7)16族元素(酸素と硫黄)
単体の性質
酸素原子と硫黄原子はともに最外殻電子(価電子)が6個なので2価の陰イオンになりやすい。酸素は工業的には過酸化水素や塩素酸カリウムの分解によって(触媒MnO2)作られる①。酸素の同素体には
硫黄の同素体には斜方晶系硫黄,単斜晶系硫黄,ゴム状硫黄などが存在する。斜方晶系硫黄は淡黄色で、常温で安定な八面体の結晶である。また、単斜晶系硫黄は黄色の針状の結晶で、95.3℃以上で安定な結晶である。斜方晶系硫黄と単斜晶系硫黄はともに、S8の環状分子で、また、どちらも二硫化炭素CS2に溶解する。ゴム状硫黄は暗褐色の鎖状のゴム状分子Sxで弾力性があり、二硫化炭素CS2に溶解しない。
空気中で燃焼すると、二酸化硫黄になる。S + O2 → SO2
① 2H2O2 → 2H2O + O2, 2KClO3 → 2KCl + 3O2
②酸化剤の確認:
ヨウ化カリウムデンプン紙(KIとデンプンを染みこませてある)を青変
2KI + O3 + H2O → I2 + 2KOH + O2
生成するヨウ素がデンプンと反応して色が変わる。
酸素の化合物(オキソ酸)
分子中に酸素原子を含む酸をオキソ酸という。分子中の酸素と水素以外の元素の陰性が強いほど、また分子中の酸素原子の数が多いほど酸性が強くなる。
H2SO4 > H3PO4
HClO4 > HClO3 > HClO2 > HClO
過塩素酸 塩素酸 亜塩素酸 次亜塩素酸
硫黄の化合物1
硫化水素H2Sは 腐卵臭のある無色の有毒な気体である。実験室的製法は硫化鉄(Ⅱ)に希塩酸や希硫酸を加える①。硫化水素の性質には還元性がある。また、多くの金属イオンと反応して、特有の色をもつ硫化物を沈殿する②。
二酸化硫黄SO2は亜硫酸ガスともいわれ、刺激臭のある無色の有毒な気体である。実験的製法は、亜硫酸ナトリウムまたは、亜硫酸水素ナトリウムに硫酸を加える③か、銅に濃硫酸を加えて加熱する④と発生する。二酸化硫黄は、水に溶けて酸性を示す⑤。また、反応する相手によって、酸化剤・還元剤の両方の性質を示す。
① FeS + H2SO4 → H2S + FeSO4
② イオン化傾向と関連付けて覚えるとよい(沈殿物の色と沈殿の条件は重要)。
K |
Ca |
Na |
Mg |
Al |
Zn |
Fe |
Ni |
Sn |
Pb |
(H2) |
Cu |
Hg |
Ag |
沈殿しない |
Al2S3は不安定ですぐに加水分解されてAl(OH)3が沈殿する |
ZnS |
FeS |
NiS |
SnS |
PbS |
|
CuS |
HgS |
Ag2S |
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白 |
黒 |
黒 |
褐 |
黒 |
|
黒 |
黒 |
黒 |
|||||
酸性下では沈殿しないが、中性~塩基性の下で沈殿する。この他、MnS(淡赤)がある。 |
酸性溶液中でも沈殿する。その他、CdS(黄)がある。
|
③ Na2SO3 + H2SO4 → Na2SO4 + H2O + SO2
④ Cu + 2H2SO4 → CuSO4 + SO2 + 2H2O
⑤ 酸性酸化物だから。
硫黄の化合物2
硫酸H2SO4は工業的に接触式硫酸製造法で生成する⑥。硫酸の性質としては、次の4つがあげられる。不揮発性の液体(沸点が高く気体になりにくい)で、揮発性の酸(HCl,HNO3)の塩に不揮発性の濃硫酸を作用させると、揮発性の酸が発生する⑦。脱水作用があり、水と激しく反応して多量の熱を発生する。例えば、ブドウ糖C6H12O6のような化合物に濃硫酸を作用させると、HとOはH2Oとして取られてしまうので炭化(Cだけが残る)する⑧。その他、エタノールC2H5OHに濃硫酸を加えて加熱するとやはり水分子が取れてエチレンC2H4やジエチルエーテルC2H5-O-C2H5になる⑨。また水で濃硫酸を希釈するときは、水に濃硫酸をゆっくり加える⑩。熱濃硫酸には酸化作用があり、イオン化傾向が小さいCuやAgも溶かす⑪。 また、希硫酸は酸としてはたらく。
⑥接触式硫酸製造法
過程1
二酸化硫黄SO2を五酸化バナジウムV2O5を触媒とし空気中の酸素と反応させ三酸化硫黄SO3をつくる。
反応式 : 2SO2 + O2 → 2SO3
過程2
三酸化硫黄を98~99%の濃硫酸に吸収させる。この硫酸を発煙硫酸という。これに希硫酸を加えると、希硫酸中の水とSO3が反応し、H2SO4ができ、濃硫酸となる。
反応式: SO3 + H2O → H2SO4
*SO3を直接水に吸収させると、多量の発熱をともなうため、水が蒸発しやすくなり、なかなかSO3が溶け込まない。そこで、濃硫酸に吸収させ(この方が発熱量が少ない)、発煙硫酸とした後、希硫酸で薄めて濃硫酸にする。
⑦ (揮発性の酸の塩)+(不揮発性の酸)→(不揮発性の酸の塩)+(揮発性の酸)
NaCl + H2SO4 → NaHSO4 + HCl
NaNO3 + H2SO4 → NaHSO4 + HNO3
⑧ C6H12O6 → 6C + 6H2O ⑨ C2H5OH → C2H4 + H2O, 2C2H5OH → C2H5-O-C2H5 + H2O
*⑧,⑨ともH2SO4は水を取っているだけで、H2SO4は変化していないので反応式には書かない。
⑩ 濃硫酸と水は接触面で激しく反応するので、密度の小さい水に濃硫酸を加える(接触面は水の下になる)。この方が多量の水が存在するので、発熱が抑えられる。
⑪ Cu + 2H2SO4 → CuSO4 + SO2 + 2H2O
2Ag + 2H2SO4 → Ag2SO4 + SO2 + 2H2O
8)17族元素(ハロゲン:F,Cl,Br,I)
単体の性質
17族元素のハロゲンは最外殻電子(価電子)が7個であり、1価の陰イオンになりやすい。すなわち、ハロゲンの単体は電子を受け取りやすいので、酸化力があり、漂白・殺菌作用を示す。原子番号が小さいものほど反応性が大きく(反応性: F > Cl > Br > I )、酸化力,漂白・殺菌力などもF>Cl>Br>Iの順である①。ハロゲンの単体はヨウ素以外はそれぞれ水と反応する②。塩素や臭素を水に溶かした溶液を塩素水や臭素水という。ヨウ素は昇華性のある結晶で、水には溶けにくいが、エタノールやヨウ化カリウム水溶液には溶解する。デンプン水溶液にヨウ素の溶液を加えると青色になる。この反応はヨウ素デンプン反応と呼ばれ、ヨウ素やデンプンの検出に使われる。ハロゲン単体は全て有色③で、フッ素と塩素は気体、臭素は液体ヨウ素は固体である。
①ハロゲンのイオンと単体の反応・・・反応しやすい(酸化力の強い)方がイオンになる。
2KI + Cl2 → 2KCl + I2 (2I- + Cl2 → 2Cl- + I2)
2KI + Br2 → 2KBr + I2 (2I- + Br2 → 2Br- + I2)
2KBr + Cl2 → 2KCl + Br2 (2Br- + Cl2 → 2Cl-+ Br2)
② フッ素と塩素(臭素)とで反応が違う。
2F2 + H2O → 4HF + O2
Cl2 + H2O → HCl + HClO
*HClO 次亜塩素酸
③ フッ素F2(淡黄),塩素Cl2(黄緑),Br2(赤褐),I2(黒紫)
ハロゲンの単体の製法
塩素は酸化マンガン(Ⅳ)に濃塩酸を加えて加熱する④。初めの洗気びんには水が入っていて、Cl2に混ざってくる塩化水素HClガスを吸収させる。次の洗気びんには濃硫酸が入っていて、混入する水分を吸収する。また、塩素は空気よりも重いので下方置換で集める。
その他の塩素の発生法は塩化ナトリウム,濃硫酸,酸化マンガン(Ⅳ)を加熱する⑤。さらし粉CaCl(ClO)・H2Oに塩酸を加える⑥。工業的には塩化ナトリウム水溶液の電気分解で得られる。臭素やヨウ素も塩素と同様の反応で得られる。
④ MnO2 + 4HCl → MnCl2 + 2H2O + Cl2
⑤ 2NaCl + 3H2SO4 + MnO2 → MnSO4 + 2NaHSO4 + 2H2O + Cl2
⑥ Ca(ClO)2・H2O + 2HCl → CaCl2 + 2H2O + 2Cl2
ハロゲン化水素
ハロゲン化水素HX(Xはハロゲン元素)はフッ化水素HF以外は常温常圧で無色の気体で水に溶けやすい。フッ化水素は常温常圧で、液体である。塩化水素は実験室的には塩化ナトリウムに濃硫酸を作用させると発生する⑦。またフッ化水素はホタル石(フッ化カルシウムCaF2)に濃硫酸を加えて加熱すると発生する⑧。
ハロゲン化水素の性質
|
フッ化水素 |
塩化水素 |
臭化水素 |
ヨウ化水素 |
化学式 |
HF |
HCl |
HBr |
HI |
常温での状態 |
液体 |
気体 |
気体 |
気体 |
酸性の度合い |
弱 |
強 |
強 |
強 |
沸点(℃) |
20 |
‐85 |
‐67 |
‐35 |
融点(℃) |
-83 |
‐114 |
‐89 |
‐51 |
水溶液の名称 |
フッ化水素酸 |
塩酸 |
臭化水素酸 |
ヨウ化水素酸 |
ここで、フッ化水素だけは他のハロゲン化水素と違いが見られる。まず、沸点・融点が異常に高い。一般に、分子間には分子間力という弱い引力が働いている。この引力より大きなエネルギーを得ると分子からなる物質は気体になる。構造が同じような物質では、分子量の大きなものほど、分子間力が大きくなるので、沸点・融点が高くなる。しかし、ハロゲン化水素の中でフッ化水素は、最も分子量が小さいにもかかわらず、沸点・融点が高い。これはフッ化水素だけが分子間力以外に水素結合という結合を分子間で形成するためである。次に、フッ化水素だけが弱酸である。これも、フッ化水素だけが水素結合をするため、H+が放出しにくくなるからである。また、フッ化水素の水溶液だけはガラスを溶かす⑨。
⑦ NaCl + H2SO4 → NaHSO4 + HCl
⑧ CaF2 + H2SO4 → CaSO4 + 2HF
⑨ SiO2 + 6HF → H2SiF6 + 2H2O
*H2SiF6ヘキサフルオロケイ酸
さらし粉
さらし粉は塩素と水酸化カルシウムを反応させることによってできる⑩。さらし粉の主成分はCaCl(ClO)・H2Oで、Ca2+に対して、2種類の陰イオンCl-(塩化物イオン)とClO-(次亜塩素酸イオン)がイオン結合した形の塩である。このような塩を複塩という。さらし粉2つ分( 2CaCl(ClO)・H2O )からCaCl2を除いた状態Ca(ClO)2・2H2Oを高度さらし粉といい、試薬としても使われる。
⑩ Cl2 + Ca(OH)2 → CaCl(ClO)・H2O
9)希ガス元素(He,Ne,Ar,Kr,Xe,Rn)
周期表で18族の元素は,希ガスとよばれる。希ガス原子の最外殻に入っている電子の数は、ヘリウムHeでは2個、他の元素はすべて8個で安定しており、イオン化エネルギーが高い。このため反応しにくく、他の原子と結合したりせず、原子1つの状態(単原子分子という)で存在する。希ガス元素の場合、価電子は「0」である。他の元素では「価電子=最外殻電子数」であったが、希ガスの場合は価電子は「0」という。
また、他の原子がイオンになったり、共有結合をつくる場合、一般に希ガス原子の電子配置をとることが多い。これは希ガスの電子配置が非常に安定であることを意味する。この安定な希ガスの電子配置をオクテッドという。
ヘリウムHeは,不燃性で水素についで軽いので、気球・飛行船に用いられる。また,沸点は0Kに近いので超低温用の冷媒として使われる。ネオンNeは、液体空気の分留によって得られ、ネオンサイン(赤橙色)に使われる。アルンArも液体空気の分留によって得られ、電球の封入ガス、溶接や製鋼用の保護ガスなどに使われる。
10)気体の製法と性質
気体の性質
|
H2 |
O2 |
O3 |
N2 |
Cl2 |
CO |
CO2 |
NO |
NO2 |
SO2 |
NH3 |
HCl |
H2S |
CH4 |
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色 |
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淡青 |
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黄緑 |
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|
|
赤褐 |
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|
臭い |
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特異 |
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刺激 |
|
|
|
刺激 |
刺激 |
刺激 |
刺激 |
腐卵 |
|
|
有毒 |
|
|
○ |
|
○ |
○ |
|
|
○ |
○ |
△ |
○ |
○ |
|
|
水に溶けやすい |
|
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|
|
|
|
|
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○ |
○ |
|
|
|
水溶液が酸性 |
|
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○ |
|
○ |
|
○ |
○ |
|
○ |
○ |
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水溶液が塩基性 |
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○ |
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酸化作用がある |
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○ |
○ |
|
○ |
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|
|
○ |
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|
|
|
還元作用がある |
○ |
|
|
|
|
○ |
|
○ |
|
○ |
|
|
○ |
|
|
主な気体の捕集法
・水上置換 → H2 , O2 , NO
・下方置換 → Cl2 , HCl ,SO2 , H2S , NO2 , CO2
・上方置換 → NH3
乾燥剤
乾燥剤 |
化学式 |
性質 |
乾燥できる気体 |
乾燥できない主な気体 |
五酸化二リン |
P4O10 |
酸性 |
中性・酸性の気体 |
NH3 |
濃硫酸 |
H2SO4 |
酸性 |
中性・酸性の気体 |
NH3,H2S |
塩化カルシウム |
CaCl2 |
中性 |
多くの気体 |
NH3 |
シリカゲル |
SiO2・nH2O |
中性 |
多くの気体 |
|
酸化カルシウム |
CaO |
塩基性 |
中性・塩基性の気体 |
Cl2,HCl,H2S,SO2,CO2,NO2 |
ソーダ石灰 |
CaOとNaOH |
塩基性 |
中性・塩基性の気体 |
Cl2,HCl,H2S,SO2,CO2,NO2 |
気体の実験室的製法
何と何を反応させるとどんな気体が発生するかを覚える。
H2 Zn + H2SO4 → ZnSO4 + H2 ↑
(水素よりイオン化傾向が大きい金属と希硫酸または塩酸)
O2 2H2O2 → 2H2O + O2↑
(H2O2過酸化水素,触媒としてMnO2)
Cl2 MnO2 + 4HCl → MnCl2 + 2H2O + Cl2↑ (加熱)
CaCl(ClO)・H2O + 2HCl → CaCl2 + 2H2O + Cl2↑
HCl NaCl + H2SO4 → NaHSO4 + HCl↑ (加熱)
HF CaF2 + H2SO4 → CaSO4 + 2HF↑ (加熱)
SO2 Cu + 2H2SO4 → CuSO4 + 2H2O + SO2↑ (加熱)
2NaHSO3 + H2SO4 → Na2SO4 + 2H2O + 2SO2↑ (HClでも可)
H2S FeS + H2SO4 → FeSO4 + H2S↑ (HClでも可)
NO2 Cu + 4HNO3 → Cu(NO3)2 + 2H2O + 2NO2↑ (濃硝酸)
NO 3Cu + 8HNO3 → 3Cu(NO3)2 + 4H2O + 2NO↑ (希硝酸)
NH3 2NH4Cl + Ca(OH)2 → CaCl2 + 2H2O + 2NH3↑
CO2 CaCO3 + 2HCl → CaCl2 + H2O + CO2↑
CO HCOOH → H2O + CO↑ (濃硫酸で脱水,加熱)