有機化学とは:定義や基礎を分かりやすく解説

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 有機化学は、理論化学、無機化学とともに高校化学の3本柱の1つであり、その重要度は年々増しています。ただ、その他とは独立した特殊な世界のせいで、外見が難しく見えて特に現役生は敬遠しがちです。でもこれはとてももったいない。浪人生は有機化学が一番点の取りやすい分野であることを知っています。彼らは経験者だから有機化学がどんなものか知っているわけです。ですから、現役生と浪人生のこのハンデ差はでかい。その証拠に、模試のデータを見てみて下さい。必ずと言っていいほど有機分野の現浪差が一番大きくなっているはずです。ですから、現役生は有機をいかに早く勉強しはじめるか、浪人生はいかに有機で点を稼ぐか、が受験化学の重要なテーマになるはずです。

 前置きが長くなってしまいましたが、ここでは、全く有機化学を知らない生徒の為の橋渡しとしてなるべく丁寧に説明したつもりです。またスムーズに他のポイントにつなげられるようにアプローチしました。有機化学を知らない人はまずはこの化学入門をしっかりと理解してから先に進むことをオススメします。

 

 「有機」の定義

 

 ところで、「有機」って何でしょう? 「無機」の逆なのかな、ということぐらいはわかるでしょうが、なんでこんな名前がついたのでしょう。 我々の身の回りにはたくさんの有機化合物があります。プラスチック、繊維、石油製品、そして植物や動物を構成している糖類、タンパク質、脂質などもすべて有機化合物です。

 昔は有機化合物は生体の中でしか作ることができない、と考えられていたんです。つまり”生きている”ものからしか”生きている”ものは作れない。”生きていない”ものからは作れないと考えていたんです。生命機能が有る物質という定義から「有機」と名づけたわけです。

 ところが、この定義を破ってしまった者がいました。ウェーラーです。彼は、シアン酸アンモニウムという明らかに”生きていない”無機物質から、尿素という明らかに生体でしか作れなかったはずの有機化合物を実験室で作ってしまったのです。

 

NH4OCN→CO(NH2)2

 

 それからというもの、「有機」の定義はすっかり崩れ、今ではその名前だけが残ることになりました。今日の定義では、「有機」=炭素同素体、一酸化炭素、二酸化炭素、炭酸化合物などを除いた、Cを中心にHONなどを含んだ化合物というちょっとあいまいな定義になってます。

 

 有機化合物の構成

 

 有機化合物の中心元素は”C”です。これなしに有機は語れません。有機の性質の要因は、炭素が4つの”手”をもち、これらが正四面体の頂点にその”手”を伸ばしていることにあります。ベクトル和を考えればわかるようにこの正四面体形は非常に安定した形です。どこからも等しく結合できる自由度の高い形なんです。ですから、自然とその化合物の数も多くなる。このCが有機化合物すべての「骨格」になるんです。

 しかし炭素だけでは化合物は作れません。他の元素の仲間がいます。水素Hと酸素Oと窒素N。それぞれ”手”の数は1,2,3と決まっています。たったこの4つの元素だけで何千万種もの気が遠くなるほど莫大な数の化合物を作るんです。 上図で線が太くなっているのは、手前に延びている”手”を、点線は奥に伸びている”手”を表しています。

 皆さんはこの4つの元素で作られる莫大な数の有機化合物を相手にしなくてはいけない。当然、1つ1つをまともに相手していたら大変です。そこで、グループ分けをすることでこいつらを分類してやる。そうすれば整理できるので相手しやすくなるわけです。

 まず、一番構成が単純な炭化水素から見ていきましょう。その名の通り、CとHからだけで作られています。

 正四面体の炭素の4つの”手”に水素をつけてみましょう。水素の”手”は1本だから、全部で4つつけられますね。何ができるでしょう?

アルカン

 

 これは「メタン」とよばれる物質です。最も単純な有機化合物。では、Cが2コ、3コだったらどうなるでしょう?

 

 上が「エタン」で、下か「プロパン」です。このようにCの数を増やすことで次々と炭化水素が作れます。

 上では、立体的な表現で書いていましたが、通常は平面的な形で書くのが一般的です。

 

 

分子式
名称
構造異性体の数
CH4
メタン
0
C2H6
エタン
0
C3H8
プロパン
0
C4H10
ブタン
2
C5H12
ペンタン
3
C6H14
へキサン
5
C7H16
ヘプタン
9
C8H18
オクタン
18
C9H20
ノナン
35
C10H22
デカン
75

 

 Cが10コまで挙げました。この名称は、これから他の有機化合物の名称をつける際に必要なので絶対に覚えてください。学校でも覚えさせられるはずです。

 ところで、「構造異性体」というのが出てきました。一体コレは何でしょうか?メタン、エタン、プロパンではこの数が0になっています。ところが、プタンから急激にその数を伸ばしています。

 

 メタン~プロパンでは、材料を増やしたり減らしたりしない限り、どうやっても1種類の構造しか作れません。しかし、ブタンではどうでしょう?

 

 直線状の炭化水素ならこれだけです。しかし、枝分かれをもつ炭化水素も作れませんか?

 

 

 メタン~プロパンでは同じことをしても、結局は両方とも同一の物質です。しかし、この2つはどんなことをしても絶対に同じにはできない。このような関係を構造異性体といいます。ブタン以降ではこのような異性体がたくさん出てくる。組み合わせがどんどん増えていくんです。

 

 ところで、後者の名前はどうしましょうか?前者は「ブタン」でいいですが、後者は別の名前を付けてあげないと区別できない。

 物質の名前のつけ方は、有機化学を勉強し始める人にとって、なかなか慣れないことです。すぐに覚えるのは大変かもしれませんが、1つ1つの決まりをちゃんと覚えていけばどんな物質でも名前がつけられるようになります。あせらずにつけ方の「コツ」を覚えていきましょう。

 

 基本的に、IUPACという世界共通の名前の付け方を覚えれば、どんなものに対しても名前をつけることができます。その名付け方を使ってみましょう。

 

 [1] 構造式中にある「背骨」を見つける!

 

 ここで言う「背骨」とは、構造式中の連続したCが最も多い部分のことです。たとえば、ブタンでは

 

 明らかに、背骨の部分は、C4コ分です。

 ちなみにさっきは水素も1つ1つバラバラに書いてましたが、ある程度Cが多くなってくるといちいち書くのはめんどくさいし、見づらいです。そこでこのように水素をいちいちバラバラに書かずにまとめて書いてしまうのが一般的です。

 

 では、

 

 

の背骨はどこでしょう?

 

 まず上の見方はCが2コ分ですから、これは背骨ではない。C3コ分の見方があるんですから。では、中央か下か。

  これ、両方とも同じですね。単結合はぐるぐると自由に回転できるから2つの-CH3をくるっと交換すれば全く同じものだということがわかる。ですから、背骨はC3コ分のアルカン、つまりプロパンです。背骨の名前は必ず一番最後に来るから、この物質は「~プロパン」という名になります。

 では「~」には何が入るでしょう?当然枝分かれ部分の”-CH3″の存在を名前の中に入れればいい。ここで、枝分かれ部分の名前を知らなくてはいけない。

 ”-CH3″は「メチル基」といいます。アルカンの語尾を”-an”→”-iru”とすればいいんです。アルカンからHを1つ取った枝分かれ部分はこのようによぶんです。メタンCH4からHを1つ取った”-CH3″はmetan→metiruとよぶわけです。同じようにしてC2H5-(CH3-CH2-)をエチル基、C3H7-(CH3-CH2-CH2-)をプロピル基とよぶ。特にメチル基、エチル基はこれからさんざん出てくるんで嫌でも覚えると思います。

 

 というわけで、「メチルプロパン」と言いたいところですが、これではダメなんです。まあこれでも通じないことはないんですが、正しくない。メチル基の位置がどこにあるかまでちゃんと含んであげないといけない。 

 

[2] 近い方の端からx番目のCに枝分かれがあるとき、”x-“を枝分かれの名前の直前につける。

 

 この場合、枝分かれは真ん中にあるので、左端からでも右端からでも2番目にメチル基がついてます。ですから、「2-メチルプロパン」が正解です。

 以上の炭化水素は、すべて単結合で構成された炭化水素でした。これらを総称して「アルカン」とよびます。ということは、すべてが単結合でない、つまり二重結合や三重結合を含んだ炭化水素も当然存在するわけです。それがこの後に出てくる「アルケン」や「アルキン」などです。

 アルケン

 

 今まで結合はすべて1本の単結合でした。しかし、Cは”手”が4本あるんですから、何も必ずしも1本でなくてもよい。4本のうち2本を結合に使ったっていいわけです。ただし、水素は”手”が1本ですから、C=Hはあり得ない。必ずC=Cのように炭素間になくてはいけない。ということは、Cが1コでは作れない。つまりCが2コあってはじめてC=Cはできるわけです。

 1コの二重結合をもった炭化水素を「アルケン」といいます。

 上図は、Cが2コで1コの二重結合をもつ「エチレン」です。最も単純なアルケンです。同じCが2コの「エタン」と比較してみてください。Hが2コ減ってますよね。二重結合をつくるためにCの”手”が1つずつ使われてしまったわけです。だから、フリーの”手”が6→4コに減ってしまった。ここに水素がついているわけです。

 また、右の図はエチレンが平面構造であることを表しています。エタンでは正四面体形による立体構造でしたが、エチレンでは二重結合に隣接する元素すべてが同一の平面状に存在します。

 

 

 上図は、Cが3コのプロピレンです。やはり二重結合付近では平面構造ですが、今度は平面を飛び出しているHが3つあります。結局、同一平面上にあるのは二重結合をもつC2つと、それに隣接した4つの原子までの計6コまでなんだということがわかりました。

 

分子式
名称
C2H4
エチレン
C3H6
プロピレン(プロペン)
C4H8
ブテン
C5H10
ペンテン
C6H12
へキセン
C7H14
ヘプテン
C8H16
オクテン
C9H18
ノネン
C10H20
デケン

 

 上図は、Cが10コまでのアルケンを挙げてます。これを見て何か気付くことはありませんか?名前がアルカンの時と似てますよね。しかも何か法則みたいなものはありませんか?

 

 アルカンでは、みな語尾が”-an”でしたよね。それに対してアルケンでは”-en”なんです。エチレンとプロピレンは例外ですが、他はすべてアルカンの語尾を変えればいいだけです。ですから、アルカンの名称と例外の2つを覚えれば、名前は付けられる。

 

 今度は、Cが4つの「ブテン」について考えてみましょう。

 

 Cが4つで二重結合が1つ。確かに、ブテンです。しかし、ここで問題が生じてしまう。ブテンといってもよさそうなものがもう1つあるんです。二重結合の位置を変えてみると・・・

 

 これも確かに、Cが4つで二重結合が1つ。これもブテンです。ではこの2つをどう区別すればよいのでしょう?

 

 そこで、数字を使ってこの2つを区別します。前者を1-ブテン、後者を2-ブテンとよびます。なぜ1-,2-なのかというと、

 

[3] 近い方の端から数えてx番目の結合に二重結合があるものに”x-“をつける。

 

という約束があるからです。[2]と同じく、「近い方」というのに気をつけてください。たとえば、1-ブテンは右から数えたら3番目にあるから”3-ブテン”といってもよさそうなものですが、二重結合に「近い方」から数えるという暗黙の了解があるので、この場合は必ず左から数えて1番目、として見ないといけない。必ず数字の「小さい方」がつくわけです。ちなみに、2-ブテンはどっちから数えても2番目だから問題ないですね。

 

 1-ブテンと2-ブテンの区別もつきましたし一件落着かと思いますが、まだ考えなくてはいけないことがあります。まだ構造異性体があるんです。 

 

 「え?もう二重結合を移動する場所なんかないよ。」と思う人もいるでしょう。確かにこのような直線状では、もうないです。ということは、枝分かれ状の構造があるんだということですね。Cが3つのプロピレン以下では枝分かれ構造など存在しませんでしたが、Cが4つのブテン以上では出てくるんです。それを忘れてはいけない。

 

 今までは、背骨のCが4つでした。これを3つにして残りのC1コを枝分かれとして使ってみましょう。どんな構造が考えられますか?

 

 書けましたか?これだってブテンの異性体です。ただ、名前はこのままではいけない。今まで、このようなC1コ分の枝分かれのあるものを「イソ」をつけて表すのが慣例でした。ですからこれは「イソブテン」と言ってもいいのですが、これは世界共通の名前ではないんです。そこでアルカンで出てきたIUPACで名づけてみましょう。

 

 アルカンと同じく背骨を決定します。まず考えられる候補として、Cが2つの部分と3つの部分。当然3つの方がすぐに目に入ってくるとは思いますが、一応ダメな例を示しておきます。

 

↑これは一番長くないから背骨ではない

 

 見方としては次の3つがあると思います。

 

 

 上と中央は全く同じ見方ですね。単結合はぐるぐると自由に回すことができるので、2つの-CH3をぐるっと入れ替えればどっちも同じです。

 ただ、下のはちょっと様子が違う。左と中央が、背骨に二重結合を含んでいたのに対し、右は含んでいません。どちらもCの数は同じですから、どっちを正しい背骨とすべきか迷ってしまいますね。これはアルカンでは出てこなかった問題です。

[4] 背骨は「特別な構造」を含む方を優先する。

 

 ちょっとあいまいな言い方で申し訳ないですが、この場合だと二重結合という「特別な構造」を含む方を背骨と判断しろ、ということです。後で「官能基」というその物質の特徴を決定づける構造の勉強をするのですが、それらも「特別な構造」とします。このケースはまた後で学習しましょう。

 

 さて、背骨が決定しました。これを決めないと名前が付けられないから背骨を見抜く力はとても重要です。今回はまだカンタンですが、Cが増えるとどんどん複雑化して混乱します。後の練習問題でしっかりと鍛えましょう。

 背骨の名前をつけましょう。Cが3コで二重結合を含むから・・・忘れてしまった人は表を見てみましょう。

 

 「プロペン」です。「プロピレン」はこのような背骨の名称には使いません。つまりこの物質の名前は「~プロペン」という名前になる。最後に背骨の名前が来るんですね。ではその前に何がつくのか。やはり枝分かれの-CH3があることを表現すればいいですね。

 

[3] 近い方の端からx番目のCに枝分かれがあるとき、”x-“を枝分かれの名前の直前につける。

 

 結局、「2-メチルプロペン」が正解です。どちらの端からも2番目のところに枝分かれがありますよね。

 

 細かく説明しているので長くなってしまいましたが、慣れてしまえばすべて頭の中で一瞬でできることです。そうなれるまでひたすら練習しましょう。

 

 ようやくアルケンの話が終わりかというと、残念ながらまだとても重要な事が残っているんです。

 結局、C4H8の構造異性体は3つありましたね。

 

 確かに、構造異性体は3つで終わりです。しかし、ここで「幾何異性体」という新たな異性体の存在を考えると、この中に1つだけ、さらに2つの異性体に分けることができるんです。

 エチレンやプロピレンの説明の際に、平面構造での形を書きましたよね?アルケンは実際はそのような形をしているんです。だから、上のような書き方は実際の形とは違う書き方なんです。そこで、これを実際の平面構造の形に直してやりましょう。

 さて、平面構造だということは、この「カニ」のような形は常に固定されているということです。ここに含まれる計6つの原子の位置関係は絶対に動かせない。ということは、二重結合の回りでぐるぐると回転することはできないんです。

 

 アルキン

 アルケンが1つの二重結合をもっていたのに対し、アルキンは1つの三重結合をもつ炭化水素を指します。最も有名なのは、炭素が最低数の2のアルキンである「アセチレン」です。やはり三重結合をもつ以上、Cが1コはあり得ないので、C2コから定義されます。

 

 アセチレンは、上のような構造をしています。また、アルケンの二重結合のまわりが平面構造だったのに対し、アルキンの三重結合のまわりでは直線構造です。ですからアセチレンは4つの原子がすべて直線状に存在します。

 では今度は、Cが3コのアルキンであるプロピンを見てみましょう。

 

 やはり、直線状に4つの原子が乗っかっています、が右端のH3つは乗っかってませんね。ということは、三重結合のC2つとそれに隣接する原子の4つが同じ直線上にあるんだ、とわかります。

 また、三重結合の回りは二重結合と同様に回転できませんが、直線上なのでアルケンのときのような幾何異性体が存在する可能性を考える必要は全くありません。

分子式
名称
C2H2
アセチレン
C3H4
プロピン
C4H6
ブチン
C5H8
ペンチン
C6H10
へキシン
C7H12
ヘプチン
C8H14
オクチン
C9H16
ノニン
C10H18
デキン

 

 名前の付け方もアルケンの時と似ています。やはり基準はアルカンで、この語尾を”-an”から今度は”-in”に直せばいい。アセチレンだけ例外てすが、あとはこの方法で名前が決定します。

 異性体の名前のつけ方もアルカン・アルケンと全く同じです。説明の中で出てきた[1]~[3]を覚えれば全く同じように対応できます。

 炭化水素の反応と性質

  「アルカン」「アルケン」「アルキン」という3タイプの炭化水素を扱いました。これらを特徴づけているのは、単結合、二重結合、三重結合の存在であることはわかったと思います。これらを比較して考えていきましょう。

 

 まず、知っておいてほしいことは、単結合、二重結合、三重結合の結合間距離の違いについてです。この3つの結合は同じ長さではありません。単結合が最も長く、三重結合が最も短い。

 ですから、エタン、エチレン、アセチレンの炭素間距離を比べると、だんだんと短くなっていくんです。

 

C-C > C=C > C≡C

 

 つぎに、反応性の比較です。反応を考える際には、二重結合と三重結合を同一のグループとして考えた方がわかりやすい。この2つの結合を合わせて「不飽和結合」というのですが、この言葉は同じグループとして考えるのに便利です。

 つまり、アルケンとアルキンは、共通の反応をするのだということです。では、一体どんな反応をするのか?

 

 この反応は、「付加反応」とよばれます。

  付加反応は、”余分”にある炭素間結合が切れることで起こるわけですから、単結合ではその”余分”がなく、付加反応は絶対に起こりません。ですから、アルカンは付加反応をしません。

 基本的にアルカンは反応しにくいグループですが、紫外線を当てるなどの高エネルギー状態では「置換反応」を起こします。置換反応自体は、アルカンよりも「芳香族化合物」という後で扱うグループでよく見られる反応なので、そちらを参考にして下さい。