1)溶解と溶液
溶解
液体が他の物質を溶かして均一な混合物になる現象を溶解という。
イオン結晶の水への溶解
イオン結晶は陽イオンと陰イオンが静電気力(クーロン力)によって結合している。しかし、水溶液中では+と-であるにもかかわらず、引き合わずにそれぞれ拡散している。
例えば、塩化ナトリウムNaClは、水溶液中ではNa+とCl-に電離している。Na+とCl-とも結合せずにイオンのまま存在する。これは、水溶液中でイオンは、数個の水分子と結合しているためである。このように、イオンが水分子が結合することを水和といい、水和しているイオンを水和イオンいう。Na+には水分子のδ-が、Cl-にはδ+が結合していく。
分子性物質の溶解
水は極性分子である。そのためエタノールやアンモニアのような極性分子は水に溶解しやすいが、メタンやベンゼンなどの無極性分子は水には溶解しにくい。分子は電離はしないが、極性のある分子は部分的にδ-,δ+が生じるので、水和する。このため、水溶液中で、分散して存在できる。
溶質のうち、溶液中でイオンに電離するものを電解質、イオンを生じないものを非電解質という。一般に、イオン結合性の物質や、極性分子は水のように極性のある溶媒に溶けやすい。逆に無極性分子は、極性のない溶媒(ベンゼンやエーテルなど)に溶けやすい。
2)飽和溶液と溶解平衡
一定温度では、一定の溶媒に溶かしうる溶質の量には限界があり、この限度まで溶かした溶液を飽和溶液という。飽和溶液では、溶質が溶液中に溶け込む速さと溶液中から析出する速さが等しくなり、見かけ上、溶質の溶解や析出が停止した状態になる。この状態を溶解平衡という。
3)固体の溶解度と再結晶
一定量の溶媒に溶ける溶質の最大量を、その溶媒に対する溶質の溶解度という。水に対する溶解度は通常、水100gに溶解しうる溶質の量(g)で示す。
下のような溶解度と温度の関係を表したグラフを溶解度曲線という。一般に固体の溶解度は温度が高くなると大きくなる。(例外:水酸化カルシウムCa(OH)2)
KNO3は90℃では水100gに対して、約200g溶ける。温度を10℃下げると、約170gまでしか溶けなくなる。つまり、90℃のKNO3飽和溶液を、80℃に下げると溶けきれずにKNO3が析出してくる。一方、NaClのように溶解度曲線に大きな差のないものは、温度を下げたところで、ほとんど析出してこない。溶解度の差を利用すれば、KNO3とNaClの混合物から、KNO3を取り出すことができる。この溶解度の差を利用する精製法を再結晶法という。
問題10
硝酸カリウムの溶解度は0℃で13.3,80℃で169である。
①硝酸カリウムの80℃における飽和溶液150g中に硝酸カリウムは何g溶けているか。
②硝酸カリウムの80℃における飽和溶液150gを0℃に冷却すると、結晶は何g析出か。
溶解度の問題は、溶媒(水)・溶質・溶液の3つで考える。
①
|
水 |
硝酸カリウム |
飽和溶液 |
溶解度から |
100g |
169g |
100+169 g |
問題から |
|
x g |
150g |
169:269 = x:150 , x = 94.2[g]
② 溶解度の値から、80℃と0℃の値を比較して、飽和溶液150gの場合ではどうか考える。
|
水 |
硝酸カリウム |
飽和溶液 |
|
80℃の溶解度から |
100g |
169g |
100+169 g |
80℃の飽和溶液269gを0℃に冷却すると、169-13.3 = 155.7[g]析出する。 |
0℃の溶解度から |
100g |
13.3g |
100+13.3 g |
では、飽和溶液150gでは、269 : 155.7 = 150 : x , x = 86.8[g]
問題11
硫酸銅(Ⅱ)五水和物CuSO4・5H2O 20 gを60℃の水50 gに溶かし、これを20℃まで冷却したときに析出する硫酸銅(Ⅱ)五水和物の結晶の量は何gか。ただし、硫酸銅(Ⅱ)無水物CuSO4の水に対する溶解度は20℃で20(g)である。H = 1.0 O = 16 S = 32 Cu = 64
結晶水を持つ結晶を水に溶解すると、結晶水は溶媒の一部となるので、少しややこしくなる。
CuSO4・5H2O 20.0 g中のCuSO4とH2Oの質量は、
CuSO4の質量= 20× |
CuSO4の式量 |
= 20× |
160 |
= 12.8[g] |
CuSO4・5H2Oの式量 |
250 |
H2Oの質量= 20× |
5H2Oの式量 |
= 20× |
90 |
= 7.2[g] |
CuSO4・5H2Oの式量 |
250 |
作った溶液の各質量
水 |
CuSO4 |
溶液 |
50+7.2 g |
12.8g |
20+50 g |
20℃で析出する硫酸銅(Ⅱ)五水和物の量をx gとしたときの溶液
水の量:結晶水の分だけ減る 50 + 7.2 - x × |
90 |
g |
250 |
CuSO4の量:12.8 - x × |
160 |
g |
250 |
20℃で・・・
|
水 |
CuSO4 |
溶液 |
|||||
溶解度から |
100 |
20 |
100+20 |
|||||
問題から |
50 + 7.2 - x × |
90 |
|
12.8 - x × |
160 |
|
20+50- x |
|
250 |
250 |
|||||||
水,CuSO4,溶液のうち2つを選んで比例式をつくり、xを求める。 x = 2.39[g]
4)気体の溶解度
気体の溶解度の表し方
固体の溶解度の表し方(溶媒100gに溶解しうる溶質の質量)とは異なり、「溶媒に接している気体の圧力が1.013×105Paのもとで、溶媒1lに溶かすことのできる気体の体積を、標準状態に換算して表す」場合が多い。
気体の溶解度の温度による変化
気体の溶解度は温度が上昇すると、小さくなる。これは低温では気体の熱運動はあまり大きくないので、比較的容易に水分子中に閉じ込めておくことができるが、高温では逆に気体分子の熱運動が大きいので、水分子中にとどまらずに飛び出していくからである。
気体の溶解度の圧力による変化
ヘンリーの法則(1803年)
一定温度で、一定量の液体に溶ける気体の分子数・物質量・質量は気体の圧力に比例する。体積は入ってないことに注意。
6.0×1023個=1mol=「式量」g だから、溶ける分子数が増えれば、物質量(モル数)も質量も比例して増える。
注意1・・・ 混合気体の場合、溶解度は各成分気体の分圧に比例し、他の気体の存在は無関係である。
注意2・・・ 溶解度の大きな気体や溶媒と反応する気体は成り立たない。例えば、水が溶媒の場合のアンモニアや塩化水素。
ヘンリーの法則の別表現
一定温度で、一定量の液体に溶ける気体の体積は、加わっている圧力のもとで測ると、圧力に無関係で一定である。
気体の体積は標準状態で1mol=22.4lのように、モル数に比例するので、体積も分子数,物質量,質量のように圧力に比例して増えそうだが、「体積は圧力に無関係に一定である」となっている。これは、ボイルの法則より、気体の体積は圧力に反比例するので、例えば、圧力を倍にすると、溶解する気体の分子数,物質量,質量および体積は倍になる。しかし、体積だけは圧力に反比例するので、半分になる(2倍の半分、つまり1)。圧力を3倍にしたときも同様(3倍の3分の1、つまり1)である。よって、体積は圧力に無関係で一定となる。
例)0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水に酸素は、標準状態に換算すると、0.049ml溶ける。(標準状態:0℃, 1.0×105Paとする)
条件 |
分子数 |
物質量 |
質量 |
体積 |
0℃, 1.0×105Pa |
1.3×1018個 |
2.2×10-6mol |
7.0×10-5g |
0.049ml |
0℃, 2.0×105Pa |
2.6×1018個 |
4.4×10-6mol |
1.4×10-4g |
0.049ml |
0℃, 3.0×105Pa |
3.9×1018個 |
6.6×10-6mol |
2.1×10-4g |
0.049ml |
0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水に溶解する酸素の分子数・物質量・質量は、0.049mlより求める。また、0℃, 1.0×105Pa は標準状態なので、溶解している酸素の実際の体積も0.049mlである。0℃, 2.0×105Paと 0℃, 3.0×105Paの分子数・物質量・質量は、は、0℃, 1.0×105Paの値をそれぞれ2倍,3倍して求める。このときの体積は0.049mlまま。
問題12 0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水に酸素は、標準状態に換算すると、0.049ml、窒素は0.023ml溶ける。(原子量:N=14,O=16)
① 0℃で、1.0lの水に5.0×105Paの酸素が接している。このとき溶解している酸素の質量を求めよ。
② ①で、溶解している酸素の体積は何mlか。
③ 酸素と窒素の体積比が1:4の混合気体がある。この混合気体を0℃で、10×105Paに保ち、1.0lの水に接したとき、溶解している酸素と窒素の物質量をそれぞれ求めよ。
溶解度は標準状態に換算した体積で表されている。気体は体積で表すことが多いが、この場合は、体積を使うとややこしくなるので、標準状態のうちに物質量・質量・分子数にしておく。
気体 |
分子数 |
物質量 |
質量 |
体積 |
酸素 |
1.31×1018個 |
2.19×10-6mol |
7.00×10-5g |
0.049ml |
窒素 |
6.16×1017個 |
1.03×10-6mol |
2.88×10-5g |
0.023ml |
① 0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水に酸素は、7.00×10-5g溶解する。
条件の変化は
0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水 → 0℃,5.0×105Paで 1.0lの水
水の量が1000倍、圧力が5倍に変化しているので、
7.00×10-5×1000 × 5 = 3.5×10-1[g]
② 0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水に酸素は、0.049ml溶解する。
条件の変化は
0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水 → 0℃,5.0×105Paで 1.0lの水
水の量が1000倍、圧力が5倍に変化しているが、溶解する気体の体積は、圧力に関係なく一定だから、1000倍だけすればよい。
0.049ml ×1000 = 49[ml]。
③ 0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水に酸素は、2.19×10-6mol溶解する。
0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水に窒素は、1.03×10-6mol溶解する。
同温で、混合気体の圧力は10×105Pa。酸素と窒素は1:4だから、分圧は酸素が2.0×105Pa,酸素が8.0×105Pa。
それぞれの条件の変化は
酸素 0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水 → 0℃,2.0×105Paで 1.0lの水
窒素 0℃, 1.0×105Paで、1.0mlの水 → 0℃,8.0×105Paで 1.0lの水
溶解する気体の物質量は
酸素 2.19×10-6 × 1000 × 2.0 = 4.4×10-3mol
窒素 1.03×10-6 × 1000 × 8.0 = 8.2×10-3mol
5)希薄溶液の性質
沸点上昇
・蒸気圧の降下
液体に不揮発性物質(蒸発しにくい物質)を溶かすと、液体から出ていた蒸気の圧力は減少する。これを溶液の蒸気降下といい、ラウールによって次のような法則が見いだされた。
蒸気圧降下度は、一定量の溶媒に溶けている溶質粒子(分子,イオン)の総物質量に比例する。
・沸点上昇
溶媒に不揮発性の溶質を溶かすと、その溶液の沸点は溶媒の沸点よりも高くなる(例:食塩水の沸点は水の沸点100℃よりも高くなる)。これを溶液の沸点上昇という。沸騰はその液体の蒸気圧と大気圧が等しくなると起こる。溶液は蒸気圧降下により純溶媒よりも蒸気圧が低いため、「蒸気圧=大気圧」にするのに純溶媒よりも熱を加えなければならず、沸点上昇が起こる。
希薄溶液では、沸点上昇度(何℃上昇したか)について、次のような法則が成り立つ。
溶液の沸点上昇度は溶質の種類に関係なく、一定の溶媒に溶けている溶質粒子(分子,イオンなど)の質量モル濃度に比例する。
質量モル濃度 単位[mol/kg]
溶媒1kgに溶けている溶質のモル数[mol]で表した濃度を質量モル濃度という。沸点上昇などは温度変化が関与してくるので、体積(温度変化により、変化が生じる)を用いたモル濃度は使えないので、質量モル濃度が必要になる。
(例)グルコースC6H12O6(分子量180)3.6gを200gの水に溶かした水溶液の質量モル濃度。
質量モル濃度 = |
溶媒のモル数[mol] |
= |
3.6 |
× |
1000 |
= 0.10[mol/kg] |
溶媒の質量[kg] |
180 |
200 |
問題13 次の水溶液を沸点の高い順に並べよ。
H=1.0, C=12, N=14, O=16, Na=23, S=32, Cl=35.5
ア)尿素 (NH2)2CO 1.20gを水100gに溶かした溶液
イ)塩化ナトリウム 11.7gを水1000gに溶かした溶液
ウ)硫酸ナトリウム 14.2gを水500gに溶かした溶液
電解質か非電解質かで溶液中の粒子数が違ってくるので注意。
ア)尿素は、非電解質なので、溶液中の粒子は尿素そのものである。
(NH2)2CO = 60より、尿素のモル数 = |
1.20 |
, 質量モル濃度= |
1.20 |
× |
1000 |
=0.20[mol/kg] |
60 |
60 |
100 |
イ)塩化ナトリウムNaClは電解質なので、溶液中では、Na+とCl-電離している。つまり、この場合の粒子はNa+とCl-である。
NaCl → Na+ + Cl-より、1molのNaClからNa+とCl-が各1molずつ生じるので、溶液中の粒子の総モル数はNaClの2倍になる。
溶質粒子の総モル数 = NaClのモル数×2 = |
11.7 |
×2[mol] |
58.5 |
質量モル濃度 = |
11.7 |
×2× |
1000 |
= 0.400[mol/kg] |
58.5 |
1000 |
ウ)硫酸ナトリウムNa2SO4は電解質なので、溶液中では、Na+とSO42-に電離している。つまり、溶液の粒子はNa+とSO42-である。
Na2SO4 → 2 Na+ + SO42-にり、1molのNa2SO4からNa+ 2molとSO42- 1molの合計3molが生じる。つまり、溶液中の粒子の総モル数はNa2SO4の3倍になる。
溶質粒子の総モル数 = Na2SO4のモル数×3 = |
14.2 |
×3 [mol] |
142 |
質量モル濃度 = |
14.2 |
×3× |
1000 |
= 0.600[mol/kg] |
142 |
500 |
沸点上昇は溶液の質量モル濃度に比例するので、ウ)>イ)>ア)
問題14 ブドウ糖 C6H12O6 54.0gを水500gに溶かした溶液の沸点上昇度は0.312℃であった。塩化ナトリウム11.7gを水1000gに溶かした溶液の沸点はいくらか。
ブドウ糖の水溶液と塩化ナトリウム水溶液の溶質粒子の質量モル濃度を求めて、その比から塩化ナトリウム水溶液の沸点上昇度を求める。
ブドウ糖水溶液:ブドウ糖は非電解質なので、溶液中の粒子はブドウ糖そのものである。
ブドウ糖のモル数 = |
54.0 |
[mol], 質量モル濃度 = |
54.0 |
× |
1000 |
= 0.600[mol/kg] |
180 |
180 |
500 |
塩化ナトリウム水溶液:塩化ナトリウムは電解質で、1molのNaClからNa+とCl-が各1molずつ生じ、溶液中の粒子の総モル数はNaClの2倍になる。
溶質粒子の総モル数 = NaClのモル数×2 = |
11.7 |
×2[mol] |
58.5 |
質量モル濃度 = |
11.7 |
×2× |
1000 |
= 0.400[mol/kg] |
58.5 |
1000 |
溶液の沸点上昇度は溶質粒子の質量モル濃度に比例するので、
0.600 : 0.312 = 0.400 : x , x = 0.208[℃]
この塩化ナトリウム水溶液の沸点は、水の沸点は100℃だから、100 + 0.208 = 100.208[℃]
凝固点降下
溶媒に不揮発性の溶質を溶解すると、その溶液の凝固点は溶媒の凝固点よりも低くなる。希薄溶液では、凝固点についても沸点上昇と同様に、凝固点降下度(何℃降下したか)について、次の法則が成り立つ。希薄溶液では、凝固点降下度(何℃降下したか)について、次のような法則が成り立つ。
溶液の凝固点降下度は溶質の種類に関係なく、一定の溶媒に溶けている溶質粒子(分子,イオンなど)の質量モル濃度に比例する。
上のグラフでは、溶媒も溶液も、冷却していって凝固点に達しても、結晶が析出せずに温度がさらに低下していく現象が見られる。この現象を過冷却という。
<補足> 過冷却は溶媒の分子エネルギーが一様でないために、凝固点に達して結晶が生成しても、すぐに液体に戻されてしまうためだと説明できる。そのため、凝固点以下までに冷却されて、結晶核が生成されやすい条件で、まず結晶ができ、その周りに分子が集まって凝固する。そのときの凝固熱で温度が上昇する。この現象は、溶媒を静かにかき混ぜたり、小さい結晶を入れたり(これが結晶核となる)すればほとんどなくなる。したがって、溶液の場合、a~bの線を延長した線と冷却曲線の交点cで凍り始めると考えてよい。また、溶液の場合、溶媒が先に凝固するので、溶液の濃度はしだいに濃くなっていく。そのため、d~eは右下がりになっている。
問題15 水100gに、4.5gのグルコースC6H12O6(分子量180)を溶解して凝固点を測定したところ、-0.47℃であった。ある非電解質2.0gを水100gに溶解し、その凝固点を調べたところ、-0.64℃であった。この非電解質の分子量を有効数字2桁で求めよ。
非電解質の分子量をxとし、質量モル濃度を求め、グルコース溶液と比例させる。
グルコース水溶液:グルコースは非電解質なので、溶液中の粒子はグルコースそのものである。
質量モル濃度 = |
4.5 |
× |
1000 |
= 0.25[mol/kg] |
180 |
100 |
非電解質水溶液:分子量をxとし、質量モル濃度を求める。電解質なので、溶液中の粒子はこの非電解質そのものである。
質量モル濃度 = |
2.0 |
× |
1000 |
= |
20 |
[mol/kg] |
x |
100 |
x |
凝固点降下は溶質粒子の質量モル濃度に比例するので、
0.25 : -0.47 = |
20 |
: -0.64 |
, x = 59 |
x |
浸透圧
デンプンの薄い水溶液と純粋な水をセロハンの膜で仕切って放置すると水分子は、膜を通ってデンプン水溶液の方へ入り込む。一方、デンプンはセロハンの膜を通過することができない。セロハンのように、溶媒分子は通すが、溶質分子は通さないような膜を半透膜といい、溶媒から溶液へ溶媒分子が入り込む現象を浸透という。
<補足> 半透膜には、非常に小さな穴(細孔)がある。半透膜を通れない分子はこの穴入りも大きな分子で、半透膜を通過できる分子はこの穴よりも小さな分子ということになる。
下の図のように、純溶媒と溶液を接触させると、溶媒が溶液の方へ浸透し、溶液側の液面が上がる(a)。左右の液面の高さを等しくさせるには、溶液側に一定の圧力を加える必要がある(b)。この圧力を溶液の浸透圧という。
溶液の浸透圧は溶質の種類に関係なく、一定の溶液に溶けている溶質粒子(分子,イオンなど)のモル濃度に比例する。
☆ この関係は、気体の状態方程式(PV=nRT)と同じ式で表すことができる。
問題16 0.10mol/lのブドウ糖C6H12O6 水溶液と同じ浸透圧示す塩化カルシウム水溶液を100mlつくるには塩化カルシウムを何g水に溶かせばよいか。Ca(OH)2 = 74
2つの溶液の溶質粒子のモル濃度を同じにすれば、両者の浸透圧は等しくなる。
塩化カルシウムCa(OH)2は電解質で、Ca(OH)2 → Ca2+ + 2OH- と電離する。Ca(OH)21molから、Ca2+とOH- がそれぞれ1mol,2mol生成するので、合計で3molの粒子が存在する。つまり、溶液中の粒子はCa(OH)2の3倍になる。
塩化カルシウム水溶液中の粒子:質量をxとすると、
モル濃度 = |
x |
×3× |
1000 |
= 0.405 x [mol/l] |
74 |
100 |
この塩化カルシウム水溶液が0.10mol/lのブドウ糖C6H12O6 水溶液と同じ浸透圧示すで、
0.10 = 0.405 x , x = 0.247[g]
6)コロイド溶液
これまでに学習してきた食塩水などの溶液は、溶質粒子は溶媒分子と同程度の大きさをもち、溶質は溶媒に溶け込んでいる。このような溶液を真の溶液という。
一方、直径10-7cm~10-5cm程度の比較的大きな粒子をコロイド粒子といい、コロイド粒子が液体中に均一に分散(溶解しているのではない)したものをコロイド溶液という。コロイド溶液ではコロイド粒子を分散させている液体を分散媒、分散しているコロイド粒子を分散質という。またコロイドの中で流動性のあるものをゾル流動性がなく半固体状のものをゲルという。
コロイド粒子の分類
デンプンやタンパク質のような高分子化合物は分子一個でコロイド粒子の大きさをもつ。このようなコロイドを分子コロイドという。セッケン分子は親水基(水に溶けやすい部分と)と疎水基(水に溶けにくい部分)からなり、溶液中では疎水基を内側に、親水基を外側に向けるようにして、50~100分子集まってコロイド粒子をつくる。このようなコロイドを会合コロイドまたはミセルコロイドという。また、硫黄,炭素,粘土などの不溶性物質を、コロイド粒子の大きさに砕いて、水に分散させたコロイドを分散コロイドという。
コロイド溶液の調整と透析
沸騰水に少量の塩化鉄(Ⅲ)FeCl3の飽和水溶液をに加えると、次のような反応が起こり、赤褐色の水酸化鉄(Ⅲ)のコロイド溶液が得られる。
FeCl3 + 3H2O → Fe(OH)3 + 3HCl
このようにしてつくったコロイド溶液には、Fe(OH)3のコロイド粒子のほか、不純物としてH+やCl-が含まれる。この混合物をセロハンのような目には見えない小さな孔があいた膜(半透膜という)の膜に包んで純水につけておくと、H+やCl-は膜を通って水中へ拡散していくが、Fe(OH)3のコロイド粒子はセロハンの穴よりも大きいので水中へでていけない。このように、半透膜を利用してコロイド溶液中の不純物を除く操作を透析という。
<補足> セロハンの外側の水に硝酸銀水溶液AgNO3を加えると、AgNO3が生成し白濁することからCl-の存在を、ることからH+の存在を確認することメチルオレンジを加えると赤色に変化すができる。
コロイド溶液の性質
チンダル現象
コロイド溶液に横からレーザー光線などの強い光を当てると光の通路が明るく輝いて見える。この現象をチンダル現象という。これはコロイド粒子の大きく、その表面で光がよく散乱されるためである。それに対し通常の溶液では溶質粒子がずっと小さいため、光はほとんど散乱されない
ブラウン運動
コロイド溶液を限外顕微鏡で観察すると、コロイド粒子そのもの自体は見えないが、コロイド粒子は小さな光の点としてその存在が観察できる。このとき光の点は不規則なジグザグ運動をしているのが分かる。このコロイド粒子の動きをブラウン運動という。これは熱運動をしている溶媒分子が絶えずコロイド粒子に衝突するために起こり、このためコロイド粒子は沈降しない。
電気泳動
コロイド粒子をU字管に入れて、電圧をかけておくとコロイド粒子は、一方の電極に向かって移動していく。この現象を電気泳動といいコロイド粒子が正または負に電荷を帯びているために起こる。例えば硫黄のコロイドは陽極、水酸化鉄(Ⅲ)は陰極へ移動する。つまり、硫黄は負、水酸化鉄(Ⅲ)は正に電荷を帯びていることになる。
疎水コロイドと凝析
コロイド粒子が溶液中で沈殿することなく、安定に分散を保っているのは、すべて同種の電荷を帯びたコロイド粒子が互いに反発しあっているためである。ところが水酸化鉄(Ⅲ)のコロイド溶液に、少量の電解質を加えると、容易に沈殿が起こる。このようなコロイドを疎水コロイドという。疎水コロイドはもともと水との親和力の弱い(表面に水分子を引き付ける力が弱い)コロイドで、電気的反発によって沈殿を免れていたものである。
疎水コロイドに少量の電解質を加えると、帯電していたコロイド粒子にそれと反対符号のイオンが強く引きつけられ、コロイド粒子の帯電が電気的に中和される。そのため、これまでの反発力がなくなり、分子間力が大きくなるため、コロイド粒子は互いに凝縮して沈殿する。このように少量の電解質で沈殿する現象を凝析という。
コロイド粒子を凝析させる力は、加えた電解質から生じるイオンの価数により異なる。すなわち、コロイド粒子と反対符号のイオンで価数の大きいイオンほど、凝析させる能力が大きくなる。例えば、正コロイドであるFe(OH)3に対してはCl-よりSO42-を含む電解質の方が有効である。
親水コロイドと塩析
デンプンやゼラチンなどのコロイド溶液は少量の電解質を加えても沈殿しない。これらのコロイド粒子は、親水コロイドといわれ、その表面に水分子を強く引き付けている。そのため、親水コロイドを沈殿させるためには、多量の電解質を加え、表面の水分子を取り除かなければならない。このように、親水コロイドが多量の電解質によって沈殿する現象を塩析という。豆腐のにがりなどが塩析の例である
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保護コロイド
疎水コロイドに親水コロイドを加えると、疎水コロイドの粒子が親水コロイドの粒子に取り囲まれ、凝析しにくくなる。このような保護作用を行う親水コロイドを保護コロイドという。例えば、墨汁は疎水コロイドで不安定な炭素のコロイドに対して、親水コロイドであるニカワを保護コロイドとして加えてある。