1)アミノ酸
分子中にアミノ基-NH2とカルボキシル基-COOHの2種の官能基をもった化合物である。とくに2つの官能基が同一の炭素原子に結合しているものをα-アミノ酸という。
代表的なα-アミノ酸
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名称 |
R |
名称 |
R |
グリシン |
H- |
システイン |
HS-CH2- |
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アラニン |
CH3- |
メチオニン |
CH3-S-(CH3)2- |
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リシン |
H2N-(CH2)4- |
フェニルアラニン |
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アスパラギン酸 |
HOOC-CH2- |
|||
グルタミン酸 |
HOOC-CH2-CH2- |
チロシン |
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セリン |
HO-CH2- |
*グリシン以外はすべて光学異性体が存在する。
*リシンは塩基性アミノ酸,アスパラギン酸とグルタミン酸は酸性アミノ酸
*これらのアミノ酸のうち体内で合成されないアミノ酸は外部から摂取する必要があり、必須アミノ酸と呼ばれる。
2)双性イオンと等電点
アミノ酸は塩基性を示すアミノ基-NH2と酸性を示すカルボキシル基-COOHがあるので、酸と塩基の両方の性質を示す両性化合物である。そのため、結晶のときはカルボキシル基からH+が取れてアミノ基に結合した分子内塩の構造になっている。このように分子内に正負両電荷が存在するイオンを双性イオンという。また、アミノ酸の水溶液はpHによって、双性イオン,陰イオン,陽イオンが平衡状態にある。また、これらの平衡混合物の電荷が0となっているときのpHを等電点という。
酸性アミノ酸の等電点は小さく、塩基性アミノ酸の等電点は大きい。水溶液のpHを等電点以上にすると、陰イオンに、pHを等電点以下にすると陽イオンになる。
3)ペプチドの生成
2個のアミノ酸分子は、一方のアミノ酸のカルボキシル基と他方のアミノ基から水分子がとれて縮合する。このようにアミノ酸どうしが縮合して生じたアミド結合 -CONH-をペプチド結合という。この結合をもつ化合物をペプチドという。
4)タンパク質
多数のアミノ酸が縮合したものをポリペプチドという。タンパク質はポリペプチドからなる高分子化合物である。タンパク質を希塩酸や希硫酸を加えて煮沸すると、加水分解されて、α-アミノ酸を生じるが、このときα-アミノ酸だけを生じる(つまりα-アミノ酸だけからなる)タンパク質を単純タンパク質、α-アミノ酸以外のものも生じるタンパク質を複合タンパク質という。
5)タンパク質の立体構造
ニ次構造
タンパク質のポリペプチド鎖は、らせん構造や、ひだ形(波形)構造ができる。これはペプチド結合の-N-Hと-C=Oの間で水素結合が生じるためである。下の図はらせん構造で、α-へリックス(α-らせん)構造という。
三次構造、四次構造
二次構造はさらに構成するアミノ酸のR部分の官能基(-COOH,-NH2,-SH,-OH)による水素結合や、ジスルフィド結合(-S-S-)によって、さらに折りたたまれて、球状に近い構造となる。また、三次構造が別の三次構造と集合した構造を四次構造という。
6)タンパク質の変性
タンパク質に、熱,酸・塩基,有機溶媒,重金属イオンなどを作用させると、凝固する。これをタンパク質の変性という。これはタンパク質の立体構造(三次構造や二次構造)が変化するために起こり、元に戻らないことが多い。
7)タンパク質(ペプチド),アミノ酸の検出
ニンヒドリン反応
アミノ酸の検出反応。アミノ酸にニンヒドリン水溶液を加えて温めると青紫~赤紫色を呈する。ペプチドもニンヒドリン反応を示す。
キサントプロテイン反応
タンパク質水溶液に濃硝酸を加えて熱すると黄色沈殿を生じ、冷却後、アンモニア水などを加えて塩基性にすると橙黄色に変化する。これはペプチド中のフェニルアラニンなどのベンゼン環のニトロ化が起こるためである。
硫黄反応
タンパク質水溶液にNaOHの固体を加えて加熱し、酢酸で中和後、酢酸鉛(Ⅱ)水溶液を加えると硫化鉛PbSの黒色沈殿を生じる。これはペプチド質中のステインなどの硫黄Sが検出されるために起こる。
ビウレット反応
タンパク質水溶液にうすいNaOH水溶液を加え、塩基性にした後、少量の硫酸銅(Ⅱ)水溶液を加えると、Cu2+の錯イオンが生成して赤紫色になる。アミノ酸が3つ以上のペプチド、つまり、トリペプチド以上のペプチドで見られる。
8)酵素
生体内での化学反応が体温付近の温度で速やかに行われるのは、生体内に触媒が存在するためである。この生体内の触媒が酵素である。酵素はタンパク質を主体とする物質であり現在までに2000種類以上の酵素が発見されている。
酵素は無機触媒に比べはるかに強い触媒作用を示すが、ある特定の物質(基質という)にしか作用しない。この選択性を基質特異性という。つまり、酵素と基質の関係は鍵と鍵穴の関係になる。
酵素の名称 |
作用(反応物(基質) → 生成物) |
所在 |
アミラーゼ |
デンプン → マルトース |
だ液、すい液 |
マルターゼ |
マルトース → グルコース |
腸液、だ液、すい液 |
インベルターゼ (スクラーゼ) |
スクロース → グルコース + フルクトース |
植物、酵母、カビ、腸液 |
ラクターゼ |
ラクトース → グルコース+ガラクトース |
腸液、酵母 |
セルラーゼ |
セルロース → セロビオース |
細菌 |
ペプチターゼ |
ペプチド → アミノ酸 |
酵母 |
リパーゼ |
脂肪 → 脂肪酸 + グリセリン |
すい液,胃液 |
ペプシン |
タンパク質 → ペプチド |
胃液 |
トリプシン |
タンパク質 → ペプチド |
すい液 |
カタラーゼ |
過酸化水素 → 水 + 酸素 |
血液,肝臓 |
無機触媒では、温度が高いほど反応速度は大きくなるが、酵素はタンパク質のため、高温にしすぎると変性してしまい機能を失ってしまう。これを失活という。すなわち、酵素には最も働く温度が決まっており、これを最適温度という。多くの酵素はその生物の体温付近が最適温度になる。また、酵素には最適pHが決まっている。これはその酵素の存在する場所のpH付近の値となる。例えば胃液中に含まれるペプシンはpH2付近が最適 pHとなる。
無機触媒では、温度が高いほど反応速度は大きくなるが、酵素はタンパク質のため、高温にしすぎると変性してしまい機能を失ってしまう。これを失活という。すなわち、酵素には最も働く温度が決まっており、これを最適温度という。多くの酵素はその生物の体温付近が最適温度になる。また、酵素には最適pHが決まっている。これはその酵素の存在する場所のpH付近の値となる。例えば胃液中に含まれるペプシンはpH2付近が最適 pHとなる。
その他の天然高分子
1)天然繊維
植物繊維(綿・麻)
主成分はセルロースである。セルロースはOH-基を多く持つため吸水性が大きく、水や汗をよく吸い取り、タオルや肌着に使われる。衣料用以外に紙の原料になっている。天然繊維に対し、レーヨン(再生繊維)、アセテート(半合成繊維)、その他の合成繊維を化学繊維という。
動物繊維(毛・絹)
羊毛や、カイコガのまゆから得られる絹の繊維はタンパク質が主成分で、毛ではケラチン、絹ではフィブロインとセリシンと呼ばれるタンパク質からなる。
2)核酸
核酸
核酸は遺伝子の本体で、ヌクレオチドの集まりである。ヌクレオチドとはリン酸・糖・塩基からできている。核酸にはリボ核酸(RNA)とデオキシリボ核酸(DNA)がある。DNAは遺伝情報を構築・伝達する働きがあり、RNAはその情報に従って、タンパク質を合成する。
核酸を構成する化学物質
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DNA |
RNA |
リン酸 |
H3PO4 |
H3PO4 |
糖 |
デオキシリボース |
リボース |
塩基 |
アデニン,グアニン,シトシン,チミン |
アデニン,グアニン,シトシン,ウラシル |
ヌクレオチドの構造
例えば、リン酸,デオキシリボース,アデニンが結合すると次のようになる。この構造が核酸の単位構造である。つまりこの構造がたくさんつながったものが核酸となる。またヌクレオチドが多数結合したものをポリヌクレオチドという。
DNAとRNAの構造
DNAは2本のポリヌクレオチド鎖が結合している。この2本は塩基どうしが結合してくっついている。ポリヌクレオチド鎖間をつなぐ塩基の組み合わせは決まっていて、AとT,GとCで対をつくる。また、これらの塩基の結合は、水素結合によって結合している。塩基の組み合わせが決まっているので、この2本鎖が離れても元に戻ることができる。例えばAGTC鎖に結合できるのはTCAG鎖しかないということである。この塩基の並びは暗号になっていて、これが遺伝情報になっている。RNAは1本鎖である。
またDNA鎖は2本鎖でらせん状(二重らせん構造)になっている。この構造を明らかにしたのは、ワトソンとクリックで、1953年のことであった。この発見は、20世紀最大の発見であった。