アーク放電について解説

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 グロー放電から更に電流を増加させるとアーク放電になり、グロー放電が高い電圧で小さな電流で気体分子の温度も低い放電であるのに対し、アーク放電は低い電圧で大きな電流で、気体分子の温度も高い放電です。
 アークとは初期の放電灯で電極間にできた輝く部分を指す言葉で、ここが、アーク(円弧、弓形)になっていて、電弧と呼ばれることもあります。
 アーク放電のその他の放電との本質的な違いは、陰極からの電子の放出方法が異なることです。グロー放電の電流が2次電子放出であったのに対し、アーク放電の陰極からの電子の放出方法は電界放出または冷電子放出と呼ばれる非熱アーク、または冷陰極アークと、非常に高い温度(沸点近く)になると、陰極から大量の電子が放出され(熱電子)る熱陰極アークの2種類の放電形式があります。アーク放電の電子は金属蒸気から供給されることです。

 一般に、陰極が炭素やタングステンなどの沸騰して気体になる温度(沸点)が高い物質では熱陰極アークになり、鉄や銅、水銀等の沸点が低い物質の陰極では冷陰極アークになります。

  冷陰極アーク放電は陰極表面の非常に強い電界によって直接大量の電子が放出される電界放出または冷電子放出による電子が放電電流の主要部分を占める放電で、陰極に水銀を使用したものなどで、水銀の表面に極小さな部分にホットスポットができ、そこから金属蒸気が供給されそれが過熱されて電子を供給するもので、この電子が放電電流の主要部分を占める放電です。

 熱陰極アーク放は電正イオン衝突等によって陰極が加熱されて局部が非常に高い温度(陰極材料の沸点近く)になると、陰極から大量大量の金属蒸気が供給されそれから電子が放出され(熱電子)、この電子が放電電流の主要部分を占める放電です。

 一般的に放電管に使用されるタングステン等の高い沸点の陰極材料では熱電子放出になりますが、沸点の低い材料では熱電子放出に至らず、陰極スポットと呼ばれる非常に小さな領域から非常に高い密度で電子が放出されます。そのスポットは幾つかあり、金属蒸気を放出し、放電に必要な電子を供給すると共に、強い輝きを発し、それぞれのスポットは陰極表面をすばやい動きでランダムに移動します。

 陽極は電子を収集する役目を持ち、電子の衝突によって加熱され温度が上昇します。従って、陽極の表面にも局部的に高温となり陽極材料の沸点を超えて金属蒸気を出す部分も生じます。陽極領域ではイオン化とその再結合が平衡状態にあった(プラスマ状態)のが陽極の電界の影響を受けて、平衡状態が崩れながら陽極表面までその変化が到達するのですが、その状況の詳細は複雑で十分に理解されていないようです。

 その陽極の溶融した部分から非常に微細な粒子が放出されます。
余談ですが、水素原子を吸収した材料では溶融池から水素分子が放出されるときに発生するバブリングによって溶融池の表面張力が減少し、水素分子以外の微細な粒子の発生が増加する現象があります。これは、鉄の合金から微量な銅や錫、炭素、窒素などを除去するのに利用されることが期待されています。しかし、陽極の最終的な温度はアークの状態や電極の形状、電流の大きさ等によって大きく左右されることから実用化には工夫が必要です。

 

放電管
 放電管の構造は構造材としてはガラスが使用され、放電管の気密性と電気的な絶縁、構造を作ります。

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陰極表面から電子の平均自由飛程(1000分の1mm程度、金属とガス伝導体との境界)程度の領域では電子の運動エネルギーが低く、電離も再結合もない領域です。
 ここでは、正イオンは陰極に向かって加速され、陰極に衝突し、2次電子放出の他に、正イオンが持っていた運動エネルギーが陰極を加熱するので、陰極の表面は高温になり局部的に溶融沸騰して金属蒸気を発生させます。その金属蒸気が高温であることから電子と正イオンに分離されて熱電子が放出さるようになります。放電電流は熱電子、2次電子と正イオンで構成されますが、熱電子が大部分を占めます。

  この領域で放出された電子は陰極周辺の高い電界で急速に加速され原子を電離するのに必要な運動エネルギーを獲得します。それに続く弱いイオン化プラズマ領域(再結合長約0.1mm)は局部的に熱平衡になりますが、電子の温度は正イオン温度よりも2倍程度高く電離が盛んに起こり、電子の数が増加します。
  アークの本体部分のプラズマでは電子と正イオンの温度がほぼ等しくなり、熱平衡状態になります。電子とイオンがほぼ同数になって電気的には中性になります。放電電流は正イオンの移動速度が電子に比較して非常に遅いことからそのほとんどを電子によって運ばれます。

  アークでの発光メカニズムはアークの強度が低いときには陰極が高温に熱せられて発する光(初期のアーク灯)とアーク中で励起されて発生する光の混合です。ネオン管を除く放電灯のほとんどがこのアーク放電によるもので、アークが通る経路にある物質(一般に不活性ガス)によって電気的特性が異なり、その中に含まれる微量原子(水銀、ナトリウム等)によってさまざまな光が放出されます。

 アークの強度(アーク電流)が増すと電極が融点に達し、蒸気を放出しその蒸気が電離されて発光したり、炭素蒸気は電離しにくいことから、高温となり周辺の分子が加熱され熱電離によって数種類の分子が発光したりすることがあります。

 アーク放電は一般的に低い電圧で高い電流密度の放電ですので、放電管のようにアークの経路が制限されたもの(Wall stabilized arc)では、プラズマの直径が制限された状態で電流が流れると、電流の磁界(アンペアの右ねじの法則に従って発生する磁界)によって移動する電子をアークの中心部分に向かわせる力(フレミングの左手の法則)が働くことからアークが圧縮されるピンチ効果(pinch effect)が生じてアークが不安定になることがあります。