概要
高校数学の公式をまとめた本は既に存在している。しかしながら、すべての公式を導出したものはいままでなかった。それで、この本を書くことにした。数学者や物理学者にとって、数式の導出こそがすべてであるし、受験生が公式の暗記で終わっていることは、自分としても遺憾であった。公式の導出が全てということを理解してもらえるようにこの本を書く。この本は高校数学公式集 全公式導出付の第四判である。 これはweb版(フリー)です。
目次
第一章 数学I・A
1.1 二次関数
1.2 三角比
1.3 確率
1.4 図形
1.5 整数論
第二章 数学II・B
2.1 高次方程式
2.2 図形と方程式
2.3 三角関数
2.4 指数・対数関数
2.5 多項式の微積分
2.6 数列
2.7 ベクトル
第三章 数学III・C
3.1 微分法
3.2 円、楕円、双曲線の接線
3.3 積分法
3.4 行列
3.5 確率分布
3.6 色々な図形
3.7 複素数
第一章 数学I・A
1.1 二次関数
ここでは二次方程式の解を扱う。その導き方を平方完成の一般形によって
導き出す。また、二次方程式に関しても扱う。中学数学で扱った二次関数は
以下のとおりである。
ここで、この関数を平行移動することを考える。x → x? q、y → y ? p これ
で、原点が(q, p) に移る。これを導入することによって
を導くことができる。ちなみに、高校で教えられる二次関数は次のとおりで
ある。
これを上記の形にすることができる。
よって、
いま、y = 0 とすることによって二次方程式が得られる。
これより、
1.2三角比
今、直角三角形を考え、底辺a 高さb 斜辺c として、角度をθ とすると、
である。これは定義である。そして、以下の三つの公式が存在する。
一番最初から証明する。定義より、
ここで、三平方の定理を使った。二番目の証明であるが、
である。これも定義から証明できる。次に三番目の証明であるが、
である。ここで、一番目の公式を使った。
正弦定理
図のようなABC の三角形に円が外接している状態を考える。ここでA 点を円上で動かしてD 点にして、角度BCD が90 °となるようにする。これから、
が得られる。A の角度であるが90 °以下、90 °、90 °以上と考えないとならない。これはA、B、C と同様に言えるので、
と正弦定理を導くことができる。
余弦定理であるが、図1.2 を見てほしい。これより、
図1.2余弦定理
これを三平方の定理に入れることによって、
これが余弦定理である。ここで、角度C が90 °や90 °以上180 °未満の時も
考えて、別々に証明しないとならない。
1.3確率
順列は
組み合わせは、
で定義されている。
ここで二項定理の証明をする。
これが二項定理であって、また別の二項定理も存在している。
これで二項定理の証明は終わった。
1.4図形
a)中線定理
図1.3のような図形を考える。
ここで、
である。この時、以下の定理が成り立つ。
これを証明するのにA点からBC上に垂線を引いてその点をDとする。すると三平方の定理から、
これをさらに展開することによって、
(1.29)に(1.30)を代入することによって
ここで、ADMという三角形で三平方の定理を使うことによって、
なので、(1.28)を導くことができる。
b)チェバの定理
定理: の内部に点Oがあり、AO、BO、COの延長と各辺BC、CA、ABとの交点をそれぞれD、E、Fとする時、
となっている。
c)メネラウスの定理
1.5整数論
両方とも偶数であるならば、もう一辺も偶数であり、割ることができるので最小の整数ではない。
そこで、斜辺の長さの奇数の整数をmとして、残りの一辺の長さの奇数の整数をnとする。すると、
第二章 数学II・B
2.1高次方程式
二次方程式を扱ったり、二次関数を扱ったが、三次関数や四次関数、それ以上の関数を作ることができて、二次方程式と同様に解を求めることができる。しかし、解の公式が存在するのは四次方程式までである。五次方程式以上の解の公式が存在しないことの証明には、代数学を使う。このようにxだけの関数を多項式という。
などの関数とは違う。
関数はで割ることができる。
ここで、をの商、をの余りという。の時、となっている。
次に簡単な複素数の説明をする。解きたいのは以下の方程式である。
ここで、が一つの解であることがわかるので、その方程式を因数で割ってやって、
となっている。ここで、の解は、
である。ここで、iは純虚数であり、
で定義されている。実際には存在しない数で虚数と呼ばれるが、量子力学な
どでは虚数が実際に登場するので、虚数なしでは宇宙を理解することはでき
ない。ちなみに、c = a + bi のような数を複素数という。
次に相加相乗平均について述べる。
これによって、相加平均のほうが相乗平均よりも大きいことを証明できた。一般的に
が成り立っている。
2.2図形と方程式
ここでは、内分、外分、座標系における直線の距離、点と直線の距離、三
角形の面積、円の方程式を求めることにする。
1:内分と外分
一次直線にa とb という点があって、その内部にx という点があり、m : n に
内分しているとき、
と内分点の方程式を得ることができる。次に外分であるが、一次直線にa と
b という点があって、その外部にx という点があり、m : n に外分している
とき、
と外分の方程式を得ることができる。
2:座標系における直線
x ? y 座標に二点 があるときに、三平方の定理からその直線が分かって、その距離は、
となっている。これが直線の距離の方程式である。
3:点と直線の距離
直線
と点がある時、その点と直線の距離は最短距離となる。その最短距離の長さは、
となる。これを証明する。
直線上に点から垂直におろした線があり、直線と交わる点をとする。距離の方程式から、
H は直線l 上の点なので、
が成り立っている。直線lの傾きは、なので、直線PHの傾きはになる。よって、
これから
ここで左の二辺は一定になるのでtと置いた。これから、となるので、式(2.12)より、
となっている。これから、t を求めることができ、
とわかる。また、式(2.13)に代入することによって、
と求める方程式を得ることができる。ab = 0 の時の証明もあるが、それは除くことにする。
4:三角形の面積
の時、三角形の面積は
となる。これを証明する。
まず、ABの長さであるが、
ここで、直線ABの方程式は
この直線と原点の距離は前回の定理から導くことができて、
これより、
これによって、証明がなされた。
5:円の方程式
円の接線の方程式は、
である。まずはこれを証明する。
円上にがある場合、OAの傾きは、であり、接線の傾きはである。
よって、接線の方程式は
これで接線の方程式の証明は終わった。
次に円の方程式であるが、円の方程式は一般的に以下のように書ける。
これを展開することによって、
さらに一般的に、
ここで、条件を求めたいと思う。
これより、。
2.3三角関数
1:加法定理
単位円上に がある時、
また、に余弦定理を使って、PQの長さを求めると、
この二つの式より、
が求まる。
また、
また、
また、これより、
これらの結果から、
となる。ここで、最後のところで分子と分母をで割っている。
また別の方法として、後で述べるベクトルを使った証明方法もあるので記しておく。という二つのベクトルがある場合、その内積は、
となっている。こちらのほうが簡単な証明方法である。
2:二倍角・半角の公式
まずは二倍角の公式を導く
次に半角の公式を導く
から、
3:三角関数の合成
ここで、加法定理を逆に使っていて、
4:円周率の求め方
まずは円を十二等分する。
図2.1
これによって中心角は30°になり、円周角は15°になる。ちなみに、半径は1とする。ここで、十二等分された弧の長さは、
であり、
である。
よって、
これが12個あるので、円周は次の値よりも大きい。
よって、
よって高校数学の範囲内でπが3.09以上ということを示した。
2.4指数・対数関数
ここでは主に対数関数の性質を扱う。
この証明であるが、 を入れると、より、
から、
でbを底とする対数を取ると、
よって、
2.5 多項式の微積分
ここでは多項式の微積分を扱う。三角関数や、指数関数、対数関数の微分は数学III・C で行う。まずは、微分の定義であるが、以下のように定義される。
ここで、今は、
である。今、
なので(二項定理を使った)、
であり、はの二次以上の項を意味している。これから、
を導くことができる。ここで、はの一次以上の項である。これは極限を取る時に消える。
微分はその逆になっていて、
である。ここで、Cは積分定数と呼ばれる任意の定数である。ここで、積分の正しい定義は区分求積法であり、以下のように定義されている。
これが微分の逆になっていることは次のように示すことができる。
ここで、とした。
2.6数列
1:等差数列
定義
この等差数列の和の公式であるが、末項をl とすると、
となっている。
2:等比数列
定義
この等比数列の和であるが次のようにして求める。
これより、
ちなみに、r=1の時はである。
これは、等差数列の和でやった。次にやの和を求めたい。
という恒等式を使っての和を求める。k=1から書いていくと、
この式を足してやると、
これより、
となっている。の和も同様にして、
という恒等式を使って求める。同様な計算から、
となっている。の和も同様に求めることができる。
2.7 ベクトル
ベクトルの内積
ベクトルの内積は次のように定義される。
ここでθはなす角である。これがとなることを証明したい。
まず、定義と余弦定理を使って、
これで内積がであることを証明できた。
ここではベクトルを使った三角形の面積の公式を導く。
の時三角形の面積Sは、
これは次のように証明する。
より、
また、の時、
より、
である。これは図形と方程式で得られた解と同じである。ベクトルは今までと異なる表現の一種である。
第三章 数学III・C
3.1微分法
多項式の微分は数学II・Bで行った。ここでは次の微分の証明を行いたい。
ここで、eは自然対数と呼ばれ、
で定義される量である。数値としては2.71程度である。
まずはサインやコサインの微分から始める。そのために図3.1をみてほしい。
図3.1 三角関数の微分、底辺は1とする。
ここで、
ここで、
より、
これをで割ることによって、
このθ→0の極限を取ると、
ここで、右辺と左辺は1になるので、結果として、
を得る。
これからサインの微分を導いてみる。
ここで、半角の公式を使った。コサインの微分も同じようにして、
となっている。ここでも半角の公式を使った。
次に指数・対数関数の微分を行う。
ここで最後の時に自然対数の定義を使った。次に指数関数の微分であるが、 とすると、になって、
と導くことができる。
3.2円、楕円、双曲線の接線
ここでは、円、楕円、双曲線の接線を微分法を使って求める円の方程式はであるが、これをxで微分することによって、
と接線の傾きが分かる。これから接線の方程式は、
と図形と方程式でやった解と同じになっている。
次に楕円であるが、方程式は
である。これをxで微分することにより、
となっていて、接線の傾きが分かる。これより、接線の方程式は、
次に双曲線であるが、双曲線の方程式は
これをxで微分することによって、
これを接線の方程式に当てはめると、
となっている。
次にシュワルツの不等式を証明したい。シュワルツの不等式とは、
である。
まず、
である。
積分をすることによって、
ここで、tに対する判別式から、
よって、シュワルツの不等式を導くことができた。
3.3 積分法
積分法は微分法の逆なので(数学II・Bの微積分を参照にされたい)
が成り立っている。ここでCは積分定数である。より一般的に微分法の公式をまとめると、
これが微分の公式であって、積分の公式は、
である。ここで、対数の積分が以下のようになることを示す。
3.4行列
行列
に対して逆行列は
となる。これは計算から分かる。
また、トレースと行列式を定義でき
である。
また回転行列は
となっていて、これは二次元ベクトルの回転に使われる。回転行列には次の性質がある。
ここで三角関数の加法定理を使った。
次にケーリー・ハミルトンの定理の証明をしたい。定理は
である。ここで、
である。この証明であるが、
ここでa+dのことをトレースと言い、TrA=a+dと書き、ad-bcのことをdeterminantと言い、detA=ad-bcと書く。
3.5確率分布
a)まず初めに統計数学で登場する数値の定義をする。
期待値(平均値)の定義
期待値は上記のように定義されている。
分散の定義
分散は次のように定義されている。
ここで、 であり、mは平均値である。
標準偏差は
で定義されている。
ここで、(3.45)から
を導くことができる。ここで、という事実と(3.44)の定義式を二行目で使った。
b)チェビシェフの不等式
確率変数Xの平均をmとして、標準偏差をσとすると、任意の正の数kに対して、
が成り立っている。
この証明を行っていく。
これより、
より、(3.48)を導くことができた。
c)aX+bの平均、分散、標準偏差
以下の定理が成り立つ。
まず、(3.51)から証明していく。
次に(3.52)の証明であるが、
というように証明できる。(3.53)の証明は自明である。
d)二項分布
二項分布とは次のような分布である。
ここで、q=1-pである。
二項分布の定理:この時、平均と標準偏差は次のようになる。
証明: とすると、 。今、 を考える。すると、
tで微分することによって、
ここで、t=1とすると、
ここで、p+q=1より、(3.57)を導くことができた。
(3.60)にtをかけることによって、
これをtによって微分すると、
ここで、t=1として、
ここから分散が分かって、
これより、
が導かれる。
3.6色々な図形
a)楕円
楕円は焦点から楕円上の点までの二つの直線の距離の和が常に等しい。それを証明しよう。焦点を(-a,0),(a,0)とすると、
という条件式がそれを満たしている。これを式変形することによって
b)双曲線
双曲線の方程式の場合は楕円の場合と同じように
から同じような計算をしてやればいい。
3.7複素数
任意の複素数は次のように書くことができる。
ここから実数の部分と虚数の部分が分かる。
実数の部分は、
である。
ここで、であり、複素共役と呼ばれる。
虚数部分は
である。
また、任意の複素数は のように書ける。
ここで、であり、
である。なぜこうなっているか知るためにはテーラー展開を理解しないとならない。テーラー展開とは無限回微分可能な関数において次の公式がなりたっていることである。
ここで重要な関数のテーラー展開を書いておくと、
となっている。(A.7)から(A.9)によって(A.5)が成り立っていることが分かる。