じゃがいもとトマトのミックス、ポマト(Pomato)について解説

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ジャガイモでは、和名ジャガタライモで知られる同志の交配だけでなく、近縁のもの、たとえばメキシコのトウモロコシ畑の雑草(ソラヌム・デミッスム種)を片親として使うなど、いろいろな交配がなされ、これまでたくさんの種間雑種が生まれてきました。「 男爵薯」とか「メークイン」は共にジャガタライモですが、ジャガタライモはカビや線虫などの病害虫に弱い。このため、これに強い近縁種が交配親として使われてきました。  同じ種(しゅ)の精子と卵子が合体するのも細胞融合ですが、交配によらないで、2種類の異なった生物の細胞をいっしょにして人工的に一つにし両方の性質をもたせた細胞をつくり出す技術を細胞融合と言います。
この技術を開発したのは1978年西ドイツ(当時)のマックス・プランク研究所(分子細胞生物学・遺伝学研究所)のG.F.メルヒャーズ(Melchers)博士です。

寒冷地にトマト(TOMATO)をつくり、温暖地にジャガイモ(POTATO)を生育させる可能性を探ろうとしてやってみました。
この方法は、双方の葉肉細胞を酵素処理して裸の細胞(プロトプラスト)化し、細胞融合剤・ポリエチレングリコール(PEG)で融合させるものです。
これで生まれたポマトは(ポメイトウ)、地上にはトマト、地下にはジャガイモがつがずに、ジャガイモは親指くらいのものしかできなく、トマトもミニトマトより小さいものでした。
写真でこれより大きなものが着いているのを御覧になったことがありかも知りませんが、それはトマトの茎をジャガイモの茎に接き木したもので、博士の開発した本当のポマトではありません。
ジャガイモは、太陽のエメルギーを光合成によって、地下の茎(根ではありません)にでん粉として蓄えるものですが、一本のポマトが、たとえたくさんの葉を着けても、光合成でつくる養分の量が限られていますので、一本で両方を収穫するのはチョット虫がよすぎます。
ポマトの本当のねらいは、トマトにジャガイモの耐寒性を導入しようとしたもので、目的は交配によるものとはあまり変わりませんが、交配では両親の各半分の染色体を子供がもらい、細胞融合では両親のすべての染色体をもらうことになり、通常の交配ができないものでも成功することがあります。
コロラド・ビートルと言う害虫が嫌うレプタインと言う物質を作り出す野生ジャガイモとの細胞融合に成功した例がありますし、ジャガイモ以外では昭和六〇年に農水省果樹試安芸津支場(広島県)とキッコーマンがオレンジとカラタチの雑種「オレタチ」の作出に成功しています。

注)ジャガイモの栽培種のほとんどは四倍体(2n=4X=48)ですが、Melchersら(1978)は二倍性半数体系統(2n=2X=24)のトマトを細胞融合させいくつかの体細胞雑種を得ました。大サブユニットがジャガイモ由来の細胞質をもつのをポマト、トマト由来の細胞質をもっている植物をトパトと呼んでいます。いずれの雑種もトマトとジャガイモの中間に位置にあり、トマト側からみるとジャガイモの耐寒性遺伝子が導入されているそうです。しかし、これらは開花はするのですが完全な不稔植物で、塊茎も利用できるほどの大きさにはなっていませんでした。しかも体細胞雑種には両親よりも多くのグリコアルカロイドが含有されていました。
その後Shepardら(1983)はアメリカの有名なジャガイモ『Russet Burbank』に由来するアルビノ系統(2n=48)とトマト栽培種(2n=48)から2n=72の体細胞雑種をつくったところ不稔ながら直径2.5cmの黄色の果実をつけ、少し大きい塊茎を収穫できました。  ジャガイモの野生種Solanum brevidens(2n=24)は葉巻ウイルス抵抗性を持っていますが、ジャガイモS.tuberosumとは交配できないため、各国で細胞融合のネタに使ってみていて、わが国でもホクレンにいた入倉幸夫と協力者大橋・大川(1987)がその細胞融合に成功し、また、北海道長沼町にあるグリーンバイオ(株)でも似たような成果を得ており、収量など実用性の向上に成功するのか関心がもたれているところです。

細胞融合で開発された植物

ポマト =ジャガイモとトマト:ナス科Solanum属とLycopersicon属
トパト=トマトとジャガイモ:Lycopersicon属とSolanum属。トマト由来の細胞質をもっている点が違う。
トマピー =トマトとピーマン(トウガラシ):ナス科のLycopersicon属と Capsicum属
オレタチ =オレンジとカラタチ ミカン科オレンジ類とミカン科カラタチ属
ハクラン = ハクサイと赤キャベツ: アブラナ科Brassica属
千宝菜 = キャベツと小松菜:    アブラナ科Brassica属
ベンリ菜 = 小松菜とチンゲン菜:ともにアブラナ科Brassica rapaの仲間
シューブル = 温州ミカンとネーブル:ミカン科ミカン類とオレンジ類
グレーブル = グレープフルーツとネーブル:ミカン科グレープフルーツ類と オレンジ類

付.ジャガイモとトマトの接ぎ木

ジャガイモとトマトの接ぎ木は1860年代に米国のルーサー・バーバンクが知られています。我が国では、1990年に宮城県登米郡豊里町の小学校教頭の遊佐英男さんが成功した。(日本農業新聞11月15日)
この例では、「メークイン」にトマトの「イエロー」を接ぎ木した。ともに草丈10センチほどのものを使い、割接ぎとはめ込みをためしている。ジャガイモは2枚の葉を残し、茎に丸い穴をあけ、そこにトマトの穂木を円錐状に切ってはめ込んだ。ビニール管などで巻き、日陰にしたやるとよい。約2週間もすると半分ほど成功します。確認後は日が当たるようにしてやります。遊佐さんの例では、途中ジャガイモの葉を取ってやったそうです。 通常はどっちつかずの収量に終わるのですが、遊佐先生は8月にトマト、10月末にはジャガイモを普通程度得られたそうだ。