電気抵抗とは何か?

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 あらためて電気とは何かをもう一度良く考えてみましょう。

 くどいかもしれませんが、電気の根本は電荷を持った物質(電子等)が存在することです。

 電荷を持った物質があり、電荷を持った物質と電荷を持った物質との間には力が働きます。(クーロンの法則)

 この力によって電荷が移動することを電流が流れるといいます。

 電荷には極性があり、何らかの外部からの力によって、同じ極性の電荷がある場所に集中すると電位(電圧)が発生し、電荷のあ移動ができる物体(導体)があると、集中していた電荷がその物体の中に拡散(電流が流れる)していきます。

 そのとき、電荷を持つ物質の拡散(電流が流れる)を妨げることが電気抵抗です。言い換えると「電流の流れ難さ」です。

 その電荷の拡散を妨げる要因とは何か?、言い換えると「電流の流れ難さを作り出す要因は何か?」をこれから考えてみることにします。

 ちなみに電荷の拡散を妨げる要因がまったく無くなった状態が超伝導です。

用語の解説

 

ヴィーデマン-フランツの法則(Wiedemann-Franz law)

 熱伝導率と電気伝導率の比は金属の種類に拠らず一定で温度に比例するとした法則です。

エネルギーバンド(Energy Bands エネルギー帯)

 結晶中の電子の取りうるエネルギーは飛び飛びの「値」ではなく連続したある幅があり、この領域をエネルギーバンド(エネルギー帯)といいます。

 

オームの法則(Ohm’s law)  

抵抗の大きさは物質の種類に特有の値を持ち、通過面積に反比例し、長さに比例します。

格子振動 (Lattice vibration)

 結晶中の分子や原子は結晶格子の位置で前後左右上下に少しだけ移動する(振動)ことができます。

グリューナイゼンの式(Gruneisen Low) 

 格子振動による熱伝導の式を電気抵抗にも適用して、格子振動による電気抵抗に関する計算式を提案し、デバイ温度以上では、電気抵抗はTに比例し、デバイ温度以下ではTの3乗に比例し、抵抗は温度が低くなると急激に減少することが示されました。

 

シュレーディンガー方程式(Schrodinger equation)

 量子論の基本となる方程式です。

 

ドルーデモデル(Drude model)

 外部の電界によって加速された電子が金属原子に衝突することによって電子の移動が阻害され、電気抵抗が発生するとする仮説です。

デュロン-プティの法則

 原子の数が同じなら比熱は同じ[3NkB]になる。N は原子の数,kB はボルツマン定数。

 

デバイモデル

 結晶中で結合している原子の振動によって固体の比熱を説明するモデルを作り、低温での固体の比熱は絶対温度の3乗に比例することを明らかにしました。

 

電気伝導(Electrical conduction)

 電荷を持つ粒子(電子等)の移動することを電気伝導といい、電荷の流れが電流です。

 

電気伝導体(導体 electric conductor)

 電気を通しやすい材料のことで、良導体、単に導体とも呼びます。

 

電気伝導率(電気伝導度、導電率 electrical conductivity)

 物質の電流の流れ易さを表し、単位はジーメンス毎メートル (S/m)、記号(σ)です。

 

電気抵抗率(抵抗率、比抵抗 electrical resistivity)

 寸法によらないで物質の電気の流れにくさを表し、単位はオーム・メートル(Ω・m)、記号(ρ)です。

 

電気抵抗(抵抗 resistance)

  電流の流れ難さのことで、単位はオーム(ohm Ω)、記号(R)です。

 

電子軌道

  電子が原子核の周りを公転(軌道運動)している。

 

ドルーデ・ゾンマーフェルト・モデル(Drude-Sommerfeld model)

  電子はフェルミ速度vFという高速で運動(軌道運動)しながらドリフト速度vdで比較的ゆっくりと電界の方向に移動するとするモデルです。

パウリの排他律

 2つ以上のフェルミ粒子が、全く同一の量子状態を持つことはできない」ということです。

 

ブロッホの定理

 金属等の結晶中で原子が規則正しく配列されている場合には電子の運動が単純な繰り返しになることから数学的な表現を単純化することができ、電子の移動に関する解析にシュレーディンガー方程式を利用できるようになります。

 

バンド計算

 エネルギーバンドの関する数値解析全般のことです。

 

バンド構造

 エネルギーバンドの構造をバンド構造といい電気的な特性に大きく影響します。

 

不確定性原理(Uncertainty principle)

 測定値にばらつきを持たせずに2つの物理量を厳密に測定することはできない、という理論です。

 

マーティセンの法則

 金属の抵抗ρが温度に依存しない抵抗ρiと温度(格子振動)に依存する抵抗ρ(T)の和から成り立つこと。

 

ラマン散乱

 光が物質に当たって(入射)、飛び散る(散乱)とき、殆どの光の周波数は物質に当たる前の振動数と同じ周波数(レイリー散乱)ですが、飛び散った光の一部に物質に当たる前の光の振動数とは異なる振動数の光(ラマン散乱)が存在することが1928年インドの物理学者ラマンとクリシュナンによって発見されました。

 

量子論 

  プランクの実験で提唱された物理量の最小単位が量子あり、物理量はこの最小単位の整数倍をとることになります。量子を扱う自然科学の理論を量子論と総称しています。

 

ローレンツの電子論

 ドルーデモデルを拡張し、気体の分子運動を解析するのに分子(粒子)の速度分布(マックスウエル-ボルツマン分布)を電子の速度分布の解析にも取り入れて電子の運動をより厳密に解析できるようにしました。

電気抵抗の発見

 

1826年にドイツの物理学者、ゲオルク・オーム(Georg Simon Ohm)は長さや太さの違う針の中を電気が伝わって行く様子を調べ、電圧の違いによって異なった電流が流れること(電気抵抗の存在)を発見しました。その研究成果を1827年に発表します。これがオームの法則(Ohm’s law)です。

 

1879年にマクスウエルはヘンリー・キャヴェンディッシュ(Henry Cavendish)が残した電気に関する研究記録を調査していて、その研究記録の中でオームの法則と同じ内容のを発見をしていたことが記録されていることを見つけて、1781年に公表されました。

 

オームの法則

 オームの法則は抵抗に流れる電流と抵抗の両端に発生する電圧に関する電気工学で最も有名な法則です。

1826年にドイツの物理学者、ゲオルク・オームはフーリエが提出した熱伝導について理論(温度の違いによって熱の伝導が起きる)からの類推によって、長さや太さの違う針の中を電流が伝わって行く様子を調べ、電圧の違いによって異なった電流が流れることを発見しました。

1827年にオームは研究成果を本にして「Die galvanische Kette, mathematisch bearbeitet (数学的に取扱ったガルヴァーニ電池)1827/5/1」を発表します。これがオームの法則です。

 この研究に対する当時の科学者たちの評価は「web naked fancies(妄想に過ぎない)」でした。彼が望んだ大学教授への願いに対しても「そのような異端な学説を主張する者に科学を教える資格はない」と拒絶されてしまいました。

 その当時のドイツにおける科学的哲学(scientific philosophy)では自然を理解するための科学的な事実は論拠と推論によって証明されなければならないと考えられていて、実験の結果を数学的に表現しただけでは科学ではなく、なぜそのようなことが起こるのかを明快に説明する必要があったのでしょう。

 J.Jトムソンが電子を発見するのが70年後の1897年ですので、オームは説明しようにも方法が無かったのです。

 しかし、1836年英国のクックとホイートストンは文字を記号化して伝送することを実用化し、電信(5針式電信機)を送る電線の設計に当たってオームの法則が有効性であることを認識するようになり、1841年にはイギリスの王位協会からコプリー・メダル(Copley Medal)を受けられ、1842年には外国人として英国王位協会会員にも選ばれ、ようやく、オームの法則の有効性が広く認識されるようになり、オームも1849年にミュンヒェン大学の招請教授に任命されました。

 このオームの法則では電気抵抗(resistance)は電流の流れ難さの程度を数値化しているのですが、「電流の流れ難さを作り出す要因は何か?」についての説明は難しい問題として残っていたのです。

1861-4年マックスウエルの方程式を完成させたマックスウエルでさえ「電流とは何だ?」と疑問を発しているのですから。

抵抗は温度によって変化する

抵抗の大きさは常に一定ではなく、その物体の温度が高くなると僅かですが上昇します。
 低い温度(デバイ温度以下)では格子振動(フォノン)の散乱の影響による電気抵抗が温度の5乗に比例しますので急激に減少し、極限に低い温度以下になると電気抵抗は金属中に含まれる不純物に起因する値になってそれ以上減少せず一定になります。(詳細は抵抗の温度依存性を参照してください)
 超低温に冷やされたある特定の物質では、電気抵抗が急にゼロになったり、物質内部から磁力線が排除されたりする超伝導(Superconductivity)現象が発生します。

熱伝導率と電気伝導率の関係

1853年にグスタフ・ヴィーデマンとルドルフ・フランツGustav Wiedemann and Rudolph Franzは熱伝導率と電気伝導率の比は金属の種類に拠らず一定で温度に比例することを発見し、発表したのがヴィーデマン-フランツの法則(Wiedemann-Franz law)です。これは金属では熱の伝わり方と、電気の伝わり方に何らかの関係があることをしめしたものです。

マーティセンの法則(Matthiessen’s Rule)

1864年にマーティセン(Augustus Matthiessen)は金属の抵抗ρが温度に依存しない抵抗ρiと温度(格子振動)に依存する抵抗ρ(T)の和から成り立つことを発見しました。
詳細はマーティセンの法則を参照してください。

1911年にカメルリング・オンネス(Heike Kamerlingh Onnes)は水銀を液体ヘリウムで冷却して温度4.19Kでは電気抵抗がほぼゼロになる超伝導(Superconductivity)を現象を発見しました。

古典的な電気抵抗の原因

 

電子の発見

1897年トムソンによって電子が発見されると「電流の流れ難さを作り出すそもそもの要因は何か?」が議論できるようになります。

電子(粒子)が移動するのですから、当然障害物に衝突しながら移動するので、衝突から衝突までの自由に移動できる距離(平均自由行程)が長ければ抵抗が少ないとみなすことができます。

 

ドルーデモデル(Drude model)

1900年にパウル・ドルーデ(Paul Drude)は金属中の電子の移動に関するドルーデモデルを提唱しました。

この「電流の流れ難さを作り出すそもそもの要因は何か?」についての最初の提案は、金属中には移動しない金属原子(正イオン)が在って、その周囲に電子がガス状に分散していて、その電子は(電子密度n)外部の電界によって加速され、ある時間(緩和時間τ:relaxation time)加速されると金属原子に衝突することによって電子の移動が阻害されることから、電気抵抗が発生するとしたものでした。(

 

ローレンツの電子論

1909 年にローレンツ(Hendrik Antoon Lorentz)はドルーデによる金属の電気伝導度や熱伝導度の考えを拡張し、気体の分子運動を解析するのに使用する分子(粒子)の速度分布(マックスウエル-ボルツマン分布)を電子の速度分布の解析にも取り入れて電子の運動をより厳密に解析できるようにしました。

 その結果はヴィーデマン-フランツの法則をきわめてよく説明できたのですが、当時、実験が始まった極低温領域での比熱についての解析結果は実験結果と全く一致しないことが明らかになってきたのです。

 

自由電子は自由か?

 金属結晶中の原子は規則正しく配列していて、各原子は外側の電子軌道にある電子を放出して陽イオンになり、放出された電子は陽イオンの周辺を自由に動き回っていていることから自由電子と呼ばれていなす。

 この金属結晶に外部から電界を作用させると結晶中の自由電子が真に自由であれば、自由電子の運動は電界によって加速され、その運動を阻害するものは無いはずです。従って、電気抵抗は零であるはずですが、実際には有限の電気抵抗が存在するのです。

 この電気抵抗の存在は自由電子が自由ではなく、その運動は何かによって阻害されていることになります。まず最初に考えられたのが、自由電子が加速され、高速になると原子に衝突して自由電子の速度は失われ、再度加速を繰り返すとするドルーデモデルでしたが、ヴィーデマン-フランツの法則(Wiedemann-Franz law)で、 熱伝導率と電気伝導率の比は金属の種類に拠らず一定で温度に比例することが発見され、金属では熱の伝わり方と、電気の伝わり方に何らかの関係があることが知られるようになり、熱の伝わり方と電気の伝わり方は同様な方法で説明できなければならないと考えられるようになり、電気抵抗の説明はできても低温に置ける固体の比熱を説明できないことが問題になってきました。

この問題を解決したのは量子論で、結晶中の電子の状態を解析できるようになり、その結果、電気抵抗の原因は主に物質を構成する原子の熱振動で、それが自由電子の運度を阻害することによって電気抵抗が発生するこが判明してきました。また、結晶の欠陥でも自由電子の運動が阻害されることから、これによても電気抵抗が生じると考えられています。

 

量子論的な電気抵抗の原因

1924年にパウリ(Wolfgang Pauli )がパウリの排他律を発表し、電子の軌道には同一種類の電子は1個しか入れないという法則を発見しました。(同一軌道にはスピンの異なる2個の電子が存在する)また、温度を絶対零にしても物質中の電子は運動エネルギーを持っていることを発見しあす。その運動エネルギーをフェルミエネルギーといい、そのときの電子の速度をフェルミ速度といいます。このフェルミ速度によってドルーデの緩和時間や衝突の回数等を計算すると、その値は現実的なものではありませんでした。

 

格子振動

物質が固体になるとき、個々の原子は規則正しく配列されていることが結晶格子として知られていました。

1848年にブラベー(Auguste Bravais)は結晶14種類の3次元格子モデル(ブラベー格子Bravais Lattice)が提唱されました。

 

格子振動の量子論的モデル

 

デュロン-プティの法則

  デュロン(Pierre Louis Dulong) もプティ(Alexis Therese Petit) もフランスの科学者で、この法則は独自に1819年に発表されました。

 「原子の数が同じなら比熱は同じ3NkB」(デュロン-プティの法則)N は原子の数,kB はボルツマン定数。

 1モルの理想気体において、ボイル=シャルルの法則より、P:圧力とV:体積の積をT:絶対温度除した値はR:気体定数で一定になります。

  アボガドロの法則より、定圧定温下では体積は物質量に比例するから、n モルの場合、アボガドロ数NAとボルツマン定数kB の積は気体定数Rに等しいことから、[ R = NA×kB ] となります。

 この関係をデュロン-プティの法則に代入すると、1 mol の原子の比熱は3Rで、比熱は温度に依存しないことになるのですが、実際には低温での比熱の値が小さくなることが確認されてきました。(詳細はデュロン-プティの法則を参照してください)

 

ヴィーデマン-フランツの法則(Wiedemann-Franz law)

1853年にグスタフ・ヴィーデマン(Gustav Wiedemann)とルドルフ・フランツ(Rudolph Franz)は熱伝導率と電気伝導率の比は金属の種類に拠らず一定で温度に比例することを発見したのがヴィーデマン-フランツの法則です。これは金属では熱の伝わり方と、電気の伝わり方に何らかの関係があることを示したものです。

 

デバイモデル

1912年ピーター・デバイ(Peter Debye)は結晶中で結合(格子)している原子の振動(ホノンphonon)によって固体の比熱を説明するデバイモデルを作り、低温での固体の比熱は絶対温度の3乗に比例することを明らかにしました。

 固体のモル熱容量は高温(デバイ温度をこえる温度)ではデュロン=プティの法則の値3R(Rは気体定数)とほぼ一致しますが、低温では、温度の3乗に比例して小さくなることが実験でも知られるようになります。

 固体の比熱は大部分が格子振動によるものですので、デバイモデルで大変よく説明することができますが、金属の場合、格子振動だけではなく、結晶中の電子(自由電子)があり、電子の運動による比熱が加わるはずですが、実際には、ごく低温を除いて、金属の比熱もほぼデバイ・モデルで説明出来ることから、ドルーデモデルのように金属の結晶中の電子を完全な自由電子として扱う(電子を理想気体中の分子のように扱う)には問題があることが熱力学の分野で明らかになってきました。ヴィーデマン-フランツの法則から熱伝導と電気抵抗には関連があることから、電気抵抗についてについてもドルーデモデルとは別なモデルが必要になってきました。

 

格子振動による電気抵抗に関するグリューナイゼンの式(Gruneisen Low)

  グリューナイゼンは格子振動による熱伝導の式を電気抵抗にも適用して、格子振動による電気抵抗に関する計算式(グリューナイゼンの式)を提案し、デバイ温度以上では、電気抵抗はTに比例し、デバイ温度以下ではTの3乗に比例し、抵抗は温度が低くなると急激に減少することが示されました。

 

ラマン散乱

 光が物質に当たって(入射)、飛び散る(散乱)とき、殆どの光の周波数は物質に当たる前の振動数と同じ周波数(レイリー散乱)ですが、飛び散った光の一部に物質に当たる前の光の振動数とは異なる振動数の光(ラマン散乱)が存在することが1928年インドの物理学者ラマンとクリシュナンによって発見されました。

 このような現象が生ずるには、光が物質に当たったとき、物質中の原子や分子が振動しているか、回転しているのであれば、ドッブラー効果によって振動や回転の振動数分だけ光の振動数が増加したり減少したりすることが考えられ、物質に当たる前の波長とは異なる波長の光が放出されると考えられました。

 これは1924年にド・ブロイ(de Broglie)が提唱した物質の粒子性と波動性を結びつける考えで、物質は物質の温度に応じた周波数で振動しているとする、物質波またはド・ブローイ波(de Broglie wave)が検出されたと考えられ、当時この発見はラマン散乱の発見は物質波の存在が確認されたと考えられました。

 

バンド計算への発展

 

シュレーディンガー方程式(Schrodinger equation)

 1925年にエルヴィン・シュレーディンガーErwin Schrodingerが量子力学の一形式である波動力学の基礎方程式を提案しました。その式をシュレーディンガー方程式といい、量子論の基本となる方程式です。最も単純な水素原子をモデルにした方程式では正確な答えを得ることができますが、結晶のような複雑なモデルでは答えを得ることができませんでした。

 

1927年にハイゼンベルクによって不確定性原理(Uncertainty principle)が提唱されあした。この原理によると、量子レベルではある2つの物理量を同時にばらつきを持たせずに測定することはできません。例えば、電子のある位置におけるエネルギーを測定しよとしても位置とエネルギーを同時に正確に測定することはできないことになります。

 これはニュートン力学と量子力学の概念の大きな違いですが、それではどのようにして物理現象を理解すればいいのか?。

 量子力学では、電子がある位置に存在するであろう確立と、その電子が持っているであろうエネルギーの確率を計算することができますので、その確率がどのような分布をしているかを計算することで物理現象を理解することになります。

 

ドルーデ・ゾンマーフェルト・モデル(Drude-Sommerfeld model)

1927年にゾンマーフェルト(Arnold Sommerfeld)は量子統計力学のフェルミ-ディラック統計を用いたゾンマーフェルトの金属電子論(Sommerfeld’s theory of metal)を提唱します。

 電子はフェルミ速度vFという高速で運動(軌道運動)しながらドリフト速度vdで比較的ゆっくりと電界の方向に移動します。

 フェルミ速度vF の電子は散乱時間τ時間だけ電界の方向に進み、散乱によって電界方向の速度を失い、もとの電界方向の速度に戻るのに散乱時間τが必要になる。これを統計的に扱うとドリフト速度vd に対応する速度分布が得られます。

 

 

ブロッホの定理

1928年にフェリックス・ブロッホ(Felix Bloch)によってブロッホの定理(Bloch’s theorem) が提唱され、金属等の結晶中で原子が規則正しく配列されている場合には電子の運動が単純な繰り返しになることから数学的な表現を単純化することができ、電子の移動に関する解析にシュレーディンガー方程式を利用できるようになります。

 

バンド計算

 電子の状態を計算するシュレーディンガー方程式は非常に難解で、水素原子のような簡単な構造については答えが得られるのですが、結晶中の電子のような複雑なものについは答えを得ることができませんでした。

 上記のブロッホの定理(条件式(ハミルトニアン)をシュレーディンガー方程式に代入することで、難解なシュレーディンガー方程式の近似的な解を得ることができるようになりました。

 その結果、単独の原子に含まれる電子の運動エネルギーは飛び飛びの値(電子軌道)であることは良く知られていましたが、幾つかの原子が結合した状態での電子の運動は原子が単独に存在するときとは異なって、最も外側にある電子軌道の運動エネルギーは幾つかのエネルギーに分離してある幅を持った値になることが解かりました。

 結晶では多数の原子が周期的に配列されていて、その間にある電子(自由電子)の運動エネルギーは一定ではなく無数のエネルギーに分離しますが、分離したエネルギーの値はある幅を持った値(バンド)の中にあることが解かってきました。

 このエネルギーの幅をエネルギーバンドといい、このような構造をバンド構造といい、この計算手法をバンド計算といっています。

 特に金属では、最も外側にある電子軌道のエネルギーバンドの幅がその下の電子軌道のエネルギーバンドと重なり合っていることが電気を良く通す要因であることが解かってきました。

 このようなエネルギーバンドの構造の違いが電気を良く通す導体、電気を通さない絶縁体等の物質の違いを示すことから、エネルギーバンドの構造を単にバンド構造ともいいます。

電気抵抗の原因

 電子の運動を阻害(散乱)することが電気抵抗の原因と考えられ、電子を散乱させる原因となるのは電子が理想的な軌道を通れない場合(ポテンシャルの周期性が失われる)であると考えられ、電子の運動方向や速度が乱される主要な原因は物質を構成する原子の熱振動(格子振動)で、その大きさは格子振動の周波数が大きければ(温度が高い)電子は大きく散乱されることから、電気抵抗は温度が高ければ抵抗が大きくなる傾向があります。

 そのほかに、結晶格子や結晶の状態の変化、金属内部の欠陥でも電子の散乱が発生して電気抵抗が上昇することになりますが、この種の電気抵抗には温度依存が無いことから残留抵抗と呼ばれています。