CaOはCa(OH)2と比べると合、Hが少ないので、生成する水が減る。
例 H2SO4 + CaO → CaSO4 + H2O
②酸と金属の単体(例Ca)の反応
CaはCa(OH)2と比べるとHもOもないので、H2Oはできない。酸のHだけでH2が発生する。
例 H2SO4 + Ca → CaSO4 + H2
③酸性酸化物(非金属の酸化物 例SO3)と塩基の反応
中和反応の一つ。SO3はH2SO4と比べると、ちょうどH2Oの分原子が少ない。そのため、生成する水が減る。
例 SO3 + Ca(OH)2 → CaSO4 + H2O
④酸性酸化物(例SO3)と塩基性酸化物(例CaO)の反応
中和反応の一つ。SO3はH2SO4と比べるとH2Oが少なく、CaOはCa(OH)2と比べるとHが少ないので、水ができない。
例 SO3 + CaO → CaSO4
⑤ 金属の単体と非金属の単体
塩はイオンからなる物質なので、金属(陽イオンになる)と非金属(陰イオンになる)の単体を直
接反応させてもできる。
例 S + Ca → CaS (この場合O原子がないのでCaSO4にはならない)
6)中和滴定
中和点
酸から放出されたH+と塩基から放出されたOH-が過不足なく反応した(完全に中和した)とき、中和点に達したという。
中和の公式
Cmol/l,Vl,a価の酸とC'mol/L,V'L,b価の塩基が完全に中和したとき
(放出されるH+のモル数)=(放出されるOH-のモル数)だから、
問題
1)0.010mol/Lの塩酸10mLを完全に中和させるのに必要な0.020mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液は何mLか。
C×V×a = C'×V'×bより、
0.010×10×1 = 0.020×x×1
x = 5.0 [mL]
2)水酸化カルシウム7.4gを中和するには、2.0mol/Lの塩酸は何mL必要か。Ca(OH)2=74
C×V×a = C'×V'×bで、C'×V'は水酸化カルシウムのモル数になることを利用する。
Ca(OH)2=74より、Ca(OH)27.4g == 0.10 [mol]
2.0×x×1 = 0.10×2
x = 0.010[L]=100 [mL]
3)0.010mol/Lのシュウ酸水溶液10mLを中和するのに、水酸化ナトリウム水溶液を10mL要した。この水酸化ナトリウム水溶液のモル濃度を求めよ。
C×V×a = C'×V'×bより、
0.010×10×2 = x×10×1
x = 0.020 [mol/L]
中和滴定・・・酸や塩基の濃度を中和反応を利用して求めること。
滴定曲線と指示薬
酸(塩基)に塩基(酸)を少量ずつ加えていく(滴定する)と、混合溶液のpHは少しずつ変化する。指示薬とはpHの変化によって色が変化する試薬で、中和点を求めるのに使われる。
メチルオレンジ :変色域(pH3.1~4.4)(赤)→(黄)
フェノールフタレイン:変色域(pH8.3~10.0)(無)→(赤)
滴定曲線: 中和滴定を行ったときのpHの変化を表したグラフを滴定曲線という。
|
A:強酸に強塩基を少量ずつ加える 例(0.1mol/L HClと0.1mol/L NaOH)
B:強酸+弱塩基を少量ずつ加える 例(0.1mol/L HClと0.1mol/Lアンモニア水)
C:弱酸+強塩基を少量ずつ加える 例(0.1mol/L CH3COOHと0.1mol/L NaOH)
D:弱酸+弱塩基を少量ずつ加える 例(0.1mol/L CH3COOHと0.1mol/Lアンモニア水) |
すなわち、上の曲線中の①~④で適当な指示薬は
A フェノールフタレイン,メチルオレンジともに可 B メチルオレンジ C フェノールフタレイン
D フェノールフタレイン,メチルオレンジともに不可
中和滴定の実験の原理
濃度が分かっている酸(または塩基)を用いて、濃度未知の塩基(または酸)の濃度を測定する実験のことを中和滴定という。
必要な器具・・・メスフラスコ,ホールピペット,ビュレット,コニカルビーカー
・メスフラスコ
正確な濃度の溶液を調整するために用いる。化学天秤で正確にはかり取った試料を純水に溶かし、これを完全にメスフラスコに移し、さらにその標線まで純水を加えると、メスフラスコに表示されている体積の水溶液を調整できる。
・ホールピペット
一定量の液体を正確にはかり取る器具。標線まで液体を吸い上げ、この液体を自然流下させたとき、流出した液体の体積がホールピペットに表示された体積になる。
・ビュレット
滴下した溶液の体積を正確にはかり取るための器具。滴下する前の体積を読み取り、ついで当量点に達したときの体積を読み取ると、それらの差から滴下した溶液の体積をはかり取ることができる。
・コニカルビーカー
振っても液体が飛び出さないように、上部の口をすぼめたビーカー。三角フラスコで代用可。
注意1・・・ ホールピペットとビュレットを使用するときは、溶液の濃度変化を避けるため、これらを使用する溶液ですすいだ後使用する。これを共洗いという。メスフラスコとコニカルビーカーを使用するときは純水でよくすすいだ後、ぬれたまま使用してよい。
注意2・・・ 目盛りの読み方。水溶液の液面は、水の表面張力に
よって下にへこんでいる。体積を測りとるときは、目
盛りを液面のへこんだ部分にあわせる。