カルボキシル基をもつカルボン酸と、ヒドロキシル基をもつアルコールまたはフェノール類を混合し、濃硫酸を触媒にして加熱すると、脱水縮合して1つの化合物になる。これをエステルと呼ぶ。
カルボキシル基-COOHからOHが、ヒドロキシル基-OHからHが取れて、そこで縮合した結果、オレンジ枠の結合を生じる。これをエステル結合といいます。そして、当然水が生じる。エステル結合中の黄色のOがカルボキシル基中のOだとカン違いする人がけっこう多いから確認してほしい。ヒドロキシル基中のOだよね。
上図ではフェノール類の代表としてフェノールをあげていますが、とにかく知ってほしいのは、アルコールだろうとフェノール類だろうと全く同じようにエステルをつくるんだということ。これ、大事です。芳香族がからんだエステルの問題は脂肪族・芳香族の両方の問題が出せるので、どこの大学もその問題のつくりやすさに乗じてよく出します。そのときにこの考えが基盤になってくるんです。
エステルは、実験問題でもよく扱われます。ただ、その内容をすべて書き出すには量が多すぎるのでここでは特に言及しません。これについては後に、エステルの実験問題を出題する予定ですので、必要な人はそこで学習しましょう。
実験の範囲に入るところですが、濃流酸について少し説明しましょう。
アルコールの脱水でも出てきたように、有機で「濃硫酸」は脱水反応の代名詞的存在です。このエステル化でもその役目を担っていますが、もう1つの役目も果たしています。
反応式中の矢印をよく見ると、一方通行の反応ではないことが分かります。化学?の範囲ですが、このような反応を平衡といいます。だから、せっかくエステルが生成してもかなりの量が再び加水分解しもとに戻ってしまうんです。濃硫酸は脱水作用だけでなく、吸湿性もあります。だから、エステル化反応によって生じた水を吸収してくれるんです。そうするとルシャトリエの法則(化学?の範囲ですが・・・。)により、減少する水を少しでも補おうとして平衡が右に移動する。その結果エステルをスムーズに生成させることができる。だから、エステル化反応にとって濃硫酸は不可欠なんです。
先ほど言ったようにエステルは、脂肪族と芳香族のパイプ役になるので、さまざまな問題が作られています。僕の講義でもいろいろなエステルはあえて多く取り上げています。それは、エステルを題材にすると、出てくる物質の範囲が広いためにさまざまなことを考える必要があり、それが僕の目的にぴったりだからです。
そのような問題を解くための基盤となる考え方を、ここで説明します。エステルの頻出パターンをいくつか書き出してみましょう。
[1] 脂肪族カルボン酸+脂肪族アルコール
これが、エステルの基本ですね。例としては
[2] 芳香族カルボン酸+脂肪族アルコール
カルボン酸の方にベンゼン環がついたエステル。
[3] 脂肪族カルボン酸+フェノール類
今度はフェノール類側にベンゼン環がついてます。
[4] 脂肪族カルボン酸+芳香族アルコール
ベンゼン環をもったアルコールの存在も忘れてはいけません。
[5] 芳香族カルボン酸+芳香族アルコール
両方にベンゼン環がつくものだって当然あります。
[6] 芳香族カルボン酸+2つの脂肪族アルコール
フタル酸のような2価カルボン酸では、同時に2つのエステル結合をもつものだってあるわけです。
・・・どうです?キリがないですよね。別に[1]~[6]のパターンは暗記しなくてもいいですよ。とにかくいろんなエステルが考えられるんだって事だけわかってくれればそれでいい。だからいろいろな問題がつくれるんです。もちろんここで挙げた[1]~[6]以外のパターンのエステルはまだまだある。しかもサリチル酸のような二面性をもつ物質がからんできたら・・・気が遠くなりそうですね。
エステルの構造式を決定する方法として、分子式からすべての異性体を書き出すことはあまり勧めません。数が多いし、見落とす可能性もあるからです。これが有効なのは、せいぜい[1]のときぐらいです。だから、直接エステルを決定しようとせずに、まずその”部品”であるカルボン酸・アルコール・フェノール類を決定すべきです。で、部品が出揃ったところで、最終的にエステルを決定すればいい。