これまでに学習してきた炭化水素(アルカン、アルケン、アルキン)はCとHだけからなる化合物であった。ここでは、さらにO酸素を含んだ化合物について学習していく。
1)アルコールとエーテル
アルコール
炭化水素の水素原子をヒドロキシ基-OHで置き換えた化合物をアルコールと総称する。アルコールの名称は-OHが結合した最長の炭素鎖を母体として、それに相当する炭化水素名の語尾のeをolに変える。簡単にいえば、アルカン名の「ン」を「ノール」に変える。また、-OHを含んだ最も長い炭素鎖を母体として命名する。このとき、-OHの位置が小さくなるように、炭素鎖に番号を付け、-OHの位置を示す。
炭素数 |
アルカン |
アルコール |
||
構造式 |
名称 |
分子式 |
名称 |
|
1 |
CH4 |
メタン |
CH3-OH |
メタノール |
2 |
CH3-CH3 |
エタン |
CH3-CH2-OH |
エタノール |
3 |
CH3-CH2-CH3 |
プロパン |
CH3-CH2-CH2-OH |
1-プロパノール |
CH3-CH(OH)-CH3 |
2-プロパノール |
|||
4 |
CH3-CH2-CH2-CH3 |
ブタン |
CH3-CH2-CH2-CH2-OH |
1-ブタノール |
CH3-CH2-CH(OH)-CH3 |
2-ブタノール |
☆ Cが3個以上のアルコールには異性体が生じる。
アルコールの分類 (次の分類aとbは混同しやすいので、しっかり覚えること)
a 分子中の-OHの数による分類
分子中にヒドロキシル基が1個のものを一価アルコール、2個のものを二価アルコール、3個のものを三価アルコールという。2価以上のものを多価アルコールという。また、炭素数の少ない(C=6以下)アルコールを低級アルコール、炭素数の多いアルコールを高級アルコールという。
b 分子中の-OHが結合している炭素原子による分類
ヒドロキシ基の結合している炭素原子に、他の炭素原子が何個結合しているかによって、第一級アルコール,第二級アルコール,第三級アルコールに分類される。
例)C4H9OHの各異性体を分類する。Rは炭化水素基(メチル基,エチル基など)
アルコールの性質
・アルコールの沸点 → アルコールは分子量の似た炭化水素に比べ沸点・融点が高い。
(理由) アルコールは分子間で水素結合という結合を形成し、分子どうしが引き合っているため。
・アルコールの水への溶解度(水への溶けやすさ)
アルコールの水への溶解度は炭素数が少なく、ヒドロキシ基の数が多いほど溶解度は大きくなる。例えば、C=3のプロパノールまでは水と任意の割合で溶け合うが、それよりも炭素数が増すと、溶解度は低下する。
(理由) アルコールの炭素鎖の部分は水とはなじみにくく(疎水性または親油性という)、一方、-OHは水となじみやすい(親水性という)ため。炭素数が増すと疎水性が強くなり、-OHが増すと親水性が強くなる。
アルコールの反応
・アルコールの置換反応
金属ナトリウムと反応して水素を発生する。
2R-OH + 2Na → 2R-ONa + H2 (Rは炭化水素基を示す。 R-ONa:ナトリウムアルコキシド)
2CH3-OH + 2Na → 2CH3-ONa + H2 (CH3-ONa:ナトリウムメトキシド)
2CH3-CH2-OH + 2Na → 2CH3-CH2-ONa + H2 (CH3-CH2-ONa:ナトリウムエトキシド)
・アルコールの酸化反応(脱水素反応)
アルコールを酸化すると、アルコール分子中の水素原子と酸化剤(酸素原子)が反応して、水ができる。つまり、アルコール分子から水素原子が2つ外れる反応。
このように、第一級アルコールを酸化するとアルデヒド、第二級を酸化するとケトンが生成する。
メタノールとエタノール
メタノール(CH3OH)はメチルアルコールともいわれ、水と任意の割合で溶け合う有毒な液体である。一酸化炭素と水素から合成される。
反応式 CO + 2H2 → CH3OH
エタノール(CH3CH2OH)はエチルアルコールともいう。水と任意の割合で溶け合う液体で、デンプンやブドウ糖(グルコース)C6H12O6を酵母などの微生物によって分解すると生成する。これをアルコール発酵という。工業的には、エチレンに水を付加させてつくる。
アルコール発酵 C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2
工業的製法 CH2=CH2 + H2O → C2H5OH
エーテル
酸素原子に2個の炭化水素基(アルキル基)が結合したR-O-R’をエーテルといい、C-O-Cの結合をエーテル結合という。エーテルは飽和1価アルコール(二重結合や三重結合をもたず、‐OHを1つだけもつアルコール)と構造異性体の関係にある。
CH3-O-CH3 |
CH3-CH2-O-CH2-CH3 |
CH3-O-CH2-CH3 |
ジメチルエーテル |
ジエチルエーテル |
エチルメチルエーテル |
エーテルの命名は炭化水素基(アルキル基)の名称をアルファベット順に並べて、その後に「エーテル」とつける。
問題41 C4H10Oで表される構造をすべて書き、命名せよ。
ジエチルエーテル
ジエチルエーテル(C2H5-O-C2H5)は単にエーテルともいわれる揮発しやすい(蒸発しやすい)液体で、麻酔性がある。その蒸気は空気よりも軽く、引火しやすい。水には溶けにくく、有機化合物をよく溶かすので、溶剤として用いられる。エタノールを濃硫酸を用いて130~140℃で脱水することによって得られる。また、170℃以上にするとエチレンを生じる。
また基本的にエーテルはアルコールの脱水によって得られる。たとえば、ジメチルエーテルはメタノール2分子から、エチルメチルエーテルはエタノールとメタノールから得られる。
2CH3OH → CH3-O-CH3 + H2O
C2H5OH + CH3OH → C2H5-O-CH3 + H2O
問題42分子式がC4H10Oで示される構造異性体には7種類ある。これらの異性体を次の指示に従って分類し、構造式で記せ。
(1)酸化するとアルデヒドを生じるもの
(2)酸化するとケトンを生じるもの
(3)酸化されないが金属ナトリウムと反応し水素を発生するもの
(4)金属ナトリウムと反応しないもの
7種類とは、問題41の7つのこと。
(1) 第一級アルコールのこと。 1-ブタノール,2-メチル-1-プロパノール
(2) 第二級アルコールのこと。 2-ブタノール
(3) 第三級アルコールのこと。 2-メチル-2-プロパノール
(4) エーテルのこと。
2) カルボニル化合物(アルデヒドとケトン)
アルデヒド
アルデヒド基-CHOをもつ化合物を総称してアルデヒドという。
アルデヒドの名称は炭素数の等しいアルカンの語尾eをalに変える。簡単にいえば、アルカン名の「ン」を「ナール」に変える。
炭素数 |
アルカン |
アルデヒド |
|||
分子式 |
名称 |
分子式 |
名称 |
慣用名 |
|
1 |
CH4 |
メタン |
H-CHO |
メタナール |
ホルムアルデヒド |
2 |
CH3-CH3 |
エタン |
CH3-CHO |
エタナール |
アセトアルデヒド |
3 |
CH3-CH2-CH3 |
プロパン |
CH3-CH2-CHO |
プロパナール |
|
4 |
CH3-CH2-CH2-CH3 |
ブタン |
CH3-CH2-CH2-CHO |
ブタナール |
|
アルデヒドの製法(第一級アルコールの酸化)
R-CH2-OH + O(酸化剤の酸素原子) → R-CHO + H2O
CH3-OH + O(酸化剤の酸素原子) → H-CHO + H2O
CH3-CH2-OH + O(酸化剤の酸素原子) → CH3-CHO + H2O
アルデヒドの酸化
アルデヒドは比較的不安定(こわれやすい・・・反応しやすい)ため、酸化されると酸化剤の酸素原子を取り込んでカルボン酸になる。
H-CHO + O(酸化剤の酸素原子) → H-COOH (ギ酸)
CH3-CHO+ O(酸化剤の酸素原子) → CH3-COOH (酢酸)
アルデヒドの還元性
アルデヒドは酸化されてカルボン酸になりやすい。酸化されやすということは相手を還元する性質が強いということである。そのため、アルデヒドは銀鏡反応を示し、フェーリング液を還元する。
銀鏡反応:
アンモニア性硝酸銀([Ag(NH3)2]+)にアルデヒドを加えて温めると、ジアンミン銀(Ⅰ)イオン(酸化数+1)が還元されて、単体の銀(酸化数0)が析出する。
反応式(R-はアルキル基(炭化水素基))・・・ 覚える必要はない
2[Ag(NH3)2]+ + R-CHO + 3OH– → 2Ag + R-COO– +4NH3 + 2H2O
フェーリング反応:
フェーリング液(Cu2+(酸化数+2)を含む塩基性の溶液)にアルデヒドを加え温めると、酸化銅(Ⅰ)(Cu2O:酸化数+1)の赤色沈殿を生じる。
反応式(R-はアルキル基(炭化水素基))・・・ 覚える必要はない
2Cu2+ + R-CHO + 5OH– → Cu2O↓ + R-COO– + 3H2O
ホルムアルデヒドとアセトアルデヒド
・ホルムアルデヒド: メタノールの蒸気を赤熱した銅線(酸化銅(Ⅱ)CuO)に触れさせると、メタノールは酸化されてホルムアルデヒドになる。
反応式 CH3OH + CuO → HCHO + Cu
ホルムアルデヒドは刺激性の気体で、その40%水溶液をホルマリンという。ホルマリンは、消毒剤・防腐剤や合成樹脂の原料に用いられる。
・アセトアルデヒド: エタノールをニクロム酸カリウムK2Cr2O7の硫酸酸性溶液で酸化すると得られる。
工業的にはエチレンを酸化して得られる。
反応式 2CH2=CH2 + O2 → 2CH3CHO
ケトン
ケトン基 –CO- をもつ化合物を総称してケトンという。
命名: アセトンは慣用名、その他は-CO-(ケトン基)に結合している炭化水素基をアルファベット順に並べて、最後 に「ケトン」と付ける。もし、アセトン を命名するならジメチルケトンとなる。
ケトンの製法
第二級アルコールを酸化すると、一般にケトンを生成する。ケトンはアルデヒドと異なり、これ以上は酸化されない。すなわち、還元性を示さない。
アセトン
アセトンは無色の液体で、有機溶媒として用いられ、有機化合物をよく溶かす。また、水とも任意の割合で溶解するので、非常に便利な溶媒である。
・アセトンの製法
①酢酸カルシウムの熱分解 (CH3COO)2Ca → CaCO3 + CH3-CO-CH3
②プロピレンの酸化 2CH2=CH-CH3 + O2 → 2CH3-CO-CH3
③2-プロパノ-ルの酸化 反応式は上を参照
ヨードホルム反応(反応式は覚える必要はない)
CH3-CO-CH3+3I2+4NaOH → CHI3+CH3COONa+3NaI+3H2O
アセトンの水溶液にヨウ素(I2)と水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を少量加えて温めると、黄色結晶のヨードホルム(CHI3)が生成する反応。ヨードホルム反応を示す化合物は、下の(1)の構造をもつアルコールとその酸化生成物である(2)の構造を持つものだけである。
Rが炭化水素基,水素原子のときのみヨードホルム反応を示す
問題43 ① アセトン ② 1-プロパノ-ル ③ 2-プロパノール ④ メタノール ⑤ エタノール ⑥ ホルムアルデヒドド
⑦ アセトアルデヒ ⑧ ギ酸 ⑨ 酢酸 を次の指示に従って分類せよ。
(1)銀鏡反応を示すもの (2)フェ-リング反応を示すもの (3)ヨードホルム反応を示すもの
①~⑦を構造式にしてみればよい。
(1), (2)は構造中にアルデヒド基 –CHO をもつもの。 ⑥,⑦,⑧
(ギ酸は構造中に-CHOがあるので還元性があり、銀鏡反応を示す。しかし、他のアルデヒドと同条件でフェーリング反応は示さないという事実がある。)
(3)は上に示した構造をもつもの。 ①,③,⑤,⑦