油脂の構成・加水分解などについて解説

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 油脂は、エステルです。まず、それを強調したい。だから当然、アルコール(グリセリン)とカルボン酸(高級脂肪酸)でできてるわけです。

 

 ◆油脂の構成

 ~グリセリン~

グリセリンは、-OHを3つももってるアルコールです。今まで-OHが1つのアルコールばっかだったからなじみがないでしょう。でも3つあったってアルコールであることには変わりません。こいつが油脂の「骨組み」になります。つまりこの後に説明する高級脂肪酸を”結びつける”働きをしています。

 ~高級脂肪酸~

 この仰々しい名前のおかげでイメージが湧きにくいんだよね。これって単なるカルボン酸なんです。ギ酸や酢酸と同じ仲間。ただ、炭化水素基の部分(R-COOHのRの部分ね。)がすっごく長い。だから、「高級」と呼びましょうと。「高級」ってのは別に僕たちの感覚でいう「希少な・高価な」ではないんです。ただ、Cの数が多いからそう呼ぶだけなんです。で、「脂肪酸」も「カルボン酸」って言えばいいのにこう呼ぶわけです。まずこのことをしっかり頭に入れてください。何度も言うけど、高級脂肪酸は単なるカルボン酸にすぎない!

 

H-COOH(ギ酸)
CH3-COOH(酢酸)
CH3-CH2-COOH(プロビオン酸)

 これらは「低級脂肪酸」。Cの数が少ないから。それに対して、

CH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-COOH(パルミチン酸)

CH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-COOH(ステアリン酸)

 とても長いでしょ。Cがいっぱいある。だから「高級」脂肪酸というわけです。

 で、頻出の高級脂肪酸の分子式はなるべく覚えておいたほうがいい。結局下図の5つなんだけど、構造式は大変だから覚える必要はない。分子式を確実にかけるようにしましょう。

名称
分子式
C=C二重結合の数
パルミチン酸
C15H31COOH
0
ステアリン酸
C17H35COOH
0
オレイン酸
C17H33COOH
1
リノール酸
C17H31COOH
2
リノレン酸
C17H29COOH
3

 

 もちろんこれ以外の高級脂肪酸が出ない保障はありませんが、ほとんどこの5つから出てくるから、まずはこれらの分子式とC=C二重結合の数を覚えてください。C=Cの数は、ヨウ素価の計算をする際に超重要なんで絶対に覚えること!丸暗記しなくても、分子式からの構造決定の話を応用すれば判断できます。たとえば、パルミチン酸C15H31COOHとステアリン酸C17H35COOHはCnH2n+1COOH型(COOHをHに代えればアルカン!)だから二重結合が0ですよね。オレイン酸C17H33COOHはCnH2n-1COOH型(COOHをHに代えればアルケン!)だから二重結合が1つ。忘れたらこの方法で判断してください。

 ~油 脂~

 グリセリンの3つの-OHのところに、3つの高級脂肪酸がエステル結合することでくっついて、油脂が完成。油脂は、3つのエステル結合をもっているわけです。そしてエステル結合をつくるから、当然3つのH2Oが生じることになる。もし、1種類の高級脂肪酸で生成したなら、分子式はC3H5(OCOR)3と表せます。

 以上のことを頭に入れた上で、この範囲のメインである「けん化価」と「ヨウ素価」について説明しましょう。これらは、定義に従いさえすれば、絶対に出せます。

 ◆けん化価

 油脂は、何度も言いますけど、エステルです。だから塩基性物質で加水分解されます。これを特に「けん化」と呼んでいます。

 加水分解でよく使われる塩基性物質といえばNaOHなんですが、なぜか油脂の加水分解ではKOHを使います。ですから、けん化価では必ずKOHだと覚えてください。

けん化価=油脂1gを完全に加水分解するのに必要なKOHのミリグラム数(mg)

 

 C3H5(OCOR)3 で表せる分子式Mの油脂のけん化価を求めてみましょう。

 (1) 「油脂1g」のmolを出しましょう。これは、1/M(mol)と表せる。
 (2) これに反応するKOHのmolは?3つのエステル結合があるから、1/M×3(mol)と表せる。
 (3) これを物質量(mol)から質量(g)に変換するために、KOHの式量をかける。1/M×3×56(g)
 (4) 単位をg→mgに変換するために、1000をかける。1/M×3×56×1000(mg)

 結果として、(けん化価)=1/M×3×56×1000で出せる。

 ここで知っておいてほしいことが2つ。

 (A) 上の式を丸暗記するよりも、式の作り方の方を暗記すること。
 (B) けん化価は、それ自身を出すよりもむしろ、分子量を求めるための手段として使われることが多い。

 これをしっかりと頭の中に入れといてください。

 ~セッケン~

 僕らの知ってるあの「石鹸」と確かに関係あります。これが石鹸の原料になるわけですが、それだと問題を解く際に使えません。

 構造式を見ればわかるようにこれは単なるカルボン酸塩です。酸性である高級脂肪酸と塩基性のKOHとが反応して塩RCOOKを生じる。これが「セッケン」です。

 ◆ヨウ素価

ヨウ素価=油脂100gに付加することのできるI2のグラム数(g)

 油脂中のRにC=Cが存在するときがあります。たとえば、オレイン酸のみで油脂ができてるときは脂肪酸1つずつに二重結合が1つあるので、油脂1分子には1×3=3つ存在することになる。では、ステアリン酸とオレイン酸が1対2のときは?ステアリン酸にはC=C結合は全く存在しません。ですから、油脂と1分子中に結局、1×2=2つということになる。油脂1分子中に何コのC=C結合があるのかをちゃんと求められるかどうかが、ヨウ素価の決め手になります。

 ちなみに、油脂中に含まれるC=Cの数が多いほど、ヨウ素価は大きくなるということがわかりますよね。

 またヨウ素価は、逆に油脂中のC=C二重結合数を求める手段として使われることが多いです。

  では、リノール酸のみ含まれる油脂C3H5(OCOC17H31)3のヨウ素価を求めてみましょう。

 まず、分子量を求めましょう。12×3+1×5+(12×18+1×31+16×2)×3=878
油脂100gのmolは、100/878(mol)と表せる。

 この後が、一番重要。油脂1分子中に、C=Cの数が何コあるか。ヨウ素がこのC=Cに付加するんだからこの数がわからない限り、ヨウ素価を求めることができない。

 今回は、リノール酸のトリグリセリド(3つのリノール酸がエステル結合している油脂のこと)なので、

油脂1分子中には、C=C結合は2×3=6コ!

と計算できる。リノール酸がC=C結合を2つもっていることはすぐにわからないといけません。

 結局、付加できるヨウ素のmolは、100/878×6(mol)と計算できる。

 後はこれを物質量(mol)から質量(g)に直せばいい。ヨウ素の分子量は、127×2=254なので、100/878×6×254=173.5・・よって、ヨウ素価は174と求めることができる。

 けん化価とヨウ素価は、しっかりと区別できるようにしといてください。特に一番気をつけてほしいのは、

a. 油脂1g or 100gか。
b. ミリグラム数(mg) or グラム数(g)か。

の2点。小さい方(1g-mg)がけん化価、大きい方(100g-g)がヨウ素価と、それぞれセットにして覚えてみましょう。