脳と記憶のメカニズムについて分かりやすく解説

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脳と記憶について、中学生以上なら分かる内容で説明。前半は主に「日本学術会議・面白情報館」の「学習と記憶」の要約を中心に紹介。

 

(1)ペンフィールドの報告

カナダの脳外科医ペンフィールドは、部分麻酔で患者の頭蓋骨手術中、弱い電気刺激で場所を確認しながら手術を進めたが、脳の一部に電気刺激を与えると、患者が「聴いた事のない音楽が聴こえて来る」現象を見つけた。昔聴いて忘れていた曲の情報が蘇ったのだ。この知見から、記憶は脳の中にファイルされ、電気刺激と記憶(脳の活動)に強い関連がある事が判明し、ペンフィールドのマップを提示した。大脳皮質の各部位を電気刺激し、脳の機能が場所によって分業をされている様子を地図のように表したものだ。大きく言って、体性感覚野(体からの感覚情報を受取る部分)と運動野(体を動かす指令を出す部分)の2か所があり、その場所ごとに手足・口・目等の感覚や運動が分業で行われる事が分かった。人類は2本足歩行で手を使って文明を築いてきたので手に対応する脳の面積が大きく、口の対応部分が大きいのも食物を取り込む重要な部分だからだろう。

(2)脳の分業機能と記憶

物を見る「視覚野」、音を聞く「聴覚野」、動作の指令を出す「運動野」、物を考える「前頭葉」など、脳は分業をしながら働いている。これらを経由して取り込まれた電気信号(情報)が、脳のニューロンネットワークにファイルされ記憶の領域が作られる。人は脳を使って運動したり、感じたり、泣いたり笑ったり、今後の生き方を考え行動している。記憶が保管されなかったら、どれも不可能となる。自転車に乗る時も旅行する時も、ここがどこで、何をどうすれば何が出来るかは記憶に頼っている。何かを考える場合も、基となる記憶がなければどうする事も出来ない。

(3)人間の脳には3つの動物が住んでいる

地球上に生命が生まれて以来、生物の脳もゆっくりと進化して現在の形になった。人間の脳には、その進化のなごりが継承されている。人間の脳は3つの部分から成り、いちばん下奥にある脳幹は「爬虫類の脳」と言われ、呼吸・体温・ホルモン調節など「生きるための基本的な」自律的働きをしている(爬虫類以下はこれでほとんど説明できる)。中間にある大脳辺縁系は「馬の脳」と言われ、喜怒哀楽などの感情を司る。いちばん外側の大脳皮質は「人の脳」といわれ、見る・聞く・触る・味わう・臭いをかぐという感覚の「五感」や、運動、言葉や記憶、思考などの高度な機能を果たしている。この3つの脳は密接に協力して働くので、人間はこの3つの脳を同時に使いながら「人間らしい」豊かな精神活動をしていると言える。

(4)人間の脳と他の動物の脳との違い

人間の脳の大脳皮質、特に記憶をベースにものを考えたり知的な活動をする前頭葉は、他の動物に比べて極端に大きくなっている。それは、本能よりも学習する事を重んじ、「考える」事を武器にして生きのびる仕組みを持っているからだ。つまり、記憶の違いがその人の人格や人間らしさを作るので、「記憶」は人生そのものとも言えるかもしれない。

(5)記憶の仕組み

覚える・考えるなどの高度な事は、神経細胞(ニューロン)を通して起こっている。脳全体には約一千億個の神経細胞がある。神経細胞には、細胞体の周りにある短いヒゲの「樹状突起」と、細胞体からのびた長いヒゲの「軸索」がある。軸索は長いもので数十センチもあり、別の神経細胞の樹状突起と繋がっていて、複雑な神経細胞ネットワークを形成している。物を覚えるなどで脳を使っていると、神経細胞ネットワークが太くなったり、機能を高めたり、新しく形成されたりする。このネットワークこそが「記憶」の正体だ。細胞ネットワーク間は信号の形で伝達される。軸索と樹状突起が接続した部分にはすき間(シナップス)があり、繋がっていない。神経細胞から電気信号がシナプスに到達すると、手前の細胞から神経伝達物質と呼ばれる化学物質が放出され、次の細胞の表面にある受容体(レセプター)という受け皿でキャッチされて電位が発生し、その量が一定以上になると活動電位(電気信号)が発生して信号が伝わる。

(6)脳とコンピュータとの違い

何かを覚えようとすると、脳の神経細胞ネットワークには、それに対応した電気信号が流れてる。そのときシナプスでは、繰り返し電気信号が来ると受容体(レセプター)の数が増え、シナプスの感受性が高まる。このおかげで神経細胞ネットワークには、よりスムーズに情報が流れるようになる。さらに、神経細胞は軸索が伸びて新しいシナプスを形成し、ネットワークを補強したり新しく作ったりもする。脳には、外部刺激によりどんどん変化していく事が出来る能力がある。私たちの脳が何かを記憶する時、同じ神経細胞をいくつもの記憶に対して使い回している。つまり限られた数の神経細胞を効率的に使っている。この仕組みは、人間の脳のすばらしい能力を作り出す原動力にもなっている。1つの神経細胞を使って違う情報をいくつも扱える事は、「連想」という人間にしか出来ない脳の機能を生み出す。神経細胞のネットワーク上で、「全く違った情報」を色々と組み合わせたり離したりする事で、空想したり、ひらめいたり、創造したりする事が出来る。

(7)新しい記憶の整理「海馬」、記憶の保管「大脳皮質」

大脳辺縁系は「馬の脳」とも呼ばれるが、その中にはタツノオトシゴのような形をした「海馬(かいば)」がある。記憶の司令塔と言える大切な場所で、日常的な出来事や勉強して覚えた情報は、海馬の中で一度ファイルされて整理整頓され、新しい記憶として短期保管される。その後海馬で必要なものや印象的なものと認識を得たものが、長期記憶の保存先である大脳皮質にファイルされる。しかし、海馬はとても繊細で壊れやすい精密機械の性質があるので、これが働かなくなると新しい事が覚えられなくなる。つまり、昔の事は覚えていても、新しい事はすぐに忘れてしまうのだ。酸素不足で脳がダメージを受けると、最初に海馬あたりから死滅する。また、とても強いストレスにさらされた場合にも、海馬は壊れてしまう事がある。地下鉄サリン事件や阪神大震災が起こった時、PTSD(心的外傷後ストレス障害)が発症した場合があるが、これも海馬に異常が現れる病気だ。アルツハイマー型認知症が最初にダメージを受けるのも海馬である。

(注:食中毒事故で鮮明になった海馬の重要性)ドウモイ酸(domoic acid、略称DA)は、天然由来のアミノ酸の一種で記憶喪失性貝毒の原因物質。神経毒であり、短期記憶の喪失や、脳障害を引き起こし、死に至る場合もある。1958年、徳之島で駆虫薬として用いられていた紅藻ハナヤナギ(現地名ドウモイ)から分離・命名され、1966年に構造決定された。カイニン酸と似た性質を示し、グルタミン酸のアゴニスト(生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す作動薬)としてグルタミン酸受容体と強く結合して駆虫作用を示す。煮沸消毒を行っても毒性がなくならない。1987年の11月から12月にかけて、カナダのプリンスエドワード島で養殖のムラサキイガイによる食中毒が発生した。被害者107人中4人が死亡、12人が重度の記憶障害に陥った。中毒を起こしたムラサキイガイを調べたところ、貝100g当たり31~128mgのドウモイ酸が検出され、中毒者の摂取量は60~290mgと推定された(駆虫薬として用いられる量は30mg程度)。検死解剖などから、海馬に大量のドウモイ酸が取り込まれてグルタミン酸受容体と結合したために脳細胞が興奮・死滅し、中枢神経が侵された事が分かった。人の致死量は300mg/60kgと割り出された。特に子供や高齢者は注意が必要。赤潮からも検出される。ドウモイ酸は、異常繁殖した珪藻が活動を停止する際に作り出される。生物濃縮によって貝類やカニ、アンチョビなどに取り込まれるため、現在では魚介類の輸出入において検査が行われるようになって来ている。厚労省のサイトの説明では、記憶喪失性貝毒(ドウモイ酸)については監視体制や規制値を定めていない。輸出する場合には外国の規制値(20ppm)を準用している。

 

(注:短期記憶と長期記憶)記憶には「短期記憶」「長期記憶」という二つの貯蔵庫があるとされる。新しい情報が頭に入力されると、まず短期記憶として海馬に蓄えられるが、この貯蔵庫は一時的に情報を保存するだけで容量が小さい。それが短期記憶の貯蔵庫にとどまる限りは、すぐに忘れてしまう。一方、長期記憶はいったん貯蔵されると容易に忘れる事はなく、しかも膨大な量の情報を保存出来る。その容量は1000兆項目とも言われる。更に人間は、文書などの記憶媒体に保存し、情報を子々孫々に伝える事で飛躍的な進歩を続けている。

(注:長期記憶への移行)情報を長期的に保存し定着させるには、短期の貯蔵庫から長期の貯蔵庫に移す必要がある。つまり記憶が持続するためには、それが短期記憶を介して固定される必要がある。固定は記憶の痕跡が形成される際、脳細胞内の記憶タンパクに置換されると考えられている。この移行がうまくいかなければ、覚えた記憶もすぐに忘れてしまう。海馬は長期記憶を蓄積しないが、長期記憶を作り出す際にも重要な役割を果たしている。大量の情報はまず海馬に集まる。海馬でその情報が必要か不必要かの選別が行われ、必要なものだけが大脳皮質に保管される。また、インパクトのある出来事は記憶に残りやすい。喜びや恐怖の感情などは、海馬の近くの扁桃体という器官の働きが影響しており、喜怒哀楽といった感情が伴うと覚え易くなる。こうして、海馬が受ける刺激が強ければ強いほど長期記憶になりやすい。海馬に蓄えられた記憶を何度も出し入れする事で、記憶が定着しやすくなる。ところが海馬が傷くと、長期的な記憶を作り出す事が困難になる。このように脳では分業体制が出来ている。

(8)消えない記憶の保管、「大脳基底核と小脳」

記憶には、頭で覚える「陳述的記憶」と、体で覚える「手続き記憶(技の記憶)」の2種類がある。漢字を覚えたり計算の方法を覚えたりするのが陳述的記憶。海馬は陳述的記憶をする際、大切な役割を果たすが、一度覚えても結構忘れてしまう。手続き記憶は、自転車の乗り方や泳ぎ方などを覚える記憶で、一度しっかり覚えればなかなか忘れない。20年間も自転車に乗らなくても体が覚えていて乗れる。この2種類の記憶は、両方とも脳を使って記憶している点では同じだ。手続き記憶で中心的な役割をはたしているのは、海馬ではなくて脳のずっと奥にある「大脳基底核」と、後ろ側の下のほうについている「小脳」。大脳基底核は、脳が体の筋肉を動かしたり止めたりする時に、小脳は筋肉の動きを細かく調整してスムーズに動くために働く。一生懸命に体を動かし、何度も失敗を繰返しながら練習するうち、大脳基底核と小脳の神経細胞ネットワークが正しい動きを学び記憶していき、消える事なくいつまでも脳に刻み込まれる。

(9)ワーキングメモリー(心の黒板)

「人の脳」と呼ばれる大脳皮質には、「前頭連合野」という部分がある。この前頭連合野は、脳のあちこちにファイルされている情報をかき集め、一時的に保存(ワーキングメモリー)する事が出来る。集めた情報を組合わせたりバラバラにしたりして、「これからどうするか」といったことを検討する場所だ。その働きがまるで「黒板」にいろいろな情報を書き並べて作業しているようなので、「心の黒板」とも呼ばれる。そして前頭連合野は、自分の意志で何かを計画し、それを行うためのプランを立て、成功するために動き、反省もするという「脳の最高司令官」とでも言える重要な場所となっている。ワーキングメモリーは記憶の一種だが、人間の自意識につながるような、脳の情報処理のもっとも高度な働きとも言える。色々な情報を組み立て、問題を解決する時にワーキングメモリーは威力を発揮するので、人間特有の記憶と言えるかもしれない。

(10)脳の廃用性症候群

脳の働きは、神経細胞ネットワークに電気信号が流れる事であるが、脳の働きが活発だとネットワークに活発に電気が流れる。ネットワークに活発に電気が流れると質的な変化、細胞と細胞をつなぐ線が太くなったり、線が増えたりする。逆に、活発に電気が流れなくなると、線が切れたり細くなって消滅してしまう。つまり、あまり脳を使わないと衰え萎縮してしまい、脳の廃用症候群が生じる。また脳が老化すると、シナプスが減弱しシナプスの可塑性(刺激への対応能力)が低下したり、神経細胞の物質代謝に変化が起こり、異常物質が出現したり、何らかの原因で細胞死が起こったりする。老化に伴う神経ネットワークの伝達機能の低下だが。

(11)脳の柔軟性

神経細胞は軸索を伸ばしてネットワークを補強したり新しく作ったりする発芽と呼ばれる現象があり、神経細胞が死んでも、別の神経細胞の発芽によりネットワークを作直す事が出来る事を意味する。重度の水頭症の2歳児がいた。脳の中に水がたまる病気で、2歳児の脳には、生きるための基本的な働きをする脳幹と、ものを考える前頭葉の一部しかなかった。大脳皮質も薄い皮くらいしかなく、運動を担当する小脳もほとんどない。普通は生きていく事すらできないはずだが、この子は友達と一緒に遊戯をしたり、走ったり遊んだり出来た。この子の脳は、実は柔軟性に富む生後間もない頃に大きく組替えられていたのだ。母はこの子が生まれた直後から一日中体をマッサージしたり、話しかけたりしながら、外からの情報の刺激を赤子に与え続けた。柔らかい赤子の脳は、母の刺激を一杯受けて、残されたわずかな神経細胞を使ってネットワークを作り上げていったのではないかと判断されている。人間の脳がコンピューターと比べて一番違う点は、柔軟性という性質がある事で、特に子どもの脳の柔軟性は凄い。子どもの脳の神経細胞は、大人に比べて突起を伸ばしてネットワークを作りやすく、また学習や記憶に関するレセプターが多いため、柔軟性に富み、失われた能力を「肩代わり」する力が大きいのだ。

(12)大人の脳の神経細胞も新生する

脳は一定の年齢に達すると成長が止まり、後は退化するだけと言われてきたが、最近の研究によると、成人の脳でも記憶に関係する海馬において神経細胞が新生する事があるとか…海馬では新生ニューロンと言われる神経細胞が日々生まれている。しかし新生ニューロンの数は年齢を重ねるに従って急激に減少して行く。新生ニューロンを増やす事が出来れば、脳の成長を促す事が可能。学習する時や睡眠中に出るシータ波という脳波が、記憶を担う海馬の神経細胞の新生を促進している事が分かった。シータ波が海馬に伝わると、神経細胞が神経伝達物質ガンマアミノ酪酸(GABA)を放出し、それが神経細胞の元となる前駆細胞を刺激して神経細胞が出来ると言う…これは脳が成熟してしまった後でも、新たな神経細胞が神経ネットワークを形成出来る事を意味する。海馬と連携して思考・判断等を司る前頭前野にも刺激が伝わる。繰返し刺激を与えていると脳細胞が活性化する。日常生活での脳への刺激は、手先を動かし、変化のある生活を送り、頭を積極的に使うなどを行い、海馬の幹細胞を刺激して神経細胞の新生を促し、前頭前野の機能を高め、脳の情報伝達ネットワークを活性化して記憶力を保つようにする事で、脳の老化をある程度防止する事が可能と言われる。

(注:具体例)ドイツに住む中年男性のAさんは、隣人の家に招かれて楽しく話をしている最中に、突然体調がおかしくなり意識を失った。目が覚めると病院にいて、医師達に取り囲まれていたが、彼らが話している事が全く理解できない。しかも、自分から言葉を話す事も出来なくなっていた。普通、私達が言葉を聞いて理解したり話したりする時、左脳の言語野を使っている。Aさんは、脳卒中で左脳の言語野をやられてしまったのだ。その後一生懸命にリハビリを行い、ついに言葉を取り戻した。Aさんの脳を調べると、左脳の言語野の機能を右脳が肩代わりしている事が分かった。左脳にある言語野が右脳に移動していたのだ。このケースは、大人の脳でも神経細胞ネットワークが組変わる事が可能だと示している。

(13)記憶を向上させるポイント、「環境刺激」「主体性」「知的好奇心」

記憶の状態は、記銘、保持、想起の3段階からなり、記憶の種類には、感覚記憶、短期記憶、長期記憶の3種類がある。外部からの情報は、まず感覚中枢でキャッチされ感覚記憶で捉えられ、それが短期記憶となり、これを繰り返すことで長期記憶になる。記憶は映像、音、言葉など多くの分野に分けて保存されている。想起(思い出す)は、これら記憶の情報の結びつきをたぐり寄せる事であり、物忘れは想起の能力が低下していて、記憶の整理を担う海馬自身の仕事が充分に果たせていない状態だ。記憶のバトンタッチの中心である海馬が記憶力のポイントと言える。ただし、記憶は貯め込めば良いというものではなく、大脳皮質の様々な場所に保管されている長期記憶を、必要なときに必要な記憶を引き出して(想起)使ってこそ意味がある。この必要に応じて使うのは前頭前野の働きで、記憶を使うためには前頭葉の働きも良くする必要である。

(A)環境刺激

アメリカの生物学者ゲイジによるマウス実験で、一つの飼育箱は何も入れていないガランとした環境、もう一つの飼育箱はハシゴや回り車などたくさんの遊び道具を入れた環境で、それぞれの中でマウスを育てた。こうした中で成長したマウスの脳を調べると、遊び道具を入れた環境で育ったマウスの海馬が良く発達している事が分かった。豊かな環境のマウスの方が、海馬の神経細胞の数が15%も多く増殖能力も2倍以上にまで上昇していた。海馬がこのように大きくなり活性化すると、当然学習する能力も高くなる。多種多様な環境の方が脳の成長を促すのだ。

(B)主体性

学習や記憶をする時に大切な事の一つは「主体性」、自分から進んで行う事だ。意欲を持って勉強しないと身に付かないのは、誰でも体験的に知っている。イヤイヤやっても効率は上がらない。脳に大きなダメージを受けながらリハビリでそれを克服した人を調べると、共通するのはどの人も自分から積極的にリハビリをするという「主体性」を持っていた事だ。脳の奥深くにある脳幹部分には、青斑核という青い小さな部分が左右1つずつあるが、この青斑核は、あるものに注意を向けたりすると興奮してノルアドレナリンを作り、脳全体に供給している。ノルアドレナリンには、脳の柔軟性を増し、神経細胞ネットワークが作られやすくする働きがある。つまり主体的に学習しながらノルアドレナリンが脳内に出ると、ネットワークがスムーズに作られ、記憶が定着しやすくなる。私達が初めての場所に行ったり、新しいものに出会ったりして興味を持っている時、海馬から脳波のシータ波が出る。この時、シナプスでは情報伝達の効率がアップする。

(C)知的好奇心

赤子に色々な図形を見せると、複雑な図形の方をじっと見る。人間は生まれた時から、もっと知りたいもっと学びたいと言う知的好奇心があり、それに注目して物を考え学習するように出来ている。知的好奇心は、進化の中で人間が獲得した宝、大切に育てて使っていかなければならない。脳では、何かをして上手く行った時「良い気持ち」になる仕組みがある(脳内麻薬、脳の報酬系機能)。そして「がんばるぞ」という気持ちになる。脳の深い部分からは「A10神経」と呼ばれる神経束が伸びていて、大脳辺縁系から前頭葉に向かっている。知的な事を行っているとこの神経が刺激され、脳内麻薬物質(βーエンドルフィン)が出て「もっとがんばる」という気分になる。

(D)記憶力アップ

年齢を問わず、海馬は使われることによって鍛えられ、膨らみ、さらに記憶力が増大する。海馬に送られた短期記憶は持続時間があまり長くない。長期記憶として定着させるためには、繰り返し思い出す(復習)事が必要。また、記憶するときに何かに関連付けて覚える事で、映像、音、言葉などに分けられて保存されている記憶を思い出しやすくなる。思い出そうとする際に脳内で擬似検索を行っているが、関連付けが多いほど記憶を引き出しやすい。更に、手や耳などの器官を刺激して記憶したものも長く保持されやすい。覚えるときには、重要なポイントとなる項目をメモし、何度も読み返すと定着しやすくなる。そして、常に意識的に脳を使う事で、脳の老化を防ぎ、脳を新生させる。一方、時々休憩をとり軽い運動をする事も重要だ。軽い運動は脳の血行を良くして海馬の脳細胞を増やそうとするし、散歩する事で前頭葉の働きを活発にしてくれる。