1)反応熱
化学反応に伴って、出入する熱のことを反応熱という。また熱を発生する反応を発熱反応、熱を吸収する反応を吸熱反応という。
(例) 炭素(黒鉛)1molを燃焼すると349kJの熱が発生する。
反応式 C + O2 → CO2
2)熱化学方程式
化学反応に伴って出入する熱量を明示した化学反応式を熱化学方程式という。
(例) 「炭素(黒鉛)1molを燃焼すると349kJの熱が発生する」この反応を熱化学方程式で表すと次のようになる。
3)いろいろな反応熱
以下の反応熱については、その定義をしっかり理解し、覚える必要がある。
a)燃焼熱・・・物質1molが完全に燃焼するときに発生する熱
ああああ↓
O2と反応して、CO2とH2Oを生成する。
(例)エタンC2H6の燃焼熱 1561kJ/mol
↓
1molあたりのkJ
エタン1molの燃焼だから、方程式では、エタンの係数を1にする。ほかの係数が分数になっても構わない。
C2H6の係数で1molになっているので、反応熱はkJのみ、/molは不要
C2H6 + O2 = CO2 + H2O(液) + 1561kJ
b)生成熱・・・化合物1molが、成分元素の単体から生成するときに発生または吸収する熱。
(例)水の生成熱 286 kJ/mol
水H2Oの成分元素はHとO ・・・ HとO単体であるH2とO2からH2Oをつくる。
H2Oの係数を1にする。
H2 + O2 = H2O(液) + 286kJ
c)溶解熱・・・物質1molを多量の溶媒に溶かしたときに発生または吸収する熱。
(例)塩化ナトリウムの水に対する溶解熱 -3.88 kJ/mol
NaCl + aq = NaClaq -3.88kJ
+aq の意味 : 多量の水に溶解する NaClaq の意味 : NaClの水溶液
e)中和熱・・・酸と塩基が中和反応するときに発生する熱
問題15 次の反応熱を表す熱化学方程式を書け。
①アンモニアの生成熱は46.1kJ/molである。N2 +H2 = NH3 + 46.1kJ
②二酸化炭素の生成熱は394kJ/molである。 C(黒鉛) + O2 = CO2 + 394kJ
③メタノール(CH3OH)(液 )の燃焼熱は1368 kJ/molである。 CH3OH + O2 = CO2 + 2H2O(液) + 1368kJ
④塩化カリウムの水への溶解熱は-17.2 kJ/molである。 KCl +aq = KClaq -17.2kJ
⑤水の蒸発熱は41 kJ/molである。 H2O(液) = H2O(気) -41kJ
問題16
①標準状態で2.24 lのメタンを完全燃焼させると89.3KJの熱が発生する。メタンの燃焼を熱化学方程式で示せ。
熱化学方程式では、その物質1molあたりの反応熱でしめす。つまり、与えられた数値からメタン1molあたりの燃焼熱を求める。
メタン22.4 lで1mol だから、2.24 lは0.100mol。つまり、メタン0.100molを燃焼すると、89.3kJ。
メタン1molでは、893kJとなる。
熱化学方程式 CH4 + 2O2 = CO2 + 2H2O + 893kJ
②水酸化ナトリウム2.0gを水100gに入れて溶解させると、溶液の温度は5.1℃上昇した。水酸化ナトリウムの溶解熱を求めよ。ただし、溶液の比熱を4.2J/(g・K)とする(NaOH = 40)。
まず、水の温度上昇から熱量を計算する。比熱は単位から、1gのものを、1K(ここでは℃)上昇させるのに必要な熱量[J]ということになる。
上昇した温度 = 5.1[℃], 水の量 = 100[g]
発熱量 = 4.2 × 5.1 × 100 [J] = 4.2 × 5.1 × 100 × [kJ]
これは、水酸化ナトリウム2.0gの溶解熱である。次に1mol分の熱量を求める。NaOHは40g = 1molだから、
4.2 × 5.1 × 100 × ×≒ 43 [kJ/mol]
4)ヘスの法則(総熱量保存の法則)
「化学反応において、反応物質と生成物質とが同じであれば、途中の反応経路に関係なく、発生または吸収される熱量(反応熱)は一定である。」
(例) 固体の水酸化ナトリウムと塩酸(HClの水溶液)との反応をつぎの2つの経路で考える。
[経路1] 固体の水酸化ナトリウムNaOH1molを塩酸(1molのHClを含む水溶液)と反応させると101kJの発熱である。
NaOH(固) + HClaq = NaClaq + H2O + 101kJ ・・・ ①
[経路2] 固体の水酸化ナトリウムNaOH1molを水に溶かして水酸化ナトリウム水溶液をつくると、45kJの発熱である。(NaOHの溶解熱)
NaOH(固) + aq = NaOHaq + 45kJ ・・・ ②
さらに、その水溶液に、塩酸(1molのHClを含む水溶液)を加えると、56kJの発熱である。
NaOHaq + HClaq = NaClaq + H2O + 56kJ ・・・ ③
よって、②と③の反応熱を加えると、①の反応熱になる(②+③=①)。すなわち、反応経路が異なっても、最初と最後の状態が同じならば、反応熱は等しい。また、②と③の熱化学方程式を加えると、①の熱化学方程式になる。
NaOH(固) + aq = NaOHaq ああ+ 45kJ ・・・ ②
+) NaOHaq + HClaq = NaClaq + H2O + 56kJ ・・・ ③
ああ
あNaOH(固) + HClaq = NaClaq + H2O + 101kJ ・・・ ①
これを図にすると次のようになる。
ヘスの法則の応用
問題17
炭素(黒鉛)および水素の燃焼熱は、それぞれ394KJ/mol,286KJ/molである。また、プロパンC3H8の生成熱は、103KJ/molである。プロパンの燃焼熱を求めよ。
プロパンの燃焼熱をQkJ/molとして、プロパンの燃焼の熱化学方程式を立てる。
C3H8 + 5O2 = 3CO2 + 4H2O(液) ・・・A
与えられている炭素,水素の燃焼熱およびプロパンの生成熱を用いて、それぞれの熱化学方程式を立てる。
C(黒鉛) + O2 = CO2 + 394kJ ・・・①
H2 + O2 = H2O(液) + 286kJ ・・・②
3C(黒鉛) + 4H2 = C3H8 + 103kJ ・・・③
①~③を連立させて、Aをつくり、反応熱を求める。(①~③は一度使えばよい)
・C3H8はAの左辺と③の右辺にあり、係数はともに1なので③を用いてAをつくるには、-③
・O2は①と②の2つにまたがっているので、無視すればよい。(他で①と②を使えば、自動的にO2は処理される)
・CO2はAの右辺に3つ、①右辺に1つあるので、①を用いてAをつくるには、+①×3
・H2O(液)はAの右辺に4つ、②右辺に1つあるので、②を用いてAをつくるには、+②×4
つまり、 A=①×3+②×4-③ より、Q= 394×3 + 286×4 – 103 = 2223 [kJ/mol]
5)結合エネルギー
結合エネルギー
気体分子内の2原子間の共有結合を切り離すのに必要な結合1molあたりのエネルギーを結合エネルギーという。(単位:kJ/mol)
(例)H-Hの結合エネルギー 432kJ/mol
H2 = 2H – 432kJ
意味 ・・・ H2分子(H-H)の結合を切って、水素原子(2H)にするのに要するのに必要なエネルギーが1モルあたり432kJである。
(表)結合エネルギー(kJ/mol)
H-H |
436 |
H-Cl |
432 |
C-Cl |
325 |
C-C(ダイヤモンド) |
357 |
C-H |
413 |
H-F |
568 |
O=O |
494 |
C-C(黒鉛) |
331 |
O-H |
463 |
Cl-Cl |
243 |
C=O |
804 |
C=C |
590 |
N-H |
390 |
F-F |
158 |
N≡N |
945 |
C≡C |
810 |
結合エネルギーと反応熱
分子を構成している分子間の結合エネルギーが分かっていると、気体状態において分子が反応するときの反応熱を求めることができる。
注意)結合エネルギーは物質が気体の状態のときでないと使うことができない。
(例)HClの生成熱を上の結合エネルギー(表)を用いて求めよ。
熱化学方程式 |
1 |
H2 |
+ |
1 |
Cl2 |
= HCl + QkJ・・・ (A) |
2 |
2 |
(解法1)
熱化学方程式を連立させて求める。 結合エネルギーは方程式の右辺に付けるとき「-」になることに注意。
H2 = 2H – 436kJ ・・・ (1)Cl2 = 2Cl – 243kJ ・・・ (2)HCl = H + Cl – 432kJ ・・・ (3)
(A) = (1)× |
1 |
+ (2)× |
1 |
– (3) より、 |
2 |
2 |
Q = (-436)× |
1 |
+(-243)× |
1 |
– (432) = 92.5[kJ/mol] |
2 |
2 |
(解法2)
次の関係式を利用する。
反応熱=(生成物の結合エネルギーの総和)-(反応物の結合エネルギーの総和)
反応熱= |
HClの結合 エネルギー |
- |
H2の結合 エネルギー |
× |
1 |
+ |
Cl2の結合 エネルギー |
× |
1 |
2 |
2 |
注意)(A)の方程式を移行させて、
反応熱=(反応物の結合エネルギーの総和)-(生成物の結合エネルギーの総和)にしないように。
問題
①
次の熱化学方程式を用いて、N≡Nの結合エネルギーを求めよ。ただし、H-H,N-Hの結合エネルギーはそれぞれ、436 kJ/mol,390kJ/moとする。l
熱化学方程式 N2 + 3H2 = 2NH3 + 92.2kJ
N≡Nの結合エネルギーをx kJ/molとし、反応熱=(生成物の結合エネルギーの総和)-(反応物の結合エネルギーの総和)を利用する。
生成物の結合エネルギーの総和
NH3の中には、N-Hの結合が3つあるので、NH3の結合エネルギーの総和は、390×3kJ/mol。 係数が2なので、390×3×2kJ。
反応物の結合エネルギーの総和
N2の結合エネルギー + H2の結合エネルギー×3 = x + 436×3 kJ。
つまり、 92.2 = 390×3×2 –( x + 436×3) , x =939.8 ≒ 940 [kJ/mol]
②
H2O(液)の生成熱を求めよ。ただし、H-H,O=O,H-Oの結合エネルギーはそれぞれ、436kJ/mol,494kJ/mol,463kJ/molである。また、水の蒸発熱は41kJ/molである。
熱化学方程式H2 + |
1 |
O2 = H2O(液) + Q1kJ・・・(1) |
2 |
結合エネルギーは分子が、気体の状態のときでなと使えない。そこで、一度、H2O(気)の生成熱を求めて、H2O(液) にする。
熱化学方程式H2 + |
1 |
O2 = H2O(気) + Q2kJ ・・・(2) |
2 |
反応熱=(生成物の結合エネルギーの総和)-(反応物の結合エネルギーの総和)より、生成物の結合エネルギー H2OにはH-Oが2つあるので、463×2[kJ]
反応物の結合エネルギー 436 + 494× |
1 |
[kJ] |
2 |
Q2 = 463 × 2 – ( 436 + 494 × |
1 |
) = 243[kJ] |
2 |
水の生成熱は41kJ/molなので、H2O(液) = H2O(気) – 41kJ ・・・(3)
(1) = (2)-(3) より、 Q1 = 243 – (-41) = 284 [kJ/mol]
6)化学反応と光
化学反応は熱エネルギーを与えると起こることが多いが、光エネルギーによって起こる場合もある。例えば、水素H2と塩素Cl2は強い光の存在下で爆発的に反応する。このように光エネルギーによって起こる化学反応を光化学反応という。
発熱反応のように化学反応が起こるときに物質が熱を放出するの同様に、光を発する反応がある。この発光を化学発光または化学ルミネセンスという。化学発光の例としては、ルミノール反応がある。ルミノールは酸化されるとすると発光する物質で、血痕の検出にも使われている。これは、血液中のヘム(鉄の錯体)によって酸化が促進され発光する。
その他、写真のフィルムには臭化銀AgBrが使われていて、光によってAg+がAgに変化することによって黒くなる。植物の光合成も光化学反応ひとつである。