3)カルボン酸と酸無水物
カルボン酸
分子中にカルボキシル基-COOHを持つ化合物を総称してカルボン酸という。第一級アルコールを酸化して得られるアルデヒドをさら酸化にすることによって得られる。分子中に含まれるカルボキシル基の数により、1価(モノカルボン酸),2価(ジカルボン酸)という。また、Rが炭素鎖のみのカルボン酸を脂肪族カルボン酸、ベンゼン環を含むカルボン酸を芳香族カルボン酸とよぶ。
ギ酸と酢酸
ギ酸(HCOOH)は刺激臭のある無色の液体で、メタノールを酸化してホルムアルデヒドとし、さらに酸化すると得られる。ギ酸の場合アルデヒド基(-CHO)とカルボキシル基(-COOH)の両方を持つ。そのため、ギ酸には還元性がある。
酢酸(CH3COOH)は刺激臭のある無色の液体で、食酢中に約4%含まれている。純粋な酢酸は、冬季は凝固するので、氷酢酸とよばれる。酢酸はエタノールを酸化してアセトアルデヒドとし、さらに酸化すると得られる。
無水酢酸
無水酢酸 (CH3CO)2Oは酢酸を適当な脱水剤を用いて、酢酸2分子より水1分子を取ると得られる。
このようにカルボキシル基2個から水1分子が取れたものをカルボン酸無水物または単に酸無水物という。
マレイン酸とフマル酸
マレイン酸とフマル酸は互いに幾何異性体の関係にあり、C2H2(COOH)2の示性式で表せる。
マレイン酸は2つの-COOHが同じ方向なので、2つの-COOHから脱水できるが、フマル酸は2つの-COOH が離れているので脱水はできない。そのため、無水マレイン酸はできるが、無水フマル酸は存在しない。
アジピン酸
アジピン酸 HOOC-(CH2)4-COOH は分子中にカルボキシル基を2個もつジカルボン酸である。ヘキサメチレンジアミン H2N-(CH2)6-NH2 と特定の条件下反応して分子量の大きい6,6-ナイロンを生じる。炭素6つの化合物どうしからできるので、6,6-ナイロンという。
このように、2つの分子から水のような簡単な分子がとれて1つの分子ができる反応を縮合という。縮合によって分子量の大きな化合物ができることを縮合重合という。また、6,6-ナイロン分子中の‐CO-NH-の結合をアミド結合という。
乳酸と光学異性体
乳酸CH3-C*H(OH)-COOHは1つの炭素原子(*のついた炭素原子)にメチル基・カルボキシル基・ヒドロキシ基・水素原子が結合している。このように、結合する4つの原子や原子団がすべて異なる炭素原子を不正炭素原子という。
不斉炭素原子をもつ化合物は不斉炭素原子を中心に正四面体構造をしており、分子内にいかなる対称要素も存在せず、どんな手段を用いても重ね合わせることができない。乳酸では右のような2つの異性体(a),(b)が存在する。この両者を互いに光学異性体という。
エステル
カルボン酸の-COOHとアルコールの-OHから水分子がとれて(縮合して)生成する化合物R-COO-R’をエステルという。また-COO-をエステル結合という。低分子のエステルは一般に、芳香を持った液体である。命名は「酸の名前」+「炭化水素基名」である。また、エステルはカルボン酸と構造異性体の関係にある。
酢酸エチル
酢酸とエタノールの混合物に脱水剤として濃硫酸を加え加熱すると得られる。
(反応) CH3COOH + C2H5OH → CH3COOC2H5 + H2O
酢酸エチルは果実のような香りをもち飲料や菓子の香料として用いられるほか、天然には果実などに含まれる。
塩基(NaOHやKOH)によるエステルの加水分解をけん化という。
(反応) R-COO-R’ + NaOH → R-COONa + R’-OH
問題44 分子式C4H8O2の構造式を全てこたえよ。
Oが2つ入っているので、カルボン酸とエステルを考える。
問題45
分子式C4H8O2をもつエステルAを希硫酸で加水分解したところ、カルボン酸aとアルコールbを生じた。このカルボン酸aには還元性があり、アルコールbは触媒の存在下で酸化するとアセトンになった。エステルA構造を答えよ。
エステルの元の酸とアルコールを問題文より考えて、エステルにする。
カルボン酸a ポイントは、還元性があるという点。還元性のあるカルボン酸といったら、ギ酸H-COOH(「3)カルボン酸と酸無水物」を参照)。
アルコールb ポイントは、酸化するとアセトン。酸化するとアセトンになるアルコールは2-プロパノール(「2)カルボニル化合物」を参照)。
油脂
油脂は3価のアルコールであるグリセリンと高級脂肪酸(炭素数の多いカルボン酸)のエステルである。
油脂をつくっている主な脂肪酸 *炭素数と二重結合の数を覚えるとよい。
飽和脂肪酸 |
炭素の数 |
二重結合の数 |
構造式 |
ラウリン酸 |
12 |
0 |
CH3(CH2)10COOH |
ミリスチン酸 |
14 |
0 |
CH3(CH2)12COOH |
パルミチン酸 |
16 |
0 |
CH3(CH2)14COOH |
ステアリン酸 |
18 |
0 |
CH3(CH2)16COOH |
不飽和脂肪酸 |
|
|
|
オレイン酸 |
18 |
1 |
CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH |
リノール酸 |
18 |
2 |
CH3(CH2)3(CH2CH=CH)2(CH2)7COOH |
リノレン酸 |
18 |
3 |
CH3(CH2CH=CH)3(CH2)7COOH |
油脂に水酸化ナトリウムや水酸化カリウム水溶液を加えて加熱すると、けん化されて、グリセリンと脂肪酸ナトリウム(セッケン)が生成する。
油脂の性質
油脂は水には不溶であるがジエチルエーテルやベンゼンなどの有機溶媒には溶けやすい。不飽和脂肪酸をもつ油脂は酸素、光、熱などの作用により、二重結合の部分が徐々に酸化(分解)されて、低級脂肪酸やアルデヒドなどを生じる。これらの生成物には特 有の酸味と悪臭がある。このような油脂の劣化を酸敗という。
不飽和脂肪酸を多く含んだ油脂は常温で液体の物(植物性)が多く、飽和脂肪酸を多く含んだ油脂は個体の物(動物性)が多い。不飽和脂肪酸を多く含んだ液体の油脂の二重結合に水素を付加すると硬化して個体となる。このようにして生成した油脂を硬化油という。硬化油の例としてはマーガリンがあげられる。液体の油脂(不飽和脂肪酸を多く含んだ油脂)のうち、二重結合を多くもった物は空気中の酸素により、二重結合の部分が酸化されて固化しやすい。このような油脂を乾性油といい、固化しにくい油脂(二重結合が少ない)を不乾性油、その中間の物を半乾性油という。
セッケン
セッケンは高級脂肪酸(炭素数の多い脂肪酸)のナトリウム塩である。工業的には油脂をケン化することによって製造される。セッケン分子の炭素鎖の部分は水に溶けにくい疎水性の部分で、-COONaの部分は水に溶けやすい親水性の部分である。セッケンのように親水性の部分と疎水性の部分の両方をもつ化合物を界面活性剤という。
セッケンの洗浄作用
セッケンを水に溶かすと、疎水性部分を内側に、親水性部分を外側に集まり、比較的大きな粒子をつくる。この粒子をセッケンのミセルという。油は水には溶けないが、セッケン水を加えて振ると油は微細な小滴となって分散する。このような作用を乳化といい、この溶液を乳濁液という。また、乳化作用をもつ物質を乳化剤という。これは油分子がセッケンのミセル内に取り込まれるために起こる。
その他の性質
Ca2+やMg2+を多く含む水のことを硬水といい、セッケンはCa2+やMg2+と水に不溶な塩をつくるため硬水や海水では使用できない。セッケンは弱酸である脂肪酸(カルボン酸)と強塩基(NaOH)との塩なので、水溶液は塩基性を示す。
合成洗剤
1-ドデカノール C12H25-OHなどの高級アルコールの硫酸水素エステルや,アルキルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩は,セッケンと同じく疎水性の炭化水素基と親水性のイオンの部分からできていて,合成洗剤として用いられる。
いずれも強酸のナトリウム塩だから,水溶液は中性を示す。カルシウム塩やマグネシウム塩は沈殿を生じないので,硬水や海水でも使うことができる。