イオン化傾向 |
K
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Ca
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Na
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Mg
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Al
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Mn
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Zn
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Fe
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Ni
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Cd
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Sn
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Pb
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Cu
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Hg
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Ag
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Pt
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Au
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水との反応 |
常温で激しく反応
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※1
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水蒸気でゆっくりと反応
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反応しない
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酸化力のない酸との反応(塩酸・希硫酸) |
反応して、水素(H2)を発生
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※2
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反応しない
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酸化力のある酸との反応(希硝酸・濃硝酸・熱濃硫酸) | 反応して、気体を発生※3(希硝酸→一酸化窒素NO、濃硝酸→二酸化窒素NO2、 熱濃硫酸→二酸化硫黄SO2) |
反応しない | |||||||||||||||
※1…高温の水(つまりお湯)で反応する。 |
◆イオン化傾向の意味
イオン化傾向とは、水中で金属単体がイオン化しやすい順に並べたものです。おそらく学校でさんざん覚えさせられた記憶があるでしょう。でもこの順番を知らないと問題解けないですからね。一応、有名な語呂を紹介しておきます。
「貸(K)そうか(Ca)な(Na)、ま(Mg)あ(Al)当(Zn)て(Fe)に(Ni)すん(Sn)な(Pb)ひ(H)ど(Cu)す(Hg)ぎ(Ag)る借(Pt)金(Au)」
表を見ればわかるように、左ほどイオン化傾向が大きい、つまりイオン化しやすい金属が並んでいます。イオン化しやすいということは逆にいえば単体になりにくいということです。単体でいるよりもイオンとしている方が安定だということです。無機化学を勉強している人は表の左にアルカリ金属やアルカリ土類金属のような”危険な”金属が並んでいることが納得できるはずです。これらの金属は非常に反応性に富んでおり、空気中でも反応するほどです。これはまさに単体としてよりも反応してイオン化しようとする性質を示しています。
一方、表の右には白金や金などの貴金属があります。これらの金属が重宝されるのは、その美しい光沢をもっているからです。ではなぜその光沢を維持できるのでしょう?それはこれらが単体として非常に安定だからです。イオンでいるよりも単体でいる方がずっと安定であるから、わざわざ反応してイオン化する必要がない。つまり、金属表面が空気などで酸化されないためにいつまでもその光沢を失うことがないわけです。他の金属では時間がたつと表面が酸化されるために光沢を失ってしまいます。
[例題]次の操作で反応が起こるものを選べ。
(ア)硝酸銀水溶液に亜鉛を加える
(イ)水酸化鉄(Ⅲ)水溶液にスズを加える
(ウ)硫酸銅(Ⅱ)水溶液にニッケルを加える
(エ)炭酸ナトリウムに白金を加える
このような問題はこのイオン化傾向で解くことができる。ポイントは金属の状態を比較することです。(ア)では銀がイオンとして、亜鉛が単体として存在しています。先ほど説明したように、イオン化傾向が大きいほどイオンでいたいわけですから、この状態はすごく不自然なんです。イオン化傾向がZn>Agなので、Znはイオンで、Agは単体でいたい。今はこの逆の状態なのです。そこで亜鉛はイオン化して(つまり溶けて)電子を放出し、銀イオンはそれを受け入れて単体になります。つまりここで酸化還元反応が起こるんです。半反応式はZn→Zn2++2e-とAg++e-→Agとなります。(イ)ではイオン化傾向のより大きい鉄がイオンで、イオン化傾向がより小さいスズなのでこれは自然な状態です。ですから何も起こらない。(ウ)ではイオン化傾向のより小さい銅がイオンなので不自然であり、すぐに反応して単体になります。(エ)はイオン化傾向のより大きいナトリウムがイオンなので問題なし。以上から、正解は(ア)と(ウ)になります。
◆水との反応
イオン化傾向が大きい金属ほど反応性が大きい。水との反応ではそれが顕著に表れます。まず、K~Caまでは冷水でも炎や煙を上げて非常に激しく反応します。Mgは冷水だと反応しないが、加熱して、熱湯にしてやると反応する。ちょっと反応性が小さくなりました。Al~Pbではもっと反応性が小さくなり、液体状態ではもうダメで、気体状態の水蒸気にすることでやっと反応する。Cu以下になるともう何をしても水とは反応しません。それぞれの境目がどこにあるのか、またどう変化していくのかをしっかりとチェックしましょう。
◆酸化力のない酸との反応
酸化力のない酸とは、塩酸や希硫酸を指すと考えてもらって構いません。もちろんそれ以外の酸もありますが、出てくるのはやはりこの2つです。覚え方はけっこう簡単で、イオン化傾向のHの直前までの金属が反応して、必ず水素を発生します。それ以下のCu以降は何をしても反応しません。
ただし、ここで気をつけてほしいことがあります。それは鉛Pbです。無機化学の【沈殿とイオンの性質】で、PbがCl-ともSO42-とも難溶性の物質を生成します。そうするとこの難溶性物質が鉛の反応を邪魔する形になり、なかなか反応が進行しません。つまり塩酸と希硫酸では鉛はほとんど反応しない、と例外として押さえましょう。
◆酸化力のある酸との反応
酸化力のある酸とは、希硝酸、濃硝酸、そして熱濃硫酸を指します。硝酸や硫酸は、薄いか濃いかでかなり性質が変わってくるので区別します。熱濃硫酸とは加熱した濃硫酸のことで、これは濃硫酸はそのままでは酸化力をもたず、加熱することではじめて酸化力を発揮するので、必ず加熱することになり、そのためこのように呼びます。
やはり酸化力がプラスされただけあって、反応領域が広がり、白金と金以外はすべて反応します。ここで大事なのは、発生する気体です。酸化力のない酸ではいつも水素でしたが、今度は水素でなく、しかも使用した酸によって発生する気体が異なるんです。希硝酸ではNOが、濃硝酸ではNO2が、そして熱濃硫酸ではSO2が発生します。
無機化学の【気体の製法と性質】のところで、これらの金属の製法ですべて銅との反応であることを確認してください。実はこの話と全く同じなんですね。ですから別に銅以外の金属でもよさそうなものなのですが、製法の時には決まって銅が用いられます。しかもこの反応式は入試でよく書かせることが多いので、丸暗記をオススメします。
銅+希硝酸: 3Cu+8HNO3→3Cu(NO3)2+4H2O+2NO
銅+濃硝酸: Cu+4HNO3→Cu(NO3)2+2H2O+2NO2
銅+熱濃硫酸: Cu+2H2SO4→CuSO4+2H2O+SO2
◆不動態
酸化力のある酸の場合にも例外が存在します。通常、反応する範囲に入っているAl、Fe、Niは、濃硝酸と熱濃硫酸に限っては反応しません。これは「不動態」となるからです。「不動態」とは、金属が表面に酸化被膜を形成するために内部が保護される状態のことです。ですらこれらの金属が不動態を形成することを覚えていないといけない。これは非常によく出題されるところです。ぼーっとしてるとこの不動態という例外に気付かず、範囲内だからといって反応すると答えてしまいがちです。
また、さらにひっかけがあって、「濃硝酸と熱濃硫酸に『限っては』」ということは、希硝酸のときには不動態を形成せずに反応するということです。ちょっと複雑で混乱しそうですが、ここまで知っていればカンペキです。ちなみにこのイオン傾向にはありませんが、クロムCrも不動態を形成する金属であることも余裕があったら知っておいてください。
Al・Fe・Ni・(Cr)+濃硝酸or熱濃硫酸→不動態