芳香族化合物の特徴として、置換反応しやすい、というのがあります。置換基をコロコロと変えることによっていろいろな有機化合物を合成できるわけです。
そこで、その置換反応によるさまざまな芳香族の合成方法を覚えなくてはいけない。どういう出発物質からどういう過程で置換基が変わっていくのか。そのときに出てくるいろいろな芳香族を1つ1つ覚えるなんてとても大変です。
ですから、当然つなげて覚えてしまった方がいい。1つ1つをリンクさせて覚える方が楽だし、何より合成の流れがわかります。ということで、ベンゼンからはじまる芳香族の”世界”を3つに分けて解説することにします。
まずは、ベンゼンから出発です。
ベンゼンから出発してフェノールを合成する方法は、3つあることをまずは認識してください。図を見れば、3つの道があることが確認できますよね。そして、それぞれの過程で出てくる化合物を名称・構造式を完璧に覚えましょう。
では、上図だけでは足りない部分の説明をしていきます。
まずは、上側の製法から。ここで説明しておきたいのはアルカリ融解ですね。名前がついてるぐらいだからやっぱり重要で、試験でもよくここをついてきます。とにかく気をつけてほしいのは、水酸化ナトリウムを固体のまま反応させるんだ、ということ。水溶液ではありません。固体の水酸化ナトリウムを高温(290~350℃)にして溶かして液状にして反応させるわけです。
化学反応式もときどき書かせます。
あまりなじみのない亜硫酸ナトリウムNa2SO3がなかなか書けないから、あえてそこをついてくるんです。間違えてもNa2SO4と書かないように。
あと、ナトリウムフェノキシドをフェノールにする反応についても、よく書かせます。
まず、炭酸は反応式中では、H2CO3と書かないこと。必ず、CO2+H2Oの形で書きましょう。それと、フェノールと一緒に出てくるのは、炭酸水素ナトリウムNaHCO3です。うっかりしてると炭酸ナトリウムNa2CO3を書きそうになるのでこれも気をつけよう。
ところで、この式は (弱の塩) + (強) → (弱) + (強の塩) の典型例です。フェノールは炭酸よりも弱い酸であるから、ナトリウムフェノキシドは炭酸よりも弱い塩であり、反応が進行するわけです。この種の反応は本当によく出題されます。
ナトリウムフェノキシドは塩なので、OとNaはイオン結合をしています。そこで、構造式を
と書く場合があります。どっちで書けばいいのかは、問題中に示される構造式の例を見て判断してください。
真ん中の製法については、特に説明するところはありませんね。
下側の製法は、現在最も主流のものです。日本では100%、この製法でフェノールを合成します。この製法にはちゃんとした名前があって「クメン法」といいます。
まず、クメンヒドロペルオキシド。名前が覚えづらいのもそうですが、構造に気をつけてください。乱暴な参考書だとこの物質の-C-O-OHの部分を、簡単に-COOHと書いてあることがままあります。これは誤解を生じる。今まで有機をちゃんと勉強してきた人達が-COOHを見たら、カルボキシル基だと思うでしょう。でも、カルボキシル基って、
であって
ではないでしょ。だから、知っている人が見るならともかく、初めて勉強する人にとってはすごく危険なわけです。
ちなみに、クメンヒドロペルオキシドを書くときには、クメンの炭化水素基の真ん中のCとHの間に、Oを2つ入ればいい(酸化だから!)、と覚えておくと書きやすいと思う。何の根拠もないんだけど。実際僕もそうやって覚えてました。
クメンヒドロペルオキシドが酸によって分解されて、フェノールと、そしてアセトンが生じる。アセトンが一緒に出てくるのを忘れがちなんです。主役がフェノールですからね。だから、ここはよく出題されます。これも、全く根拠はないんですが、
クメンヒドロぺルオキシドの中に、アセトンが隠れている(オレンジの部分)かのように考えて、そこを外して、残りのベンゼン環とヒドロキシル基がくっつく、って考えると覚えやすい。