「秋の空が高い」って、どういう意味? 気象予報士に聞いてみた

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秋の季節には、こんなことわざがあることをご存じでしょうか?

「天高く馬肥ゆる秋」

“秋は空気も澄んでいて、空も高く感じられ、馬も肥えるような収穫の季節でもある”という意味のことわざ。ですが、ここでひとつ疑問が生まれます。

一体「空が高い」とは、どういう状態を指すのでしょうか。

その疑問を晴らすべく、民間気象情報会社・ハレックスに訪問。

気象予報士歴22年になる引地功(ひきぢ・いさお)さんにお話を聞いてみました。

「空が高い」って、どういう意味?

ーー よく「秋は空が高くなる季節」と言います。秋空がキレイなのはわかりますが、“高い”とはどんな状態を指すのでしょう?

引地:他の季節と比べて、秋の空は地上から仰ぎ見たときに「高く見える」という意味です。その理由はふたつあります。まず、秋は乾燥しやすい季節ですよね。空気中の水蒸気が少なく、太陽光の乱反射も起こりづらい。そのため、空の青さが濃く、澄んで遠くまで見えます。結果、空が高く、遠くにあるように感じるわけです。

ーー 逆に、空色が淡いときほど空が低く見えるのでしょうか?

引地:はい。空は色が濃ければ高く、淡ければ低く感じやすいと言われています。そして、もうひとつの理由は、秋は「空の高いところに雲が浮かぶ」ためです。

ーー 秋にできる雲は、他の季節に比べて空高くに浮かぶのですか?

引地:ええ。地球のまわりには大気圏があるのはご存じですよね。

ーー ロボットアニメやSF小説でよく見聞きする、あの大気圏ですね。

引地:大気圏は、地表から遠い順に「熱圏」「中間圏」「成層圏」「対流圏」と4つのエリアに分類できます。

(画像:秋田地方気象台|高層気象観測)

引地:雲は対流圏にしか発生しません。その対流圏が、我々が最初に接する空で、空の高さを主に感じるところです。そして、夏と秋に対流圏界面(対流圏の高度)が他の季節よりも高くなるんですよ。

(画像:秋田地方気象台|高層気象観測)

引地:たとえば、これは秋田地方気象台が発表している「1年間の対流圏界面高度」を示すデータ。7月から10月にかけて対流圏の高度が高いですよね。

ーー 確かに。でも夏の季節(7〜8月)も秋(9〜10月)と対流圏の高さは同じくらいですね。

(画像:津地方気象台|気象庁HPコンテンツ)

引地:夏の大気は水蒸気を多く含んでおり、太陽光の乱反射の影響から空が秋に比べ白っぽく見えます。また積乱雲や積雲のような底部が低い雲が多く発生し、雲が地上と空を遮ってしまいます。だから、空を高いとは感じづらいのでしょうね。

一方で、秋にできる雲は巻雲(けんうん)のように薄く、空高くに浮かぶものが多い。「空色の濃淡」、「雲ができる対流圏の高さ」、「浮かぶ雲の種類」など、さまざまな側面から、秋はいちばん「空が高く見えやすい季節」と言えるわけです。

ーー なるほど。色彩的な側面では、秋の空色は濃く、高く遠くにあるように見える。物理的な側面では、秋の雲は空高くに浮かびやすい。ということですね。

引地:はい。それが秋空の美しさにも繋がっています。

気象予報に“天気のことわざ”を取り入れることも

ーー ちなみに今回の「天高く馬肥ゆる秋」のように、気象予報士の方も天気にまつわることわざを予報の参考にすることはあるのでしょうか?

引地:今の会社に入る前、私は航空自衛隊の気象予報官(主に自衛隊の航空機の運航に必要な気象情報の提供を行う業務に就く国家公務員)として働いていました。

前職でも今も、PCから算出されるデータだけじゃなく、実際に観察した空の様子や、地元の経験に基づく言い伝えなどの天気のことわざを参考に予報しています。

最新の天気予報の手法も局地的な天気現象を充分に表現できるわけではありません。より精度が高くきめ細かい予報をするためには、地元の経験に基づいた言い伝えなどの天気のことわざを知っておくことも大切です。

まとめ

今回の取材を通じて、以下のことがわかりました。

1. 秋の空が高く見える理由は、「雲が高いところに浮かぶ」から。

2. 「空色の濃さ」も高く見える理由のひとつ。

3. 「天気のことわざ」は気象予報にも取り入れられている。

「今日は空が高いな」と思ったら、すぐに立ち止まって眺めてみることをおすすめします。もしかしたら、そこで見る空は、あなたの人生でいちばん美しいものかもしれません。