光をプリズムあるいは回析格子に当てると光が虹のように広がることは古くから知られていました。そして光が電磁波の一種であることか解ってくると、発光や光の吸収をその波長に応じて展開したものをスペクトル(spectrum)と呼び、その研究が盛んになって、分光法(spectroscopy)が発達しました。
ある原子を高温にすると光を出すようになりますが、その光は独特の色をしていることが知られており、光の波長毎の強さを観測するとある幾つかの波長のところだけが強い輝きを持っていて、その他ではほとんど光の輝きが無いことがわかっていました。ある波長のところだけが輝くことをスペクトル線(発光法 Emission spectroscopy)とい、それぞれの原子に特有のパターンがあることがわかってきました。また、太陽の光を詳細に観測するとある波長だけが黒くなっている所があり、それは光が通過した途中でその光が吸収されて暗い線になった(吸収法 Absorption spectroscopy)と考えられています。
水素原子のスペクトル
水素原子の構造は原子核は陽子1個のみで、電子も1個だけです。電子は通常最低のエネルギーの軌道(電子軌道)を回転している(ボーアモデル)と考えられています。外部から何らかの方法(他の粒子の衝突、加熱等)すれば、電子がエネルギーを得て、エネルギーの高い軌道に移動しますが、エネルギーの低い軌道に電子が無いのは安定性が悪く(居心地が悪い?)、下の軌道に移動しますが、そのとき、余分なエネルギー(各軌道間のエネルギー差)に応じたエネルギーを持った光を放出します。それは特定の波長のみの光になります。
下の図は水素原子の各軌道から第二軌道に電子が移動(遷移)した(パルマー系列)ときに生ずる発光スペクトルです。
その中で、赤い線は詳細に調べると更に2つの線に分離していることがわかります。
赤いスペクトル線は水素原子の3番目の軌道(3p)から2番目の軌道(2p)に電子が移動するときに発生する光ですが、この場合うには電子が軌道運動をすること(電荷が軌道上で回転するのはその反対方向に電流が流れている)によって生じる磁界Bと電子が持っているスピンによる磁気の運動量とが相互作用をすることによって僅かにエネルギーに差が出ることが知られるようになりました。スピンには上向きと下向きの2種類があり本来の位置よりも僅かに上と下にスペクトル線が分かれていると考えられています。