1.セルロイド(celluloid)
セルロイドは最初に開発された熱可塑性樹脂である。
ニトロセルロース(nitrocellulose)と樟脳などから合成され、セルロイド製のピンポン玉やセルロイド製の映画フィルム、人形が代表的な製品です。
初期のセルロイド(硝酸セルロース)は極めて燃え易く、耐久性がないという欠点があることから現在ではほとんど使用されていません。
原料のニトロセルロースは、セルロースを硝酸と硫酸との混酸で処理して得られる白色または淡黄色の綿状物質で、主な用途はラッカー塗料、無煙火薬です。
1832年にフランスのブラコント(Henri Braconnot仏)が澱粉や綿などを濃硝酸に入れて暖めて溶解させ、水洗いすると強燃性の白い粉末状のニトロセルロースを発見しました。
1845年にスコービン(Christian Friedrich Schonbeinスイス)は硝酸と硫酸の混酸で木綿を処理する工業的製法を開発し、硝酸セルロースの量産化に成功し、火薬としての応用が始まりました。
1856年にイギリス人アレキサンダー・パークス(Alexander Parkes)によって象牙のような合成物(synthetic ivory名称pyroxlin)が初めてつくられました。これが、セルロイドという商品名でよばれる樹脂でした。
1862 年に開催されたロンドン万覧(Great International Exhibition in London)に商標「Parkesine」として展示され話題を集めました。
1863年にハイアット(John Wesley Hyatt)が"celluloid"(セルロイド)という名前を使用しました。
1868年にハイアット(John Wesley Hyatt)はセルロイド(硝酸セルロース)を発明(us50359:1865,us88633: 1869)しましたが、最初はあまり硬いものではなく、写真用のフィルムに使用され、樟脳を加えることで硬くすることができるようになり、象牙の替わるビリヤードの玉も作ることができるようにりました。
1870年にアメリカの製造会社(Celluloid Manufacturing Company (originally the Albany Dental Plate Company))の商標としてセルロイドという商品名が登録されました。
1900年頃から映画用のフィルムにもセルロイドが使用されるようになりました。
2.エボナイト
エボナイトは最初に開発された熱硬化性樹脂(Thermosetting resin)です。
エボナイト(ebonite)は生ゴムを長時間加硫(含硫率30%-40%)して硬化させたもので、外観が黒檀(ebony)に似ていることからエボナイトと呼ばれるようになりました。
1851年にネルソン・グッドイヤー(Nelson Goodyear米)がエボナイトを開発(特許us8075)し、チャールズ・グッドイヤー(Charles Goodyear and Thomas Hancock)等によって商業化されました。
エボナイトは最初に開発された熱硬化性樹脂(Thermosetting resin)で、機械的強度が高く、電気的絶縁性も極めて高いことから、かつては電気器具の絶縁材や歯科用の材料として使用されてきましたが、現代ではそれのほとんどが加工の容易なプラスチック等に換えられ、残っているのはボウリングの球や万年筆の軸、楽器のマウスピース等です。
3.ベークライト(bakelite)
フェノール(phenol石炭酸)とホルマリンから製造する熱硬化性樹脂(フェノール樹脂)で、紙にパルプ等に滲み込ませ、加熱、加圧して固めたもので、熱に強く,化学薬品に侵されにくく,電気的な絶縁性があることから,電球のソケットや電話機などに広く使われました。
フェノールは常温で白色の固体で、薬品臭を持ち、弱い酸性を示す有機化合物です。石炭を原料としてコールタールを処理する過程で得られる副産物で、「石炭酸」と呼ばれています。
ホルマリン(formalin)はホルムアルデヒド (formaldehyde) の37% 以上の水溶液で、更に希釈した溶液は消毒用に用いられています。
ホルムアルデヒドは毒性が強く、刺激臭を持つ無色の気体で、酸化メチレンとも呼ばれ、アルコールの一種であるメタノール (methanol) を空気中で触媒作用によって酸化させて作られます。
1872年にアドルフ・フォン・バイヤー(Adolf von Baeyer独)はフェノールとホルマリンの反応によってできる樹脂(フェノール樹脂)を発見した。
1899年にアーサー・スミス(Arthur Smith)は固体フェノール樹脂(エボナイトebonite)の製造方法に関する英国特許(Britain patent 16274 phenol-aldehyde regins) と米国特許(us643012)を取得しています。
1907年にレオ・ヘンドリック・ベークランド(Leo Hendrik Baekeland米)が紙にパルプ等にフェノール樹脂を滲み込ませ、加熱、加圧して固めたベークライト(Baekelite)を発明し、ドイツ特許(1908: DRP 233803)を申請しました。
1909年にベークランドは米国特許(us942,809 : 1909/11/7、app1909/9/17)を取得しました。
1910年にベークライト社(General Bakelite)を設立しフェノール樹脂にベークライトと命名しました。
1911年にベークライト社は工業生産を開始しました。
1911年に日本でも高峰譲吉が特許権実施の承諾を受け三共株式会社品川工場で製造を開始しました。
4.ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride PVC)
ポリ塩化ビニルは塩化ビニル(vinyl chlorideクロロエチレンchloroethylene) を重合したもので、熱を加えると軟かくなる(熱可塑性)合成樹脂です。塩化ビニルを重合させただけでは、硬くて脆く、紫外線などに当ると劣化しやすいために、柔らかくする成分(可塑剤)と、劣化を防ぐ成分(安定剤)を加える必要があります。
硬くも軟かくもなり、電気的には絶縁物であり、非常に安価なことから電線被覆、衣料、包装材等に広く利用されています。
1835年にユストゥス・フォン・リービッヒ(Justus von Liebig仏)とアンリ・ヴィクトル・ルニョー(Henri Victor Regnault仏)によって塩化ビニルが発見された。
1838年はルニョー(Henri Victor Regnault仏)は塩化ビニルの固体を日光にさらしておくと重合体ができることを発見しています。
1914年にグリースハイム電子化学工場(firm of Chemische Fabrik Griesheim-Elektron独)のフリッツ・クラッテ(Fritz Klatte独) はポリ塩化ビニルを合成する方法を開発し特許(us1241738)を申請し、ポリ塩化ビニルを商品化しようとしましたが、硬くて脆いことから断念しました。
1928年にBFグッドリッチ社(B.F. Goodrich Company米)のワルド・シーモン(Waldo Semon)はさまざまな添加物を混ぜ合わせることで柔軟で加工しやすいポリ塩化ビニルを作ることに成功し、特許(us1929453,us2188396)を申請し、取得し、ポリ塩化ビニルのシートなどの商品化に成功し、ポリ塩化ビニルの実用化が始まりました。
5.ポリエチレン(Polyethylene)
エチレンが重合した高分子で、ポリ容器やポリ袋等の用途に利用されています。
一般に酸やアルカリに侵され難く、電気の絶縁性が高く、静電気を帯びやすい特徴があります。
1898年にペヒマン(Hans von Pechmann独)はジアゾメタン(diazomethane)を熱分解していてワックス状の物質を偶然発見し、後に(Eugen Bamberger)と(Friedrich Tschirner)がポリエチレン(低密度ポリエチレン)であることを確認します。
1933年にICI社(Imperial Chemical Industrial Limited英)のエリック・ウイリアム・フォーセット(Eric William Fawcett)とレジナルド・オズワルド・ギブソン(Reginald Oswald Gibson)によってエチレンを高温高圧(1400 bar and 170°C)にしてポリエチレン(低密度ポリエチレンlow density polyethylene LDPE)を重合する方法(特許GB1936/2/4,471590)が発見されましたが、その実験を再現するのが難しく商品化されませんでしたが、第二次世界大戦中に実用化され、レーダー用の高周波信号ケーブルの絶縁等に使用しされたようです。
1951年に米フィリップス石油のRobert Banks and J. Paul Hoganによって合成のための触媒として三酸化クロム(chromium trioxide on silica)を使用する方法が開発され、合成に必要な圧力や温度を低くすることができるようになりました。この触媒をフィリップス触媒(Phillips catalyst 特許us2,825,721)と呼んでいます。
1953年にカール・チーグラ(Karl Ziegler独)によって四塩化チタン(TiCl3・1/3 AlCl3)をベースにした不均質の触媒(有機アルミニュウム(Al(C2H5)2Cl)等を併用)を使用する方式が開発(特許us3257332)され、ポリエチレン(高密度ポリエチレンhigh density polyethylene HDPE)の常圧での重合が可能になったことから生産コストが低下しました。
少し遅れて(Giulio Natta伊)も(MgCl2)をベースにして(TiCl4)を併用する方式を開発(特許us3300459)しました。これらの触媒をチーグラ・ナッタ触媒(Ziegler-Natta catalyst)と呼んでいます。
1955年にはポリエチレン管等が発売されるようになり、ポリエチレン製品の商業化が開始されました。
1976年 ドイツのウォルター・カミンスキー(Walter Kaminsky)ハンスイェルク・シン(Hansjorg Sinn)はポリエチレンの重合にメタロセンを触媒(metallocene catalysts)に使用する方式を開発(特許us4542199)し、生産コストが飛躍的に低下しました。これによってポリエチレンの価格が低下し、多種多様な製品の開発が進められて、その製品は大量生産され更なる価格低下をもたらし、世界中にポリエチレン製品が広まっていくことになりました。
1995年ブルックハート(Brookhart)、ニッケル、パラジウム等のα-ジイミン配位子(selected alpha.-diimine)として用いる触媒を開発(特許us5866663, 5880241 5886224,5891963,6034259,6103946) しました。この触媒は活性点が均一であることからシングルサイト触媒(single site catalysts)とよばれ、ポリエチレンの生産コストの低減と品質の向上に寄与しました。
エチレン(ethylene)
炭素(2)と水素(4)の二重結合を持つ有機化合物で、重合するとポリエチレンになります。かすかに甘い臭気を有する無色の気体で、反応性が高く、様々な化合物の原料として用いられます。また、植物ホルモンの1つでもあり、生長阻害や花芽形成の抑制等が知られています。
工業的には炭化水素(hydrocarbons炭素と水素だけの化合物の総称)に高温の水蒸気を吹き込んで分解し、それを蒸留分離します。
架橋ポリエチレンの歴史
合成樹脂が発明されて早い時期に電子線などの照射によって架橋が発生することは知られていたようですが、非常に高価なことから実用にはいたりませんでした。
1955年には電子線照射による架橋ポリエステル絶縁電線の特許(us2907675)が取得されています。
1955年頃には化学的な架橋方法が開発(特許us2826570,3079370等)されましたが架橋した部分は少なく実用には至りませんでした。
1970年化学的な方式が開発(特許us3,534,132)され電力用のケーブルに適用できるようになりました。
6.合成ゴム(Synthetic rubber)
合成ゴム重合などによって作られる弾性体のことです。
1909年にフリッツ・ホフマン(Fritz Hofmann独)の研究グループはイソプレーンの重合に成功し、それを使って、最初の合成ゴムが作られます。
1910年にセルゲイレベデフ(Sergei Vasiljevich Lebedev露)によってブタジエンが合成され、最初のゴム重合体が作られます。
1930年にウォーレス・カロザース(Wallace Carothers米)等によって実用的な合成ゴムが発明され、
1931年にデュポン社によってネオプレーンが開発され最初の合成ゴムである
1935年にはブタジエンとスチレンの共重合体であるブナゴム(Buna rubber)が合成され、1942年に日本軍の進攻によって天然ゴムの輸入が困難になった米国で量産が開始されました。
大戦後は自動車のタイヤや固体ロケットの燃料に使用されるようになります。
7.合成繊維(Synthetic fibers)
有機分子を重合させてつくった高分子を原料にし、化学的プロセスにより製造される繊維の総称で化学繊維(chemical fiber)や人工繊維 (artificial fiber) とも呼ばれます。
7.1レーヨン
人類は大昔から、天然の繊維を使用してきましたが、レーヨンは最初に製造された人工の繊維です。
1665年ロバート・フック(Robert Hooke英)は「絹よりも優れた繊維」を作る試みを提案( Micrographia or some physiological descriptions of minute bodies)しました。
1848年にクリスチアン・フリードリヒ・シェーンバイン(Christian Friedrich Schonbein独・瑞)は綿からニトロセルロースを作り、それを溶液に溶かして小さな穴から押し出して繊維を作るのに成功しています。
1855年にジョージ・オーデマ(Georges Audemers瑞)は「人工の絹」に関する最初の英国特許(obtaining and treating vegetable fibres)British Patent 283 (Apr 17, 1855)を取得しました。それは桑の木の皮を溶かしてセルロースを作り、蚕が液体を小さな穴から押し出すように、セルロースを小さな穴から押し出して繊維を作りました。しかし、この繊維は激しく燃焼することから実用化されませんでした。
1880年代に白熱電球の実質的な発明者であるスワン(Joseph W. Swan)はセルロースから電球のフィラメントを作ろうとしましが、エジソンが既に炭素フィラメントを開発していることを知り、人工の繊維を作り、彼の奥さんがそれで編み物を作って1885年のロンドン博覧会に出品しました。しかし、特許(British Patent 5978 (Dec 31, 1883) SWAN JOSEPH WILSON)は取得したもののスワンの関心は白熱電球の開発の方に向かい繊維の開発は放棄されました。
1884年にシャルドネ(Count Hilaire de Chardonnet仏)は人工の絹(artificial nitro-silk)のに関する最初の特許を取得し、その後、紡糸機(spinning machine)を導入し、布を織って1889年のパリ万博に展示して注目されました。これが最初の合成繊維「レーヨン」で、その後には商業生産を開始しますが、高価で、燃えやすい性質にために生産は停止せざるを得ませんでした。
1924年に人工の絹の名称にレーヨンという名称が付けられましたが、この生産方式で作られる排水が環境に対して有害なことからは1930年大までは主に電球のフィラメント用として生産されるだけでした。
7.2アセテート
アセチルセルロースは1869年にフランスのシュッツェンベルジェ (P. Schutzenberger) がセルロースと無水酢酸とから初めて製造し、1894年にクロス (C. F. Cross英) とベバン (E. J. Bevan) によりこれを製造するための脱水触媒が改良された。
1904年スイスのカミール(Camille)兄弟によって開発されましたが、1924年に米国にアセテート繊維を作る工場を建設し、最初は折り目の取れない布として大きな反響がありました。大量生産が進むと、「人工の絹」は「本物の絹」よりも半値以下に安くなります。
7.3ナイロン
レーヨンとアセテートは植物繊維から作られすが、ナイロンは植物繊維ではない石油化学製品から作られる最初の繊維です。
1931年にデュポン社の研究者ウォーレス・カロザース(Wallace Carothers米)はナイロンを発明2071250します。
1939年にデュポン社はナイロンの商業生産を開始します。最初の製品は縫糸、パラシュートの布地、ストッキングでした。
1941年に米国が世界大戦に参戦するとナイロンは軍需用品に指定されていましたが、戦後、ストッキングの生産が開始されると爆発的な人気が1940年代の終わりまで続きました。
7.4アクリル
1950年代になるとデュポン社は羊毛のような感触のアクリル繊維を開発し商業生産を開始します。
1952年には綿とアクリルの混合した繊維で作った衣類でwash and wear(洗ってすぐに着られる) という用語が使われるようになりかした。
1932年(独)IG社ポリ塩化ビニルの湿式紡糸による繊維化成功,出願(成立は1934),“Pe-Ce Fiber" と命名,1934試験生産が開始されました。
7.5ポリエステル
1953年にはポリエステル繊維の商業生産が開始され、多種多様な繊維の組み合わせが可能になりさまざまな特徴(速乾、アイロン不要等)を持った衣類が開発される繊維革命が始まりました。
1960年代は繊維革命が進行し1969年7月20日の月面着陸に使用された宇宙服にはさまざまな新機能の繊維が使用されました。
1970年代の初めに消費者保護の観点から衣類の難燃化の規制が開始され幅広い分野に難燃化が進展しました。