1)酸化と還元の定義
酸素の授受のよる定義
酸化とは「物質が酸素と化合する」というのが元来の意味である。例えば、銅粉を空気中で熱すると黒色の酸化銅(Ⅱ)になる。
2Cu + O2 → 2CuO ・・・ ①
このように、酸素と化合して酸化物になる反応を酸化という。
還元というのは、「酸化されたものが元に戻る」ということで、酸素を失うことである。例えば、酸化銅(Ⅱ)に乾いた水素ガスを送りながら加熱すると、赤色の銅が得られる。
CuO + H2 → Cu + H2O ・・・ ②
このように、酸化物が酸素を失う反応を還元という。
水素の授受による定義
硫化水素H2Sを不完全燃焼(十分に酸素が無い条件での燃焼)させると次のような反応が起こる。
H2S + O2 → S + H2O・・・③
この反応は、硫化水素と酸素との反応だから、硫化水素の酸化であるが、硫化水素が水素原子Hを失う反応と言うこともできる。つまり、水素原子を失う反応を酸化、逆に水素原子を得る反応を還元と酸化・還元を定義することができる。
電子の授受による定義
例えば、①の反応 2Cu + O2 → 2CuO で、CuOはCu2+とO2-が結合したイオンからなる化合物である。つまり、Cuは酸化されて、Cu2+に変化している。
Cu → Cu2+ + 2e– (e–は電子を表す)
つまり、電子を失う反応が酸化、逆に電子を得る反応が還元である。
酸化還元反応
酸化と還元は同時に起こり、これを酸化還元反応という。②の反応が分かりやすい。
2)酸化数
1)の①~③反応は簡単な反応で、酸素,水素および電子授受で酸化・還元が説明できるが、次の反応はどうだろうか?
2KMnO4 + 5H2C2O4 + 3H2SO4 → K2SO4 + 2MnSO4 + 10CO2 + 8H2O
この反応も酸化・還元反応である。この反応を考えるには次に説明する「酸化数」という概念が必要になる。
酸化数とは
単体・化合物・イオンの中で、各原子が基準の状態に比べて、電子が何個多いか、少ないかを示した数を酸化数という。電子はマイナスの粒子なので、電子が過剰にあれば酸化数は-、電子が不足していれば酸化数は+となる。
イオンからなる物質(陰イオンと陽イオンが結合した物質)の場合
この場合、原子間での電子の授受がはっきりしているので、そのイオンの価数を酸化数とすればよい。
(例)NaCl Na+とCl–からなるので、NaCl中の原子の酸化数は
Na = +1,Cl = -1
CuO Cu2+とO2-からなるので、CuO中の原子の酸化数は
Cu = +2,O = -2
CaCl2 Ca2+とCl–からなるので、CaCl2中の原子の酸化数は
Ca = +2,Cl = -1
☆ 酸化数を示すとき、「+」は省略しないように!!
分子からなる物質(非金属元素どうしが結合した物質)、および原子からなる物質の場合
この場合、原子間での電子の授受がはっきりしていない。そこで、次の手順で酸化数を求める。
・単体(1種類の元素からなる物質)中の原子の酸化数は0である。
(例)Cl2 Cl2は単体なので、Cl2中のCl原子の酸化数は0
O2 Cl2は単体なので、O2中のCl原子の酸化数は0
C Cは単体なので、この場合のCの酸化数は0
Fe Feは単体なので、この場合のFeの酸化数は0
・化合物中の各原子の酸化数の総和は0である。
(基準:H = +1,O = -2とする)
(例)HF Fの酸化数をxとすると、総和は0だから、
(+1) + x = 0, x = -1
SO2 Sの酸化数をxとすると、総和は0だから、
x + (-2)×2 = 0, x = +4
H2SO4 Sの酸化数をxとすると、総和は0だから、
(+1)×2 + x + (-2)×4 = 0, x = +6
・イオンでは、イオンを構成している原子の酸化数の総和は、そのイオンの価数に等しい。
(基準:H = +1,O = -2とする)
(例)Na+ Na+は単原子イオン(1種類の原子でできているイオン)で、酸化数そのイオンの
価数に等しいので、Naの酸化数はそのまま+1
S2- S2-は単原子イオンで、酸化数そのイオンの価数に等しいので、Sの酸化数はそ
のまま-2
CO32- CO32-は多原子イオン(2種類以上の原子でできているイオン)で、Fの酸化数を
xとすると、各原子の酸化数の総和は、そのイオンの価数に等しいから、
x + (-2)×3 = -2, x = +4
MnO4- MnO4-は多原子イオンで、Mnの酸化数をxとすると、各原子の酸化数の総和は、
そのイオンの価数に等しいから、
x + (-2)×4 = -1, x = +7
問題 次の単体、化合物、イオンについて、色を付けた原子の酸化数を求めよ。
①NH3 ②HNO3 ③N2 ④ SO42-
⑤CuCl2 ⑥Cr2O72- ⑦H2O2 ⑧H2C2O4
⑨Ag ⑩Al3+ ⑪Fe(NO3)3
①NH3 分子からなる物質だから、Nの酸化数をxとすると、化合物全体で0だから、
x + (+1)×3 = 0, x = -3
②HNO3 分子からなる物質だから、の酸化数をxとすると、化合物全体で0だから、
(+1) + x + (-2)×3 = 0, x = + 5
③N2 単体だから0
④SO42- イオンだから、Sの酸化数をxとすると、各原子の酸化数の総和は、
そのイオンの価数に等しいから、
x + (-2)×4 = -2, x = +6
⑤CuCl2 イオンからなる物質だから、電離させて生じるイオンの価数が酸化数
Cu2+ + 2Cl- だから、Cuの酸化数は+2
⑥Cr2O72- イオンだから、Sの酸化数をxとすると、各原子の酸化数の総和は、
そのイオンの価数に等しいから、
x×2 + (-2)×7 = -2, x = +6
⑦H2O2 分子からなる物質だから、Oの酸化数をxとすると、化合物全体で0だから、
(+1)×2 + x×2 = 0, x = -1
☆ H2O2のOは-1になる(通常、Oは-2)(要注意)
⑧H2C2O4 分子からなる物質だから、Oの酸化数をxとすると、化合物全体で0だから、
(+1)×2 + x×2 + (-2)×4,x = +3
⑨Ag 単体だから0
⑩Al3+ イオンだから、価数が酸化数なので+3
⑪Fe(NO3)3 イオンからなる物質だから、電離させて生じるイオンの価数が酸化数。
Fe3+ + 3NO3– だからFeの酸化数は+3
3)酸化数と酸化還元反応
これまでに扱ってきた1)の②の酸化還元反応を、酸化数とあわせて考えよう。
CuO + H2 → Cu + H2O
+2 0 0 +1
したがって、酸化還元反応は酸化数の増減で説明できる。また、酸化還元反応をまとめると次の表になる。
|
酸素原子 |
水素原子 |
電子 |
酸化数 |
酸化された |
化合 |
失う |
失う |
増加 |
還元された |
失う |
化合 |
得る |
減少 |
(注)反応の前後で酸化数が変わらない反応は酸化還元反応ではない。
問題 次の反応のうち、酸化還元反応であるものはどれか。
① MnO2 + 4HCl → MnCl2 + Cl2 + 2H2O
② 2KI + H2O2 → I2 + 2KOH
③ CuSO4 + H2S → CuS + H2SO4
④ 2MnO4- +6H+ + 5H2O2 → 2Mn2+ + 8H2O + 5O2
反応式中の元素の酸化数が、反応前後で変化しているかを調べる。(1つでも変化していれば酸化還元反応)
① MnO2 + 4HCl → MnCl2 + Cl2 + 2H2O (Mnは還元、Clは酸化されている )
+4 -1 +2 0
② 2KI + H2O2 → I2 + 2KOH (Iは酸化、Oは還元されている)
-1 -1 0 -2
③ CuSO4 + H2S → CuS + H2SO4 (変化なし。酸化還元反応ではない)
+2 -2 +2 -2
④ 2MnO4- + 6H+ 5H2O2 → 2Mn2+ + 8H2O + 5O2 (Mnは還元、Oは酸化されてる)
+7 -1 +2 0
4)酸化剤と還元剤
酸化剤
酸化還元反応において、相手を酸化する物質のことで、自分自身は還元される。相手から電子を受け取ることになるので、酸化数は減少する。
還元剤
酸化還元反応において、相手を還元する物質のことで、自分自身は酸化される。相手に電子を与えることになるので、酸化数は増加する。
酸化剤,還元剤の半反応式
例えば下のような反応式で説明すると、次のようになる。
2I– + Cl2 → 2Cl– + I2
-1 0 -1 0
この場合、酸化数の増減から、
Iは酸化数が増加しているので、酸化されている。つまり、I–が還元剤、
Clは酸化数が減少しているので、還元されている。つまり、Cl2が酸化剤。
このように、酸化剤は還元されるのだから、電子を受け取り易い物質として定義でき、上の例では塩素Cl2は次のように電子を受け取る。
Cl2 + e- → 2Cl-
上式のように、酸化剤が電子を受けるときの様子を表したときの式を酸化剤の半反応式という。
同様に、還元剤は酸化されるのだから、電子を放出し易い物質として定義できる。上の例ではヨウ化物イオンI-は次式のように電子を放出する。
2I- → I2 + e-
この式は、還元剤の半反応式と呼ばれる。
代表的な酸化剤,還元剤
表1:酸化剤の半反応式 ( ・・・ を覚える) |
||
酸化剤 |
化学式 |
半反応式 |
酸素 |
O2 |
O2 + 4H+ + 4e- → 2H2O |
オゾン |
O3 |
O3 + 2H+ + 2e- → O2 + H2O |
過酸化水素 |
H2O2 |
H2O2 + 2H+ + 2e- → 2H2O |
ハロゲン |
X2(Cl2など) |
X2 + 2e- → 2 X- |
過マンガン酸カリウム |
KMnO4 |
MnO4- + 8H+ + 5e- → Mn2+ +4H2O |
ニクロム酸カリウム |
K2Cr2O7 |
Cr2O72- + 14H+ + 6e- → 2Cr3+ + 7H2O |
希硝酸 |
HNO3 |
HNO3 +3H++3e- → 2H2O+ NO |
濃硝酸 |
HNO3 |
HNO3 + H++e- → H2O + NO2 |
熱濃硫酸 |
H2SO4 |
H2SO4 + 2H+ + 2e- → 2H2O + SO2 |
二酸化硫黄 |
SO2 |
SO2 + 4H+ +4e-→ S + 2H2O |
酸化マンガン(Ⅳ) |
MnO2 |
MnO2 + 4H+ + 2e- → Mn2+ + 2H2O |
表2:還元剤の半反応式 ( /// を覚える) |
||
水素 |
H2 |
H2 → 2H+ + 2e- |
ナトリウム |
Na |
Na → Na+ + e- |
硫化水素 |
H2S |
H2S → 2H+ + S + 2e- |
二酸化硫黄 |
SO2 |
SO2 +2H2O→ SO42- +4H+ +2e- |
過酸化水素 |
H2O2 |
H2O2 → 2H+ + O2 + 2e- |
シュウ酸 |
H2C2O4 |
H2C2O4 → 2H+ + 2CO2 + 2e- |
硫酸鉄(Ⅱ) |
FeSO4 |
Fe2+ → Fe3+ + e- |
塩化スズ(Ⅱ) |
SnCl2 |
Sn2+ → Sn4+ + 2e- |
過酸化水素H2O2や二硫化硫黄SO2は酸化剤,還元剤の両方にある。これは、反応する相手によって、酸化剤,還元剤のどちらにもなるからである。
実際に酸化・還元に関与する部分だけが半反応式になる。例えば、過マンガン酸カリウムKMnO4はMnO4–だけで、K+は半反応式に入らない。
酸化還元反応のつくり方
酸化還元反応式は、酸化剤と還元剤の半反応式を合わせることによってつくることができるので、代表的な酸化剤と還元剤の半反応式はいつでも書けるようにしておく必要がある。
a)酸化剤の半反応式のつくり方
(例)二酸化硫黄・・・( SO2 → S )を覚えておく。
(ⅰ)O,H原子以外の原子の数を合わせる・・・ この場合はこのまま( SO2 → S )
(ⅱ)両辺のO原子を合わせる ・・・ H2Oを使って合わせる。
( SO2 → S + 2H2O )
(ⅲ)両辺のH原子の数を合わせる ・・・ H+を使って合わせる。
( SO2 + 4H+ → S + 2H2O )
(ⅳ)両辺の電荷を合わせる ・・・ e–を使って合わせる。
( SO2 + 4H+ + 4e– → S + 2H2O ) ・・・ ①
b)還元剤の半反応式のつくり方・・・つくり方は酸化剤と同じ。
(例)硫化水素・・・( H2S → S )を覚えておく。
(ⅰ) H2S → S
(ⅱ) H2S → S
(ⅲ) H2S → S + 2H+
(ⅳ) H2S → S + 2H+ + 2e– ・・・②
c)酸化還元反応のつくり方
酸化還元反応では、還元剤が与える電子の数と酸化剤が受け取る電子の数が等しいので、酸化剤の半反応式や還元剤の半反応式を何倍かして加え電子が消去されるようにする。上の二酸化硫黄(酸化剤)と硫化水素(還元剤)との酸化還元反応は下のようになる。
① + ②×2
SO2 + 4H+ + 4e– → S + 2H2O ・・・ ①
2H2S → 2S + 4H+ + 4e– ・・・ ②×2
+)
SO2 + 2H2S → 3S + 2H2O
問題 硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液に過酸化水素を反応させたときのイオン反応式を書け。
酸化剤と還元剤は何かを考える。この場合、過マンガン酸カリウムが代表的な酸化剤なので、過酸化水素は還元剤になる。また、文頭の「硫酸酸性」はここでは気にしなくてよい。両者の半反応式をつくり、合わせる。
2MnO4– + 5H2O2 + 6H+ → 2Mn2+ + 5O2 + 8H2O
5)酸化還元滴定
酸化還元反応を利用して、酸化剤や還元剤の定量(濃度を求めること)を行うことができる。このことを酸化還元適定という。
問題 0.10mol/Lのシュウ酸20mLを硫酸酸性とした溶液に過マンガン酸カリウム溶液を加え、過不足なく反応するのに40mL 要した。過マンガン酸カリウムの濃度を求めよ。
酸化剤・還元剤の半反応式をつくり、合わせてイオン反応式をつくる。この反応式の係数の比(モル数の比)を利用する。
酸化剤 ・・・ 過マンガン酸カリウム
(半反応式) MnO4- + 8H+ + 5e- → Mn2+ +4H2O ・・・ ①
還元剤 ・・・ シュウ酸
(半反応式) H2C2O4 → 2H+ + 2CO2 + 2e- ・・・ ②
①×2+②×5より 2MnO4– + 5H2C2O4 + 6H+ → 2Mn2+ + 8H2O + 10CO2
つまり 過マンガン酸カリウム : シュウ酸 = 2mol : 5mol
過マンガン酸カリウムの濃度をx mol/Lとすると、40ml (0.040l) だから、0.040×x [mol]
シュウ酸は0.10mol/Lの20mL (0.020L) だから、0.10×0.020 [mol]
0.040×x : 0.10×0.020 = 2 : 5, x = 0.020[mol/L]