酸と塩基:定義・価数・分類・液性・中和反応・中和滴定などについて解説

シェアする

 ◆酸・塩基の定義

 

 いきなりですが、「酸」とは何でしょう?日常でも身近な言葉ですが、ちゃんと答えられますか?

 

 「酸」とは、”水素イオンH+を放出する物質”のことです。化合物中に”H”をもつ塩酸、硫酸、炭酸、カルボン酸など「~酸」という名前の物質はすべて酸です。

 

 では、「塩基」とは何でしょう?答え方としては2つあります。

 まず、”水酸化物イオンOH-を放出する物質”のことです。水酸化ナトリウムNaOHや水酸化カルシウムCa(OH)2に代表されるように、化合物中に”OH”をもつ物質が該当します。ところが、実際にはOH-をもたないけれども塩基としての性質をもつ物質があるんです。その代表例として、アンモニアNH3があります。アンモニアは化合物中にOHがないにも関わらず、塩基としての性質を示すんです。そこでこの定義ではまずくなってしまったので、定義をもうちょっと拡大することにしました。

 

 塩基とは”水素イオンH+を受け取る物質”のこと、と修正したのです。そもそもなぜOH-をもつ物質が塩基になれるのかというと、OH-+H+→H2OらによってH+を消費できるからです。つまり塩基としての性質は、OH-自体の存在にあるのではなく、H+を受け取れるという能力にあるわけです。ですから逆にいえば、OH-をもっていなくとも、H+を受け取れるならそれは塩基だ、ということです。そして、その例がアンモニアなんですね。アンモニアはNH3+H+→NH4+の反応によって、自身でH+を受け取るという形で、塩基としての性質をもつわけです。

 

 結局のところ、酸と塩基の関係はH+の授受関係にあります。酸がH+を生じ、塩基がそのH+を受け取る。すごく単純なこの関係が酸・塩基を学習するにあたって、重要なんです。ですから、当たり前だと思ってもこの関係を確認して下さい。酸・塩基のメインは滴定での中和反応における計算ですが、この当たり前の関係がものすごい威力を発揮するのです。

 

 

 ◆代表的な酸・塩基

 ここでは、いろいろな酸と塩基が登場します。皆さんはそれぞれがどのような酸と塩基なのかその物質をみてすぐに判断できないといけません。そこで代表的な酸と塩基を覚える必要があります。表でまとめてみました。

 

1価
2価
3価

強 酸

塩酸 HCl 
硝酸 HNO3
硫酸 H2SO4 リン酸 H3PO4

弱 酸

酢酸 CH3COOH

炭酸 H2CO3
シュウ酸 (COOH)2
硫化水素 H2S

 

塩基
1価
2価
3価

強塩基

水酸化ナトリウム NaOH
水酸化カリウム KOH
水酸化カルシウム Ca(OH)2
水酸化バリウム Ba(OH)2
なし

弱塩基

アンモニア NH3

水酸化マグネシウム Mg(OH)2
水酸化銅(II) Cu(OH)2 など

水酸化アルミニウム Al(OH)3
水酸化鉄(III) Fe(OH)3 など

 上表では強弱および価数で分類されていますが、これらの説明は後にまわします。ここではそれ以外についてふれていきます。

 まず酸について説明していきましょう。全部で8つ挙げましたがこの中でも特に重要なのが、太字の5つです。絶対にこの5つについては強弱および価数が一発でわかるようにしてください。また、リン酸が強酸と弱酸のどちらにもなってませんが、これはリン酸が中程度の強さを示すのでこのような表現となりました。

 次に、塩基についてです。塩基では酸ほどここの物質ごとに限定することは難しいのですが、グループとしてなら簡単に分けることができます。まず、一価の強塩基となれるのは【アルカリ金属】の水酸化物です。二価の強塩基となれるのは【アルカリ土類金属】の水酸化物。つまり、強塩基となるのはアルカリ金属&アルカリ土類金属の水酸化物のみ!ということです。ただ、アルカリ金属ではNaとK、アルカリ土類金属ではCaとBaぐらいしか出てこないんで、限定しました。もちろんそれ以外のもので、たとえばLiOHが出てきたら、アルカリ金属なんだから一価の強塩基だ、と判断すればいい。

 一方、弱塩基については、アルカリ金属&アルカリ土類金属以外の金属の水酸化物+アンモニアが該当します。もちろんたくさん考えられますが、表ではよく見かけるものを選びました。もちろんこれ以外のものが出てくる場合は十分ありますが、さっきので十分判断できるはずです。

 塩基の中でも特に重要なのは、太字の水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、そしてアンモニアです。この3つは毎回のように出てくるんで、強弱と価数がすぐにわかるようにしておきましょう。

 

 ◆酸・塩基の強弱

 さて、上の表で強弱と価数を覚えることになりました。これを覚えないと先に進めないのでこの2点は不可欠なんです。

 では、いったい何が強弱なのでしょう?塩酸は強酸ですが、なぜ”強い”酸なのでしょう?またなぜ酢酸は”弱い”酸なのでしょう?”強い””弱い”という言葉が何を意味するのかはっきりと答えられなくてはいけません。

 結論から言うと、”強い”ということは”電離度が大きい”ということです。電離というのは分子が水溶液中でイオンになって分解することを指します。たとえば塩酸だったらHCl→H++Cl-のように電離します。塩酸は水溶液中でほとんどの分子が電離してイオン化します。基本的に強酸・強塩基は特に記述がない限り、電離度を1として考えるのが暗黙の了解なんです。電離度=(電離した分子のモル数)/(すべての分子のモル数)ですから、電離度1というのは、100%電離しているということです。塩酸分子が100コあったら100コとも電離しているわけです。

 それに対し、”弱い”というのは”電離度が小さい”ということです。たとえば酢酸はCH3COOH→CH3COO-+H+のように電離しますが、塩酸と違ってあまり電離しません。つまり、イオンとしてよりも分子のままでいる方が圧倒的に多いんです。どのくらいかというと、酢酸分子が100コあったらそのうちのたった1コしかイオン化せず、残りの99コは分子のままなんですね。つまり、電離度が0.01だということです。

 上図は、強酸の塩酸と弱酸の酢酸の電離の様子を示しています。塩酸では、10コのHCl分子がすべて電離して1コも分子がない状態です。このような状態を完全電離といい、電離度が1になっています。

 それに対し、酢酸では10コの分子のうちたった1つだけが電離して、残りの9コは分子のままです。ただしこれでは電離度が0.1となってしまい実際と違いますが、さすがに図に99コの分子を書くのはキツイので(笑)許してください。実際にはこの黄色の分子が99コあり、圧倒的にイオンの割合が少ないんだな、というイメージをもってくれれば十分です。

 

 同じことが塩基についても言えます。強塩基の水酸化ナトリウムはNaOH→Na++OH-によって完全電離しています。また、弱塩基のアンモニアは、NH3+H2O→NH4++OH-によってほんの一部のみが電離してNH4+となっており、ほとんどが分子のNH3のままになっています。

 

 ◆酸・塩基の価数

 価数は、1分子から放出され得るH+またはOH-の数のことです。たとえば、塩酸はHClなので、Hを1分子中に1つもっており1価だとわかります。ということは、HClが1molあったら、H+は同じく1mol放出され得るということです。それに対し、硫酸はH2SO4なのでHを1分子中に2つもっており、2価となります。ということは、H2SO4が1molあったら、H+はその倍の2mol放出され得るということです。つまり、同じモル数の塩酸と硫酸があったら、硫酸は塩酸の2倍分の働きをするんですね。

 

 結局、酸塩基反応はH+をあげる・もらうの関係だから、塩酸や硫酸そのもののモル数ではなく、H+のモル数を知りたいわけです。だから、1価は大丈夫ですが、2価や3価では必ず酸・塩基のモル数に価数をかけないといけない!この後の計算問題で価数が以下に大事かが分かると思います。

 ◆酸塩基反応と塩

 酸・塩基の中心となるのは、酸塩基反応です。基本的に酸と塩基が反応すると、塩と水が生じます。例として塩酸と水酸化ナトリウムの反応を見てみましょう。

 HCl+NaOH→NaCl+H2O

 

 塩酸からはH+が、水酸化ナトリウムからはOH-が放出されるため、H++OH-→H2Oの反応によって水が生じます。そしてそれ以外のイオンのCl-とNa+からNaClが生じます。このような水以外の生成物を「塩(えん)」とよび、酸塩基反応では必ずこの塩が生じます。よく「塩基」と「塩」を混乱させる人がいますが、全く違うものだということを確認して下さい。

 

 では練習問題です。次の酸塩基反応の化学反応式を書け。またそれぞれの塩は何か。
  1) 硫酸と水酸化ナトリウム 2) 炭酸と水酸化カルシウム 3) 硝酸とアンモニア

 1) 反応式はH2SO4+2NaOH→Na2SO4+2H2Oです。係数に気をつけましょう。硫酸が2価なのに対し水酸化ナトリウムは1価ですから同じモル数で反応すると硫酸は半分しか反応せず、過剰になってしまいます。そこで水酸化ナトリウムは硫酸の2倍分の量が必要となります。確かに係数は2となっています。またそれにあわせて水も係数が2となります。塩は硫酸ナトリウムです。

 2) 反応式はH2CO3+Ca(OH)2→CaCO3+2H2O。今度は2価どうしの反応なので、お互いの係数比は1:1となっています。ただしそれぞれ2倍分のH+とOH-を放出するので水の係数が2となっています。

 3) 反応式はHNO3+NH3→NH4NO3です。塩は硝酸アンモニウム。これは今までの話とちょっと違いますね。水が生成していません。実はアンモニアのときだけは水が生じず塩だけが生成するんですね。

 通常、他の塩基にはOH-があり、こいつがH+を受け取るアクセプターの役割をしているわけです。H+があったら、このOH-がH+をぱくっと食べてその結果水に変化する、みたいなイメージをもってください。アンモニアはその分子自身がアクセプターとなる点で他の塩基とは違います。NH3自身がH+を受け取ってアンモニウムイオンNH4+となり、それが残りの陰イオンとくっついて塩を生成するんです。例外はこのアンモニアのときだけなので、特別扱いで覚えておいてください。

 ◆塩の分類と液性

 塩は正塩・酸性塩・塩基性塩の3つに分類することができます。ですからまず分類ができるようにならないといけない。

 

名 称
説 明
酸性塩
XHSO4やXHCO3など化学式中に電離し得るHをもつ塩 NaHSO4,NaHCO3,
NaHPO4,NaH2PO4など
塩基性塩
MgCl(OH)など化学式中にOHをもつ塩 MgCl(OH)など
正 塩
上記以外の塩 NaCl,(CH3COO)2Ca,
(NH4)2SO4など

 酸性塩は、説明の通り硫酸水素イオンや炭酸水素イオンなどをもつ塩のことです。他にもリン酸水素塩などが該当しますが、よく出てくるのは前者の2つなんでまずはこっちを覚えてください。

 塩基性塩はあまりないのですぐに判断できます。よく出てくるのはMgO(OH)。もちろん他にもありますが、OHをもつ塩は間違いなく塩基性塩です。ちなみにNaOHはOHをもっていますが、塩ではなくて塩基なので定義外です。間違えて塩基性塩としないように。塩基性塩はあまり問題に出てこないんでこれぐらいの知識で十分です。

 正塩は酸性塩と塩基性塩以外のすべての塩を指します。だからものすごく多いんです。ですからここでは正塩の定義を避け、以外の塩、として説明しました。実際この方が覚えやすいです。

 

 次に、液性の話です。液性とは水に溶かしたときに酸性・塩基性・中性のいずれを示すかということです。ここで強調しておきたいのは、塩の名称と液性は全く関係ない!ということです。常識的に酸性塩といったら酸性を示しそうじゃないですか。正塩だったら中性を示しそうですよね?ところがそうじゃないんです。酸性塩でも塩基性を示すものがあるし、正塩でも酸性や塩基性を示すものがある。ホントに全く関係ないんですね。

 

 塩の名称≠液性

 ではどう判断すればいいのかということになりますが、まず正塩の判断の仕方は以下のようになります。 

組み合わせ
 液 性 
酸+塩基の塩
中 性
NaCl,CaSO4,NaNO3など
酸+塩基の塩
酸 性
NH4Cl, (NH4)2SO4,FeCl3など
酸+塩基の塩
塩基性
(CH3COO)2Ca,Na2CO3など

 

 まず、正塩だとわかったらそれが何の酸と何の塩基からできているのかを考えます。たとえばNaClだったらNaは水酸化ナトリウムから、Clは塩酸からきたとわかります。これは強酸と強塩基の組み合わせなので、NaClの液性は中性だとわかります。NH4Clでは、NH4が弱塩基のアンモニアから、Clが強酸の塩酸からきているので、これは強酸+弱塩基の組み合わせで、液性は酸性だとわかる。強い方になびくんだな、という感覚をもっていると覚えやすいです。同様にして(CH3COO)2Caは弱酸の酢酸+強塩基の水酸化カルシウムの組み合わせなので塩基性となる。

 では次に、酸性塩の判断の仕方です。酸性塩では上のやり方は通用しないので、別の方法で覚える必要があります。

 

化学式
 液 性 
XHSO4, XH2PO4
酸 性
XHCO3, XHPO4
塩基性

 

 センターレベルでは硫酸水素塩と炭酸水素塩のみなんで、硫酸水素塩→酸性、炭酸水素塩→塩基性と覚えてしまえば十分です。リン酸水素塩とリン酸二水素塩も一応書いておきましたが、国立2次などのかなりのレベルならないと出てこないので必要ない人は忘れてしまって構いません。 

 ◆塩の液性と加水分解

 では、なぜ以上のような液性を示すのか、ということを説明しましょう。ここでのキーワードは「加水分解」です。加水分解とは水溶液中のイオンが水と反応することです。微妙に化学Ⅱの平衡が絡むのでなるべく簡潔に説明します。

 

 まず、正塩についてです。

 強酸と強酸の組み合わせで中性を示すのは、電離後のイオンが非常に安定なため水と反応せず、H+やOH-を生じないためです。たとえば塩酸と水酸化ナトリウムだったら塩は塩化ナトリウムであり、塩は電離してNa+とCl-はイオンのままでそれ以上何かと反応しようとする気はさらさらないわけです。ではこの安定性は、どこから来るのでしょう?前にも説明したように”強酸”とはH+を放出する能力が高いものを指します。HClは水溶液中で分子としてよりもイオンとしている方が安定なので、完全電離します。これは逆にいうとHClという分子状態が不安定だということです。いったん電離してCl-となって安定化したわけですから、わざわざもう一度反応してHClに戻ろうとはしない。つまりCl-は、H+を受け取りにくい物質だということです。それはつまり弱塩基だということ。弱塩基のCl-はそれ自身塩基としての性質が非常に弱いので、水などからH+を奪う力がほとんどないんですね。だからイオンのままでいるわけです。Na+もOH-を受け取りにくい物質、つまり弱酸であり、OH-を奪う力がほとんどない。だからNa+もCl-も加水分解しない。

 次に、強酸と弱酸の組み合わせが酸性を示す理由についてです。ここでは塩酸とアンモニアの反応による塩化アンモニウムを考えてみましょう。反応によって生じた塩はNH4+とCl-に完全電離しています。Cl-は先ほどと同じで何もせずじっとしています。ところが、NH4+はそうではありません。アンモニアは弱塩基ですから、H+を受け取ろうとする力が弱い。ということはイオンのNH4+にあまりなりたくないんです。NH4+はなるべくH+を放出してNH3に戻りたいんですね。これはつまり酸としての性質が強塩基でのNa+よりも強いということです。その結果、NH4+はH2OにH+を渡してNH3に戻ろうとしてます。これが加水分解です。

 

 NH4+ + H2O NH3 + H3O+

 

 H2OはNH4+からH+を受け取ってオキソニウムイオンH3O+となります。H3O+はH+だと考えてしまって構いません。加水分解を起こすのはほんの一部なのですが、この反応によってH+が生じることになる。その結果水溶液中の[H+]が大きくなり、酸性を示すことになるわけです。

 

 

 今度は、弱酸と強塩基の組み合わせが塩基性を示す理由について。酢酸と水酸化ナトリウムの反応で考えると、生じた塩の酢酸ナトリウムは完全電離してCH3COO-とNa+となっています。前述したようにNa+はイオンのままでじっとしていますが、今度はCH3COO-がじっとしていません。考え方はNH4+の時と同じで、CH3COOHは弱酸だから分子の方が安定で、あまりH+を放出したくない。だからCH3COO-になるとなんとかしてH+を奪ってCH3COOHに戻ろうとする。その結果、水からH+を奪って加水分解します。

   CH3COO- + H2O CH3COOH + OH-

 H2OはH+を失って、OH-となります。これが水溶液全体の液性を支配することになり、塩基性を示すことになるのです。

 

 以上、正塩での液性についての説明でした。今度は酸性塩についてです。まずは硫酸水素塩について。

 硫酸水素ナトリウムは水溶液中で酸性を示します。まず、水溶液中で完全電離します。

 

NaHSO4 → Na+ + HSO4-

 

 Na+はやはりイオンのままで安定ですが、HSO4-は水溶液中でさらに電離します。

 

HSO4- →H+ + SO42-

 

 その結果、H+を生じるので液性は酸性となります。ただ、ここで疑問をもつ人もいると思うんです。HSO4-+H2O→H2SO4+OH-もありなんじゃないのか?そうしたらOH-を生じるから塩基性になるのではないか?

 硫酸水素イオンは自身の中にHをもっており比較的強い酸なので、自力で反応を生じます。だからH+を受け取るような加水分解反応はほとんど起こらない。そう考えてください。

 

 今度は炭酸水素塩についてです。炭酸水素ナトリウムは水溶液中で塩基性を示します。まず、水溶液中で完全電離して、

 

NaHCO3 → Na+ + HCO3-

 

 Na+がイオンのままなのに対し、HCO3-は加水分解を生じます。ただし、ここで2通りの加水分解の仕方があるんです。

 

HCO3- + H2O H2CO3 + OH- …[1]

 

HCO3- + H2O CO32- + H3O+ …[2]

 

 [1]も[2]も起こり得ます。しかし、[1]は[2]に比べるとその反応の割合が圧倒的に小さいんです。つまりほとんどのHCO3-が[1]の反応をするため、[2]の影響は無視されます。結果としてOH-を生じるので塩基性となります。

 

 ◆水素イオン濃度とpH

 水の中では、水素イオン濃度[H+]と水酸化物イオン濃度[OH-]の積は一定値をとります。これを水のイオン積といい、Kwで表します。特に室温では、

Kw=[H+][OH-]=10-14

 これは、つまり[H+]と[OH-]は反比例するということです。[H+]が大きくなると[OH-]は小さくなり、[H+]が小さくなると[OH-]は大きくなる。常にバランスが保たれているわけです。
 これをみたす条件の中で、唯一[H+]=[OH-]となるときがあります。[H+]=[OH-]=10-7 です。この状態ではH+とOH-がちょうど同じモル数だけあるわけですから、打ち消しあって液性は中性になります。

 [H+]>[OH-]となるとH+が過剰になるわけですから、これが液性を支配して酸性を示します。逆に[H+]<[OH-]となるとOH-が過剰になるので今度はこれが液性を支配して塩基性を示します。

 以上をまとめると、酸性とは[H+]が10-7mol/l以上の状態であり、中性とは[H+]が10-7mol/lのときの状態であり、塩基性とは[H+]が10-7mol/l以下の状態だとわかります。今まで液性というものをH+とOH-の両方でなんとなく表してきましたが、[H+]のみで液性を数値的に表せることが可能になり、液性の度合いをより細かく判断できるわけです。

 ただ、数値を見れば分かるように、数値が小さすぎてイマイチピンと来ないんですね。そこで、pHが登場です。この小さすぎる数字を対数を用いて身近な数字に変換したものがpHなんです。

pH = -log10[H+]

 これを用いると10-7mol/lがpH=7となります。つまり酸性とはpH<7、中性がpH=7、塩基性がpH>7となり、これだと直感的に液性が判断できるので非常に便利です。

 

 式からわかるように、pHを求めるには水素イオン濃度[H+]を求めることが不可欠です。ですからpHの問題が出てきたらまずは[H+]を求めることに全力を注ぐこと。これさえ正確求めれば後は単なる数Ⅱの対数計算。

 では、実際に問題を解いてみましょう。この問題で酸・塩基での典型的な計算方法を学習できるので、必ず自力で解いてから解説を読んでください。

  [練習問題] 

次の(1)~(5)の水溶液のpHを小数点第一位まで求めよ。ただしlog2=0.30,log3=0.48とする。

  (1) 0.01mol/lの塩酸2ml
  (2) 0.25mol/lの硫酸10mlに水90mlを加えた溶液
  (3) 固体の水酸化ナトリウム2.0gを水に溶かして200mlとした溶液
  (4) 0.1mol/lの酢酸5ml(電離度0.016)
  (5) 標準状態で5.6mlアンモニアを水にすべて溶かして50mlとした溶液(電離度0.012) 

 [解 説]

(1) 先ほど言ったようにpHを求めるには[H+]を求めることを考える。塩酸は1価なので塩酸1molからH+が1mol生じる。ということはH+の濃度と溶液の濃度は全く同じになるはず。つまり[H+]=0.01mol/lです。2mlという数値にだまされてしまった人は濃度を求めているんだということを忘れないようにしましょう。確かにモル数だったら値はそのときの体積によって変化しますが、濃度は何mlあったって0.01mol/lのままですよね。[H+]=10-2より、pH=-log10-2=2.0が正解。

 

(2) もともとの硫酸の濃度は0.25mol/lですが、水を加えて薄められているので濃度は小さくなっています。10ml→100ml(10+90)なので10倍に薄められて、0.25×10/100=0.025mol/lとなります。次にH+の濃度ですが、硫酸は2価なので硫酸1molから2倍の2molのH+が放出されることになります。ということはH+の濃度は溶液の濃度の2倍になるはずです。だから[H+]=0.025×2=0.050(mol/l)。よってpH=-log(5.0×10-2)=2-log5.0。log5.0=log(10/2)=1-log2=0.70なのでpH=2-0.70=1.3が正解。

 

(3) 水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、2.0/40×1000/200=0.25mol/l。ここで初めて塩基が出てきました。水酸化ナトリウムが放出するのはH+でなくOH-ですからいきなり[H+]は求められません。ではどうするのかというとまず[OH-]を求めてこれを水のイオン積Kwを用いて[H+]に変換するわけです。[H+][OH-]=10-14なので[H+]=10-14/[OH-]に代入すればよい。水酸化ナトリウムは1価なので[OH-]と溶液の濃度は同じであるから、[OH-]=0.25mol/l。よって[H+]=10-14/0.25=4.0×10-14mol/l。よってpH=14-log4=14-2log2=14-2×0.30=13.4が正解。確かに値は塩基性の範囲になっています。

 

(4) ここで”弱”酸の登場です。(1)~(3)ではすべて”強”だったので電離度はすべて1として計算していました。ところが【酸・塩基の強弱】で説明したように”弱”ではほんの一部しか電離していないので、当然電離度を計算の中に入れなくてはいけません。酢酸の濃度は0.1mol/lですが、すべての分子のうちのたった1.6%しか電離していないので、[H+]=0.1×0.016=16×10-14mol/l。よってpH=4-log16=4-4log2=4-4×0.30=2.8が正解。

 

(5) アンモニアも弱塩基なのでpHを求めるには電離度が必要。まずアンモニアの濃度は5.6/22400×1000/50=5×10-3mol/l。また1価で電離度が0.012より、[OH-] = 5×10-3×0.012=6.0×10-5。ここで(3)のように[H+]を求めてもいいのですが、ここではより簡単に求められる方法で解いてみます。pOH=-log[OH-] とすると水のイオン積から pH + pOH = 14 という関係が求まります。そこでまずpOHを求めて pH =14 – pOH で求めればよい。割り算が対数によって引き算になったので計算しやすくなるわけです。pOH=-log(6.0×10-5)=5-log6=5-(log2+log3)=4.22。よってpH=14-4.22=9.78→9.8が正解。

 

[解 答] (1)2.0 (2)1.3 (3)13.4  (4)2.8  (5)9.8

 

 

 ◆中和反応

 

 酸と塩基が反応することはすでに学びました。酸からH+が放出され、塩基がそのH+が受け取るという関係がその根本の考え方です。両者が水溶液中に存在する限りこの関係は崩れません。

 

 

 ただ、もし酸の方が過剰でH+>OH-だと、OH-はすべてのH+を受け取ることはできずに反応後の水溶液中には過剰分のH+が残ってしまいます。もちろん塩基の方が過剰だったら反応後にはOH-が残っているはずです。

 では、酸から放出されるH+と塩基から放出されるOH-がちょうど同じ量だったらどうでしょう?

 H+とOH-はちょうど1組ずつペアを組んでH2Oとなり、H+とOH-が全く残っていません。このように酸と塩基が過不足なく反応した状態を「中和」といいます。酸塩基反応の中でも特に中和となる場合は中和反応とよびます。

 以上から、中和反応では必ず次のことが成り立ちます。

(酸から放出されるH+のモル数)=(塩基から放出されるOH-のモル数)

 この当たり前の式をちゃんと使えこなせるかどうかがこの分野攻略の重要なポイントです。「こんなの誰でも知っている」と思うでしょうが、知っているのと使えるのとは全然違います。実際この式だけで十分対応できるはずなのに、ちょっとひねられると問題が解けなくなる人がたくさんいるのです。

 たとえば、次のような問題が出てきます。

 [練習問題] 

以下の各問いに答えよ。

(1) 0.1mol/lの塩酸10mlに水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和させたところ、20.8mlを要した。水酸化ナトリウム水溶液のモル濃度を求めよ。

(2) 0.2mol/lの硫酸100mlを用いて中和するまでアンモニアを吸収させた。吸収されたアンモニアは標準状態で何mlか。

(3) 0.05mol/lの酢酸35mlに過剰の水酸化カルシウム水溶液100mlを加え、さらに0.10mol/lの硝酸7.5mlを加えて中和させた。水酸化カルシウム水溶液のモル濃度を求めよ。

 

 [解 説]

(1) 求める濃度をCmol/lとおく。(酸から放出されるH+のモル数)=(以下でモル数を、[ ]でモル濃度を表すことにします)=0.1×10/1000mol。一方=C×20.8/1000mol。よって、0.1×10/1000=C×20.8/1000 これを解いてC=4.8×10-2mol/l。

(2) アンモニアの体積をVmlとおく。=0.2×100/1000×2mol。硫酸が2価であることに注意。=V/22400mol。アンモニアは一価でNH3+H2O→NH4+OH-によって、水からH+を奪うことによって間接的にOH-を放出していると考えれば他の塩基と同じように考えることができる。以上より、0.2×100/1000×2=V/22400 V=896ml。

(3) これはいわゆる逆滴定とよばれる反応です。酢酸が放出するH+にくらべて明らかに過剰のOH-を放出するNaOHaqをあえて加え、その過剰分のOH-を今度は2つ目の硝酸で中和させるという反応です。このぐらいになると解けなくなる人が出てきますが、考え方は全く同じです。まず酢酸から放出された=0.05×35/1000=1.75×10-3mol。一方、Ca(OH)2aqのモル濃度をCmol/lとおくと、これから放出された=C×100/1000×2mol(2価に注意!)と表せます。いつもだったら酸と塩基が1つずつ反応していましたが、ここでは中和を過ぎてOH-が過剰になってしまった溶液を、今度は硝酸の=0.10×7.5/1000=0.75×10-3molで打ち消す。結局のところ、酸(酢酸+硝酸)から放出されたH+と塩基から放出されたOH-のモル数は同じになるわけです。以上をまとめると下図のようになります。

 公式に従って、1.75×10-3+0.75×10-3=C×100/1000×2となり、これを解くとC=1.25×10-2mol/lとなる。

 [解 答]

 (1) 4.8×10-2mol/l  (2) 896ml。  (3) 1.25×10-2mol/l

 ◆中和滴定

 中和反応を利用することで、酸または塩基の濃度や必要量を決定することができることがわかりました。では実際にこの中和反応を起こすときにどうするのか。その際の実験操作が中和滴定です。

 化学ではイメージをしやすくするのに資料集がかなり役立ちます。特にこの中和滴定は、よく実験ごと問題になったりするので、資料集で実験の様子を観察することは大変有効です。このサイトで実験の写真を取り込めばその必要もないのでしょうが、現時点では申し訳ないのですが画像が入手できません。デジカメで学生実験の時にどさくさまぎれて写真をとればよかったのですが、そんな余裕もまたデジカメを買うお金もなく(苦笑)、このように字だけの解説になってしまうことを許してください。なるべく分かりやすい解説を心がけましたが、やはり手元にある資料集と照らし合わせながら読む方がより効果的です。

 ここでは最終的な目標である数値決定はもちろんですが、その過程にある操作の手順や実験器具の知識をしっかりと頭の中に入れなくてはいけません。まず必ずといっていいほど出てくるのが実験器具に関する話です。4つの器具についてまとめてみます。

器具名
外 観
用 途
洗い方
メスフラスコ
資料集を参照
濃度の決まった標準溶液をつくるための器具
水洗い
ホールピペット
資料集を参照
メスフラスコで作成した少量の標準溶液をコニカルビーカーに移すための器具
共洗い
ビュレット
資料集を参照
濃度未知の溶液をコニカルビーかに滴下し、その滴下量を目盛ではかり取るための器具
共洗い
コニカルビーカー
資料集を参照
中和の場。標準溶液を加えた後、指示薬を加えて反応の様子を観察するための器具
水洗い

 

 ここで大事なのは、上の表を丸暗記するのではなく、滴定の操作の流れの中でイメージして理解するということです。頭の中で滴定ができるくらいにまでなることで、外観はもちろん用途や洗い方まで自然と理解できます。どんな滴定だろうといつもやることは同じなので、イメージを完全にインプットしましょう。

 それでは、例を通して滴定操作の流れを見ていきましょう。

 シュウ酸水溶液による水酸化ナトリウム水溶液の滴定

 シュウ酸を用いて、濃度未知の水酸化ナトリウムを滴定し、その濃度を決定します。中和滴定で水酸化ナトリウムはよく滴定される側にまわります。これは、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を直接求めるのは難しいからです。固体の水酸化ナトリウムには空気中の水分を吸収してべとべとになっていく「潮解」という性質や、塩基性なので空気中の二酸化炭素と酸塩基反応してしまうなどで、固体の水酸化ナトリウムは絶対に不純物が混ざってしまうんです。ですから、固体の水酸化ナトリウム4.0gに水を加えて1lとしても、0.1mol/lより小さい濃度の溶液となってしまう。そこで濃度の変化が生じにくいシュウ酸を標準溶液として、中和滴定から本当の水酸化ナトリウム水溶液の濃度を求めるわけです。

 

  シュウ酸標準溶液(0.050mol/l)の調製

・ シュウ酸二水和物(H2C2O4・2H2O 分子量126)6.30gをはかりとる。

 シュウ酸の固体として水和物が用いられます。水和物だからといって別に計算が難しくなるわけではありません。水和物1molからシュウ酸1molが生じるのですから、ここでは水和物0.050mol分(0.050×126=6.30g)をはかり取れば自動的にそれがシュウ酸のモル数となるわけです。

・ ビーカーなどで純水を加えて溶かし、1000mlメスフラスコに移す。その際、ビーカーを何回か純水で洗い、それもメスフラスコに移す。

 ここで重要な実験器具の1つ、メスフラスコが出てきました。

 ところでなぜ固体のシュウ酸二水和物を直接メスフラスコに入れずにいったん純水に溶かすのでしょう?

 固体のままだと、こぼれたりメスフラスコの内壁についたりするなどで正確さが失われる恐れがあるからです。いったん溶かして溶液とした方が移しやすいですよね。また、ビーカーから移すときも1回移したら終わり、ではなく、ビーカーの中を何回も純水で洗ってはそれをメスフラスコに移して、ビーカー中に少しのシュウ酸も残らないようにするんです。滴定は一滴の差が勝負の実験ですから、1つ1つの操作に大げさなくらいの丁寧さが求められるんですね。

 ・ 標線まで水を加え、よく振り混ぜて均一とにする。

 メスフラスコの生命線はこの「標線」です。”1000ml”と書かれたメスフラスコは、この標線までで1000mlだということです。だから水をこの線まで加えれば自動的に溶液の体積が1000ml(=1l)になるわけです。もし、誤ってこの標線を越えてしまったら、、、失敗です。目的の0.050mol/lよりも薄くなってしまいますから、これでは使い物にならない。もう一度やり直しです。だからこの標線まで加える操作はすごく気をつけないといけないんですね。

 

 これでシュウ酸0.050molが1lの溶液に含まれているのですから、濃度0.050mol/lの標準溶液が完成しました。

 

   水酸化ナトリウム水溶液(約0.1mol/l)の調製

・ 固体の水酸化ナトリウム約0.8gをはかりとって、これを純水約200mlに溶かして約0.1mol/lの溶液をつくる。

 NaOHaqをつくるわけですが、この濃度を決定するのですから、測定は適当でいい。だいたい0.8gをはかり取るということは別に0.78gでも0.81gでも別に構わない。純水もメスシリンダーなどではかりとってだいたい200mlであればいい。どうせ正確に測りとっても0.1mol/lにはならないのですから。だからだいたい0.1mol/lになればそれでいいんです。あとはその濃度を後の操作によって求めればいい。

   ビュレットの準備

・ ビュレットをスタンドにセットする。

 重要な実験器具の2つ目、ビュレットが出てきました。とても細長く器具で、これによって液滴を生じさせます。

・ ビュレットにNaOHaqを加える。

 加えるといってもビュレットの口はとても小さいので、そのままではこぼれてしまう恐れがあります。そこで漏斗を使って加えてやります。

・ コックをひねって溶液を少し流しだす。

 ②のままだと滴下部分に空気がたまっているので、溶液を少し流し、すぐに最初の1滴が出るようにしておきます。

  コニカルビーカーの準備

・ シュウ酸標準溶液を、10mlホールピペットを用いてコニカルビーカーに移す。

 重要な実験器具の残り2つが出てきました。ホールピペットはメスフラスコなどですでに濃度の決まっている溶液を少量移すのに用いる器具です。この器具にも標線があり、10mlホールピペットならやはり標線までで10mlだということです。

 ホールピペットの中央がぷくっと膨らんでいるのにはちゃんと理由があります。ホールピペットでは最後の1、2滴がどうしても残ってしまうので、これを完全に出し切るために先を指で押さえ、さらに手のひらでこの膨らんでいる部分を軽く握って温めてやります。そうするとちゃんと出てくるんですね。これはボイル・シャルルの法則の応用です。温度と圧力は比例しますから、中の空気を温めてやることで圧力が上がり、残りの溶液を押し出すわけです。 

・ 指示薬のフェノールフタレインを1,2滴加える。

 ここでは弱酸と強塩基での滴定なので、中和点は塩基性側に寄ります。ですから指示薬としてフェノールフタレインが適切です。指示薬は1,2滴を加えるだけで十分です。よく多く加えた方がいい、と思っている人がいるんですがこれは逆にマズい。どんな指示薬も、少ないとはいえ酸もしくは塩基なんです。ですからあんまりたくさん加えると指示薬の、測定する中和反応に与える影響が無視できなくなってしまう。正確な測定値が得られなくなってしまうんです。

 

   測定

・ ビュレットの最初の目盛を読み取る。

 これを忘れて滴定をはじめると、どのくらい滴下したのか分からなくなってしまいます。

 

・ 滴下を開始する。

 滴下をはじめると、最初は指示薬の赤色がすぐに消えてしまいます。この時点では圧倒的に酸のシュウ酸が多いので、NaOHaqからのOH-は、大多量のH+によって消費されるてしまうので指示薬はすぐに無色になります。

 どんどん加えていくうちにこの赤色が消えるスピードが遅くなってきます。これはだんだんH+の量が少なくなってOH-をすべて消費するのに時間がかかってくるからです。ただ、まだH+の方が多いのでよく振ると無色に戻ります。

 

・ 終点まで加え、そのときのビュレットの目盛を読み取る。

 終点は、「溶液が薄い赤色になったとき」です。真っ赤になってしまったらそれは加えすぎです。OH-が過剰に存在しているということですから。終点付近はpH変化が急激であるため、たった1滴で指示薬の色が激変します。ですからこの終点付近での操作はすごく難しく、滴定で一番気を使うところなんです。

 

・ 上記を最低計3回行い、NaOHaq滴下量のデータを得る。

  計算

 ビュレットによる滴下量を求め、平均をとる。

 この実験では、このようになりました。

 
はじめの目盛
終わりの目盛
滴下量(ml)
1回目
0.00
10.41
10.41
2回目
10.50
20.83
10.33
3回目
20.90
31.28
10.38

 

 これから、滴下量の平均値は(10.41+10.33+10.38)/3=10.373….→10.37mlとなります。この数値を用いてNaOHaqの正確な濃度を求めます。ここでシュウ酸が2価の酸であることに気をつけましょう。濃度をCmol/lとおくと、

C×10.37/1000×1=0.0500×10/1000×2 C=0.9643….

 よってNaOHaqの濃度は、1mol/lより少し小さい0.964mol/lだとわかりました。

 以上が、中和滴定の流れです。

 ◆実験器具の使い方

 

 単元的には小さいところなのですが、よく聞かれるところなんで独立して解説を加えます。

 

水洗い メスフラスコ、コニカルビーカー
共洗い ホールピペット、ビュレット

 

 水洗いは、その名の通り、純水ですすぐということです。一方、共洗いとは、使用する溶液であらかじめすすぐということ。洗い方としてはこの2通りだけです。よく問題で一緒に「加熱して乾燥させる」というのがありますは、これは絶対にあり得ません。ガラス器具は熱に弱く、器具が変形して生命線の目盛が狂ってしまいます。ですからガラス器具に加熱はタブーです。それに別にわざわざ乾燥させなくても器具は使用できます。

 もちろん上の表を丸暗記してもいいんですが、理由もあわせて覚えた方が忘れません。

 

 メスフラスコは標線まで水を加える器具です。ですから、別に水滴がついていても全然構わない。逆に何かの溶液がついていたら目的の濃度とズレが生じてしまいます。ですから水洗いが適切です。

 

 ホールピペットは、一度メスフラスコで濃度を決定した溶液を移すための器具ですから、もしそこに水滴がついていたら予定よりも濃度が薄まってしまいます。上の実験だったら、シュウ酸の濃度が0.0500mol/lよりも小さくなったものを使用することになるので当然正確さが失われます。ですからあらかじめ使用するシュウ酸溶液で共洗いしておけばこのようなことは起こりません。

 

 ビュレットは、濃度を求めようとしている溶液を加えて、滴定するための器具です。もし水洗いしてしまったら、上の実験だったら求めようとしているビーカー中のNaOHaqの濃度よりも薄まった溶液の濃度を測定することになり、やはりマズい。ですからNaOHaqで共洗いする必要があるわけです。

 

 コニカルビーカーは、中和の場です。すでに酸と塩基の濃度が決まっており、問題になるのはH+とOH-のモル数です。ですから、別に水が入っていても、両者のモル数になんら影響はありません。逆にもし、他の溶液が混じってると中和反応に参加してしまい、正確な計算ができません。ということで水洗いが適切です。  

 

 ◆滴定曲線

 滴定中のpH変化の様子を表したものが、滴定曲線です。この曲線は、溶液のpH変化が一目でわかることはもちろん、中和点や指示薬選択の理由などもわかるのでとても便利です。

 ここでは、塩酸0.1mol/l10mlを、水酸化ナトリウム0.1mol/lで滴定した場合のpH変化の様子を見ていきましょう。下の図を見てください。これはNaOHaqのそれぞれの滴下量でのpHなどを表したものです。[1] は最充3] ではNaOHaqが加えられ、少しずつですがpHが大きくなってきています。しかしまだ塩酸の方が過剰なため、酸性を示します。

 ところが滴下量が10mlになると中和するため、[4] ではpHは一気に7.0となります。

 [5]~[7] では塩酸はすべて消費されているので、今度はNaOHaqが過剰となり、塩基性を示します。当然pHがどんどん大きくなっていくわけです。

 

NaOHaqの
滴下量(ml)

液 性
水素イオン濃度[H+]または水酸化物イオン濃度[OH-]
pH
番号
0
酸 性
[H+] = 0.100
1.0
[1]
5
[H+] = (0.1×10/1000-0.1×5/1000)×1000/11=0.033
1.5
[2]
9.9
[H+] = (0.1×10/1000-0.1×9.9/1000)×1000/19.9=0.00050
3.3
[3]
10
中 性
[H+] = [OH-] = 10-7
7.0
[4]
10.1
塩基性
[OH-] = (0.1×10.1/1000-0.1×10/1000)×1000/20.1=0.00050
10.7
[5]
15
[OH-] = (0.1×15/1000-0.1×10/1000)×1000/25=0.020
12.3
[6]
20
[OH-] = (0.1×20/1000-0.1×10/1000)×1000/30=0.033
12.5
[7]

 ここで注目してほしいことは、pHの変化の仕方です。[1]→[2]では5mlも加えてpH変化はたった0.5です。[2]→[3]では4.9mlでpH変化は1.8。ところが、です。[4]→[5]でも0.1mlで変化は3.7で、その後[5]→[6]で1.6、[6]→[7]で0.2。このことからわかるように、中和付近の[3]~[5]ではpHが急激に変化するんです。これを滴定曲線で表すと次のようになります。

 

 このように、滴定曲線には必ずpHが急激に変化する直線部分が現れます。たった1滴の差で急激に変化するのでこのようなまっすぐに伸びた直線となるわけです。もちろん直線になる直前の[3]と[5]では0.2mlほど違いますが、この差は小さすぎるので直線の傾きはほぼ90°になります。

 そして大事なことは、中和点はこの直線部分の真ん中にあるということです。これは絶対に知っておいてください。次の話でその大事さが分かります。

 

 ◆指示薬とと滴定曲線

 

 前の滴定曲線は、強酸のHClaqと強塩基のNaOHaqのものでした。では他の組み合わせではどうなるのでしょう?それを下の図に示しました。

 

 左上はさっきと同じ強酸+強塩基のパターンで、中和点はど真ん中の対称的な曲線です。それに対し、右上では中和点が塩基性側にズレています。これは【塩の液性と加水分解】で説明したように、中和では塩の加水分解によって塩基性となるからです。逆に左下では今度は中和点が酸性側にズレる。この理由も同じです。右下は弱酸+弱塩基のパターン。実はこれまでこのパターンをあえて避けてきましたが、それは水の電離がからむ為に化学Ⅱの平衡の話が出てくるため、ここでは範囲外だからです。現時点では中和点がpH7付近を示すことを知っていれば十分です。

 どのパターンの滴定曲線かを判断する手段として、中和点の位置で判断する、ということがわかりました。では他にはどんなものがあるでしょう?

 1つは、滴定前のpHをチェックする、です。強酸では弱酸のときよりスタートのpHが必ず小さいはずです。図でもスタートのpHが左(塩酸)と右(酢酸)で明らかに違うことが分かります。塩酸ではpHが約1.0であるのに対し、酢酸では約3.5です。またこれは玄人の判断の仕方ですが、はじめの曲線の形で判断する、というのがあります。左の塩酸では曲線の傾きが常に正であるのに対し、右の酢酸では傾きが0になるところがあります。これは弱酸を用いた場合に必ずこのような曲線が生じます。その理由は、化学Ⅱの範囲になってしまうのですが、酢酸分子と酢酸イオンの濃度がほぼ等しくなったときに起こる「緩衝溶液」の状態にあるからです。この状態では少し酸や塩基を加えたところでpHはほとんど変化しません。このことは図の曲線からもわかります。詳しくは化学2での話のときに譲ります。

 さて、次に大事なのは指示薬の選択です。これも非常によく聞かれる話です。これもパターンは決まっているので丸暗記でも構いません。しかしこれにもちゃんと理由があるんです。

 

指示薬名
フェノールフタレイン
メチルオレンジ
変色域
8.0~9.8
3.1~4.4
強酸強塩基
弱酸強塩基
×
強酸弱塩基
×
弱酸弱塩基
×
×

 そもそも指示薬とは、中和に達したことを知らせるためのものです。中和反応など直接目で見えるわけないのですから、指示薬の色の変化によって間接的に知ることができるわけです。ということは、当然中和点付近で変色域をもつような指示薬でないといけない。では中和点を必ず含んでないといけないのかというとそうではなくて、ほとんど滴下量が同じである直線部分のpH範囲内に変色域をもっていればよい。求めたいのは終点での滴下の目盛なのだから、直線部分だったらどこだって中和点での目盛とほとんど変わりないから構わないわけです。

 

 強酸+強塩基では、直線部分がpH3~11のところまで広範囲に伸びているおかげで、どちらの指示薬の変色域も含まれています。どちらでも変色したときの滴下量は中和点でのそれとほとんど変わらないので、使用可能です。

 ただし、表を見ればわかるようにフェノールフタレインが◎になっています。これはこっちの方が好まれる、ということです。あらゆる指示薬の中でもフェノールフタレインが好まれて使用されるのは、無色となるおかげで変色の判断がしやすいからです。無色か赤かというのは他の指示薬に比べるとすごく判断しやすい。ところがメチルオレンジだと赤色と黄色の間には、赤に近いオレンジ色や黄色に近いオレンジ色があるためその判断の見極めが難しいんです。だから、どっちも使えるんだったらやりやすいフェノールフタレインを用いよう、というわけです。

 このことからもなぜ一見キレイなBTB溶液が用いられないのかが分かるはずです。確かに中性付近に変色域を持っているのですが、黄と青の間の緑の見極めがすごく難しいんですね。緑といってもいろんな緑があるから、どれがど真ん中なのか分かりにくい。だからあまり用いられないわけです。

 

 弱酸+強塩基では、直線部分がpH=5~11のところまでと短くなり、ここに変色域が含まれるのはフェノールフタレインのみです。もしここでメチルオレンジを用いたとすると、NaOHaqを少し加えただけのまだ全然中和に達していないところでいきなり色が変わってしまうことになる。これでは当然正確な滴定量など測定できません。

 

 強酸+弱塩基では、直線部分がpH=3~8なので、この間に変色域をもつメチルオレンジが指示薬として適切となります。

 

 最後に弱酸+弱塩基ですが、今までの話から推測されるように、直線部分があまりにも短いためにフェノールフタレインやメチルオレンジでは中和点の判断ができないんです。だからあまり問題で出てこないんですね。ではどうするかというと仕方ないのでこの付近に変色域をもつBTB溶液などを用いるしかないのです。ただし入試でこのパターンを扱ったものはほとんどありません。ですから無視してても構いません。

 

 ちなみにときどきメチルオレンジの代わりにメチルレッド(変色域4.2~6.3)が用いられるときがありますが、考え方は全く変わらないので同じものとして扱ってしまって大丈夫です。

 

 ◆操作の違いによる滴定曲線の変化

 これまで滴定曲線では、同じ濃度の1価の酸と塩基が同じ量で中和したときのみを扱ってきました。ここではそれを変えた場合の滴定曲線の変化を見ていきましょう。

 Ⅰが今まで扱った基本の形です。これを基準として考えていきます。

 ⅡはNaOHaqの濃度を2倍にした場合です。濃度が2倍になった分、必要とされる体積は1/2の5mlとなるので滴下量が5mlで中和に達します。

 Ⅲは今までNaOHaqを滴下していたのを今度は逆にして、HClaqを滴下した場合です。曲線はちょうど中和点を点対称としたものになります。最初はNaOHaqがコニカルビーカー中にあるのでpHは塩基性側からスタートし、HClaqを加えることでどんどんpHが下がっていきます。

 Ⅳは1価の塩酸から2価の硫酸にした場合です。H+のモル数が2倍になったのでNaOHaqは2倍分の体積の20mlを加えないと中和に達しません。