この page に於いては係数体 (その成分が値を採っても良い範囲) は R である。 即ち A = (ajk) とするとき ajk ∈ R である (何故こんなことを断るかというと, 普通 C の時は内積の定義が違うからである)。
行列の積のところで書いたように行ベクトルと列ベクトルの積は殆どベクトルの内積である。 もう一度書くと
(a11 a12) | ( | b11 | ) | = a11b11 + a12b21. |
b21 |
これを vectors の内積として正当化するためには, 行ベクトルを列ベクトルに, 列ベクトルを行ベクトルに対応させる写像が必要である。 そこで
A = (ajk) → tA = (akj)
即ち
A = | ( | a11 a12 | ) | → tA = | ( | a11 a21 | ) |
a21 a22 | a12 a22 |
a = | ( | a11 | ) | → ta = (a11 a12) |
a21 |
t(a11 a12) = | ( | a11 | ) |
a12 |
を行列 A (又は vector a) の転置変換 transpose と呼び, tA を A の転置行列, ta を列ベクトル a の転置行ベクトルと呼ぶ (当然行ベクトルの転置列ベクトルというのもある)。 このようにすると平面ベクトルの内積は, 列ベクトル a, b に対し
a・b = tab
で正当化される。
さて今一次変換を表す行列を A を考え a‘ = Aa 等と書くことにする。 この時
a‘・b‘ = (Aa)・(Ab) = t(Aa)(Ab)
となるので, 転置変換と行列の積の関係を調べておかなくてはならない。
定理
t(A + B) = tA + tB,
t(kA) = ktA, k は scalar,
t(AB) = tBtA,
t(tA) = A.
三番目のもの以外は明らかであろうから, 三番目のものだけ示す。 その為に A = (ajk), B = (bjk) と置くと
AB = | ( | a11b11 + a12b21 a11b12 + a12b22 | ) |
a12b11 + a22b21 a21b12 + a22b22 |
従って
t(AB) = | ( | a11b11 + a12b21 a11b11 + a22b21 | ) |
a11b12 + a12b22 a21b12 + a22b22 |
一方
tBtA = | ( | b11 b21 | )( | a11 a21 | ) | = | ( | a11b11 + a12b21 a11b11 + a22b21 | ) |
b12 b22 | a12 a22 | a11b12 + a12b22 a21b12 + a22b22 |
であるから証明された □
この結果から a‘・b‘ = (Aa)・(Ab) = t(Aa)(Ab) = (tatA)Ab = ta(tAA)b となる。 従ってもしも a‘・b‘ = a・b 言い換えれば, 一次変換 A が内積を変化させないためには
tAA = I2
が必要且つ充分である。 このことは A が正則で, tA = A-1 と同じだから,
tAA = AtA = I2
である。 以下このような行列の性質を調べよう。
A = (ajk) と置こう。 この時
tAA = | ( | a11 a21 | )( | a11 a12 | ) | = | ( | a112 + a212 a11a12 + a21a22 | ) | = | ( | 1 0 | ) |
a12 a22 | a21 a22 | a11a12 + a21a22 a122 + a222 | 0 1 |
であるから即ち A を列ベクトル分解して A = (a1 a2) とするとき
|a1| = |a2| = 1, a1⊥a2
を意味している。 そこで次の定義を置く。
定義
正方行列 T が
tTT = TtT = I2
を満たすとき T を直交行列 orthogonal matrix という。
転置を二回とると元に戻るという性質から, 直交行列は行分解をしても各々の行ベクトルは単位ベクトルでしかも各々直交していることが分かる。
さて, 実際に成分表示するためには上記の (ajk) を実際に解いてみればよいので, 解いてみると
T1 = | ( | cos θ -sin θ | ) | , T2 = | ( | cos θ sin θ | ) |
sin θ cos θ | sin θ -cos θ |
の二種あることが分かる。 det(T1) = 1, det(T2) = -1 である。 従って, O2(R) を二次直交行列全体の作る群 (直交群 orthogonal group という) とすると, その部分群として
O2+(R) = {T ∈ O2(R) | det(T) = 1}
というものがあることが分かる。