アイロン掛け(皺しわ伸ばし)とは
本来繊維は元の状態に戻る性質を持っていて、布に織られて繊維が密接に絡まりあっていることから、洗濯等外部から強い力を与えられると繊維が互いに絡まってしまい、乾燥するときに元に戻れない状態になったものが布にできる皺ですが、これを元に戻すには繊維に熱加えるか水分を与えて柔らかくして、絡み合った繊維を元に戻りやすくしてから、外力を掛けて元の状態に強制的に戻し、熱を加えて繊維の水分を取り除きその状態を維持するようにする必要があるのです。したがって、アイロン掛けには適当な湿り気と圧力と熱が必要です。
昔から、底が平らな金属容器に炭火を入れた「火のし」と呼ばれる器具で皺を無くす方法が用いられていましたが、綺麗な洗濯物を汚さないように炭火を取り扱のは大変で、電熱を使用できるようになると電気アイロンが一挙に広まりました。
アイロン掛けには最初に良く乾いた布に霧をかけてからしばらく置いてアイロンをかけるときれいに仕上がることを経験的に知っていました。
業務用のアイロン掛けには蒸気を使用することで布に湿り気が早く滲み込ませるとアイロン掛けが早く仕上がることが解りましたが、これはボイラとアイロンを蒸気を通す配管で結ぶ必要があり、大規模な設備が必要ですので、一般の家庭で使用するには無理がありました。そこで考えられたのがアイロン自体の熱を利用して蒸気を作くり、アイロンの底板に穴を開けて蒸気を噴出させながらアイロンを掛けるスチームアイロンが発明されたのです。
アイロン(irons)の歴史
紀元前1世紀ごろに中国で金属性の鍋に火の付いた木炭を入れて加熱し、鍋の底で布を滑らかにしたことが知られています。
17世紀には鋳鉄製の塊を3角形にし、取手を付けたものを炎で加熱して使用するするものや、鉄製の枡に火の付いた石炭を入れて使用するもの等がありました。
日本でも、炭火アイロンは、金属製の容器に炭火を入れ、この熱と容器の重みで布の皺をのばすもので、火のしと言われ、江戸時代中頃より使われるようになりました。
初期の電気を使用したアイロン(ニクロム線発明以前)
1882年6月6日ヘンリーシイリー(Henry W. Seely)が電気アイロンの特許(259054)を取得したのが最初で、炭素棒に電気を流して発生する熱(抵抗加熱)を利用したものでした。このアイロンではまだ温度の調整が出来ませんでしたが、火を使わないことから評判になったようです。
1892年4月26日サラ・ボーン(Sarah Boone)は据え置き型のアイロン台の特許(473653)を取得しました。
これは、ズボンをプレスするもので、基板とホットプレートがあり、初期のホットプレートは炭素アークで加熱されましたが、後に抵抗加熱が採用されるようになりました。その後、加熱温度はサーモスタット(thermostat)で調節されるようになります。
1905年にエール・リチャードソン(Earl Richardson)によって実用的な軽量の電気アイロンが開発されました。1905年から” hot point”の商標で販売が開始されました。
1906年アルバート・マーシュ(Albert Leroy Marsh)はニクロム線を発明し、電気で加熱する電気アイロンに広く使用されるようになりました。
1927年には サイレックス社(Silex Company)から衣類の材質に適した温度に設定できるアイロンの販売を開始しました。
(詳細はサーモスタットの開発(自動温度調節)を参照してください)
1935年になるとMontgomery Ward & Co,.Inc.、1936年にはSamson-United Corporation、からアイロンのデザイン特許が申請され、続々とデザイン特許が申請されるようになります。
スチームアイロン
アイロン掛けに蒸気を使用することで早く仕上がることから、アイロン自体の熱を利用して蒸気を作くるスチームアイロンは水タンクから小さな穴を通して電気で加熱された底板に水滴が落ちると蒸発して蒸気が作られます。ハンドルを持ってアイロンを持ち上げ、布の上に置くと蒸気が小さな穴から噴出して衣類に湿り気を与え、アイロンを押し付けると皺が伸びます。その時の温度は布の材質にダイヤルを合わせると適切な温度に調整されます。
電気式スチームアイロンを最初に発明したのは誰か、明確ではありませんが、1915年6月15日に「SHINTAROU KAKO」によって特許(us1143050)が取得されていますが、それ以前の記録はまだ十分に調査されていませんが、現状では見たことがありません。同じ人が1920年の7月20日にも電気式スチームアイロンの特許(1347224)を取得していますが生産販売されたかどうかは不明です。(詳細は(スチームアイロンの発明者は日本人?)を参照してください)
1936年米国スチームエレクトリック(Steem-Electric)社から実用的なスチームアイロンが発売されました。
1939年には(Edward P.Schreyer)によってサーモスタットを装備したスチームアイロンの特許( 2178512-1939-10-31)が取得されました。
1941年にはサーモスタットを装備したスチームアイロンが「Steam-O-Matic」のブランドネームで市場に導入され、このスチームアイロンの機械部分は(Edward P.Schreyer 2178512-1939-10-31)外観は(Brook Stevens )によって設計されたもので、湯沸型をしていて、内部で蒸気を作って底板の穴から蒸気を噴出させるものでしたので、すぐにドライアイロンに切り替えることが出来ませんでした。スチームアイロンが大量に生産されるようになりました。
1941年には温度設定変更型電気アイロンの特許(James J. Gough,2235479,1941-3-18,electric iron ,app1940-2-7,Cicago electric manufacturing Company)が取得され量産を開始しました。この後スチームアイロンが各社から次次に発売されるようになりました。
1953年にドリップ方式のスチームアイロンが英国のフーバ社(The Hoover Company)から発売されました。
スチームアイロンでは蒸気の発生方法には異なった方法がありました。
発生した蒸気をアイロンの基板に小さな穴を開け、そこから蒸気を噴出して布に湿り気を与えるのですが、 アイロンの温度はサーモスタットで制御されていて、基本的にその熱を利用して蒸気を発生させます。最初の蒸気発生方法はボイラー方式でタンクの水を加熱して蒸気を作る方式でしたが、この方法ではドライアイロンとして使用するには温度を低下させて水抜きをする手間が必要でした。この欠点は高温の基板に水の粒を滴下させて瞬時に蒸発させて蒸気を作るドリップ方式のスチームアイロンがこの方式では水の滴下を止めるとすぐにドライアイロンとして使用できるようになりました。
変り種のアイロン
液体燃料を使用したアイロンやガスアイロンもあり、これはガスを燃料してホースでアイロンにつなぎ、中でガスを燃やして熱を作るものです。蒸気アイロンは熱源として外部のボイラから蒸気をホースでアイロンにつないだものなどがあります。
アイロンに関する変わった話として、エクストリーム・アイロン掛け(Extreme Ironing,究極のアイロン掛け)は人里離れた場所でアイロン台を広げて服にアイロンを掛けるスポーツですので、クライミングを伴う山の斜面や大きな銅像の頭上、スキューバ・ダイビングでの海中など出来るだけ奇抜なところでアイロン掛けをするのです。